第四十四話 「解体」
アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ視点6
システィナのいるであろう南のドゥランテ砦に向かうため一旦王都に戻る事に。
しかしビアジーニ教授の指摘が心に突き刺さっていて足取りは重い。システィナを保護する目的がなければ一休みしたいほどだ。それでなくとも今までの各砦を回っていた事で俺も従士バジリオも疲労がたまっている。
とうとう馬車を引き回していた馬までが限界を超えてしまったので近くの人里で一晩泊まる事に。ロクに休めていなかった身体は根が生えたように動かなくなった。
翌朝準備を整えて人里を出発する。その時に目に入って来たのは向こうに聳えるサダン・ダグラド・バィワの三山。しかしその姿ははげ山となっていた。モンスターの巣窟である三山が一夜で岩肌がむき出しになるなんて・・・バジリオが叫ぶ。
「殿下、あれは・・・三山では??」
「一体いつの間に・・・王都に急ぐぞ!!」
◇◇◇
結局俺は王都に行く事なく三山より少し離れた場所から動けなくなっていた。
そこには父上や宰相スタツィオをはじめとした百人余りの将兵達、そしてソァーヴェ親子が息を引き取っていた。どの遺体からも外傷はないが生気もない。皮膚は干からびる寸前といっていい。一体ここで何があったのか?
「ぉ、お前!・・・リベリオじゃないか!しっかりしろ!!」
「ぅ・・・ぅあ・・・バジリ・・・で、殿かぁ・・・」
従士バジリオが抱えているのは俺が王城に連絡役として派遣した同じく従士のリベリオだ。奴の顔は肌つやがなくまるで老人のものとなっていた。
「リベリオ、俺だ・・・ここで一体何があった?父上やソァーヴェ親子までが亡くなっていた・・・」
「殿下・・・し、システィ・・・嬢が・・・スキルを・・・ぁうっ」
それきりリベリオは喋らなくなり、息を引き取った。
◇
王城に戻り次第、残っていた重臣達を集めて現状を分析する。
一週間前より一人の衛生兵がソリアーノ砦にいた母上、王妃を殺した事から反逆を起こして強大なスキルを使いあちこちの砦を陥落させていたらしい。その対応に国防軍は戦力を分散させていたようだ。
その容貌は短い黒髪、リベリオの証言と合わせると恐らくシスティナ本人と思われる。
なぜ仲の良かった母上を殺して反逆など起こしたのか?婚約破棄をした俺への憎しみか、貴族籍を取り上げられ戦地で徴用された恨みか・・・本人がいないここでは推測の域を出ない。
そんな中やって来たのはコルムー、ウィザース、オヴロの周辺三国の使者だった。
「王太子殿、イラツァーサ国王はどちらかな?」
「いい加減我々としても小競り合いは勘弁願いたいものですぞ」
「それとも・・・我ら三国を相手に一勝負してみますかな?」
コイツらはいつになく高圧的な態度で迫ってきている。こちらの事情を知り尽くした上での振舞か。とにかく適当に接待して時間を稼ぐことに。
残存部隊を確認してもソリアーノ・リビオ・バウドの各砦の兵数が激減している。そして王城に残っていた精鋭部隊も先程の三山近くで父上や宰相と共に全員死亡していた。兵力は総数の3分の1に低下している。これでは三国どころか一国にすら敵対出来る状態ではない。
俺は内々で国内の貴族当主と軍の幹部を集める。
「諸卿ならびに諸将よ、わがイラツァーサには現在三国に対抗できる戦力を持ってはいない・・・その上国王陛下も崩御され宰相スタツィオすらも亡くなった現在では到底戦争など出来ない・・・よって降伏する!」
「そ、そんな!お考え直しを、殿下!!」
「今降伏などすれば・・・国土や国民達は三国によって蹂躙されます!!」
「大丈夫だ、問題はない」
苦渋の決断の元、俺はイラツァーサ王国を解体する事とした。
長く続いたイラツァーサ王国の歴史を考えれば不用意に国を捨てる事はできないが、戦う覚悟を持った兵士はともかく無辜の民を戦火に巻き込むわけにはいかない。元々俺自身は侵略戦争には反対だったしな。
王国解体の前に三国の使者達に王家の所有する領地を譲渡する事を告げる。ヤツラは喜色満面の顔で了承するも、渡された領土をどう三分割するか血眼になって協議している。
その間に使者を通さず国内の各貴族の所属国変更の手続きを内々に進める。使者達の面子は潰すことになるが、こうしておけば貴族の領土は各三国のものとなるので不用意に略奪は出来なくなる。当然領地に所属する平民たちも安全だ。
最後にイラツァーサ王国解体の書類にサインをして王城を抜け出す。無責任だがぼやぼやしていると俺の身までが危ない。面子を潰された三国の使者達はとどめとばかりに俺の首を取ろうとするだろうから。
解体手続きの合間に兵士達にシスティナの行方を捜させたものの、ついにその姿を見つけることは出来なかった。王族の権限を使っても人一人見つけられないとは馬鹿な話だ。
ならば自分の手で探し出してやる。父上達を死に追いやった事に対して思う所がない訳ではないが、まずはシスティナには自分の愚行をしっかり謝罪したい。
持つ物は旅に必要な最低限の衣類と護身用の武器、そしてシスティナの描いたイラツァーサ三山の絵画。隣には従士のバジリオ一人のみ。これがイラツァーサの元王太子とは誰も思わないだろう。
俺はイラツァーサを後にした。




