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第四十三話 「対峙」

アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ視点5

 とりあえず憔悴し切ったビアジーニ教授を馬車の中に連れ込み手当てを行う。ここには幸い騎士ながら治療術も行えるバジリオがいる。


 教授はどうやら特殊部隊「マラコダ」に所属していたようだ。ガストーニ砦の司令官に引き渡すと部隊を犠牲にした作戦の口封じとして殺されるかも知れない。


「まさか貴方に助けてもらう事になるとは・・・身体に問題がなければお断りしたいぐらいですよ」

「貴様、殿下に対してなんだその口の利き方は!今すぐ追い出してやっても」

「バジリオ、馬車の外で待機してくれ・・・俺が勝手にした事だ、貴殿が恩義を感じる必要はない」


「ええ、お言葉通りにさせてもらいますよ、元はと言えば宰相閣下に依頼された事からこんな目に遭ったんですから」


 不機嫌なバジリオが引き払ってからビアジーニ教授の経緯を聞くことに。


 宰相スタツィオから依頼された父上の密命がシスティナのスキルの調査だった事。

 彼がシスティナを学園の研究補助に使っていたのはそのためだった事。

 調査したものの到頭正体を解明出来ず投獄された事。

 罪人扱いで特殊部隊「マラコダ」に徴用された事。


 俺の知らない所で父上は用意周到に準備をしていたようだ。こんな綿密な計画から婚約破棄と国外追放でシスティナを救おうなど軽率な行為だった。


 座席に座ったままだがビアジーニ教授に向って深く頭を下げる。


「父上達が貴殿を巻き込んだ事には謝罪する・・・すまなかった、これでは足りないがこの治療を謝罪の一部とさせてもらう」


「僕の事はもういいんですよ・・・許せないのはシスティナ嬢を婚約破棄した事です、貴方があんな事をしなければ彼女は身分を剥奪されず戦地で衛生兵になる事はなかった!」


 ビアジーニ教授の叱責が耳を打つ。しかし俺も負けじと言い返す。


「父上と接していた貴殿なら分かるだろう、結婚をしていたら間違いなく父上はシスティナを軍に所属させていたハズだ・・・俺はシスティナを国防軍で活躍させたくなかった」

「それで婚約破棄を?本人に相談もせずに??」

「そこは至らなかったとしか言えない、だがアイツなら・・・聡明なシスティナなら分かってくれると」


「とんだお考え違いですね、彼女に必要だったのは『信頼』ではなく『愛情』だったのですよ」

「??何を言って・・・」

「恋愛経験ゼロの僕が言うのもおこがましいですが、貴方は彼女に対して優しく接していましたか?もしそうなら婚約破棄など到底受け入れられるものでありませんよ、愛しい殿方だったならばね」


 教授の指摘に全く言い返せない。俺は確かにシスティナに対してぶっきらぼうな口調で目も合わせず接していた。あんな穴だらけの証言による婚約破棄にも反論しなかったではないか。


「ならばどうすれば良かったんだ?女への接し方など俺は知らない」

「助言を聞いてこなかっただけでしょう?貴方には幸いにも母上がいらっしゃる・・・あの方が婚約者に対する貴方の態度に何も言わなかったハズがない」


『システィナにはいつもちゃんと言葉をかけなさい』

『しっかり目を合わせて話すのよ』

『女の子を男と同じに考えないで!』


 そうか、俺はシスティナに面と向かうと話せないでいた。「それはシスティナが好きだからよ、だから優しくしなさい」と母上から何度も教えられてきたのに。


 俺は・・・システィナと向かい合っていなかったのか。今更気づいた自分の行いが腹立たしくあるが全ては自ら行った事、怒りをぶつける事も出来ず口を噤むしかない。



 しばらく無言が続く中ビアジーニ教授は腰を浮かせる。


「手当てをしてもらった事は感謝しますが僕は貴方とは行動出来ません、システィナ嬢を・・・自分の婚約者を無体にした貴方とはね?」

「それについて言い訳はしない、しかし貴殿はどうするつもりだ?」

「さぁ・・・今はまだ考えがありません、しかし姿を隠すのは得意なんでね・・・それでは失礼致します」


 馬車から出た教授を慌てて追いかける。


「最後に一つ教えて欲しい・・・システィナの力は貴殿にも本当に分からなかったのか?理鬼学の最新研究にある7属性でもシスティナの治療スキルは説明出来ないような気がする」


「僕にも明言は出来ません・・・属性で言うのならば彼女の鬼力は未だ正体不明の『念』という事になるでしょう」

「確か『念』とは、他の六つの属性の波長とは違う・・・という事か」

「その通り、そして『何を対象に影響を与える』かはエーゼスキル学園でも未だ不明です・・・これ以上は僕の憶測だけですので控えさせていただきます、それでは」


 そう言ってビアジーニ教授は俺の前から引き取った。ここまで王族の俺に遠慮なく物を言う姿には少なからず怒りを覚えないではない。


 しかし俺には彼を憎むことが出来なかった。

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