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ゆ   き  作者: 気衒い
10/10

10.その少女は全てを失った

「ちょっと!あれ、見てよ!」


「ああ、あの子ね……………一体、何やってるのかしら?」


「ただ、ああやって何もない空間に向かって話しかけているの。それも毎日よ?」


「見たところ、高校生?ぐらいかしら?服もボロボロだし、髪だってボサボサ、身体もあんなに痩せ細って……………親御さんはどうしてるのかしら?」


「……………つい、この間亡くなったばかりよ」


「えっ!?そんなっ!?だったら、周りの大人達がしっかりと支えてあげなきゃ!!」


「親戚は誰も引き取らなかったそうよ」


「そうなの………………じゃあ、せめて私達だけでも家に招いて温かいお茶でも飲ませてあげない?あんなところにいたら、寒くてしょうがないでしょ」


「それは無理よ」


「何で?」


「だって、あの子……………おそらく"雪見病"だもの」


「っ!?」


「それも重度の症状。もう私達がどうにかできるレベルを超えている。だから、周りの人達も見て見ぬ振りを続けているの」


「まさか、両親の死が原因で発症したの?」


「そうでしょうね。雪見病は心に強い衝撃を覚えることで発症する……………あの子は両親と相当、仲が良かったそうだから」


「そう、可哀想に」


「以前は何をするにも明るくて元気だったのが今ではその影も見えない。学校もずっと休んでいるらしいわ」


「そうなの」


「だけど、学校が終わるぐらいの時間になるとああして、外に出てきて、何もない空間に向かってひたすら話しかけているそうよ」


「……………私達にできることは本当に何もないのかしら?」


「こればっかりは本人次第だから……………それに」


「?」


女性は少女の方を見ると一瞬、辛そうな表情になって、こう言った。


「あのままの方が彼女にとっては幸せかもしれないわ。辛くて苦しい現実(いま)を生きていくよりも、ね」


女性の言葉に同意するように頷く女性。それとほぼ同時に離れたところにいた少女の口からはこんな言葉が吐き出されていた。


「ねぇ、ねぇ」






数日後、少女は自宅で倒れて亡くなっていた。死因は凍死だった。傍らには一冊の本があり、明らかに書きかけであった。その最初の一文ではこう綴られていた。"都会で全てを失った男がいた"……………と。ふと本のタイトルが気になった警官が本を閉じて表紙を見てみると、少女の血で真っ赤に染まったタイトルが真っ黒な表紙を侵食しかけていることに気が付いた。瞬間的に恐怖を覚えた警官が思わず、本を放り投げるとそれは床に落ち、風によってページが捲られていった。そうして、最後のページまで到達したところでそこには彼女の血によって、タイトルが刻まれていた………………"ゆきにっき"と。しかし、理由は不明だが、真ん中の三文字は掠れて読みにくく、警官はタイトルを"ゆ   き"と勘違いしてしまったのだった。







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