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第四十二話 「戦場」

ルカーノ・ビアジーニ視点3

 王城の一件で投獄された僕は特殊部隊「マラコダ」に徴用される事となった。幸い戦闘スキルは心得ているので戦闘に問題はない。

 しかしこの部隊は罪人達で編成されているため、荒くれ者達の中では僕のような学者肌は浮いた存在になってしまう。


「おぅ坊ちゃん、今日もよく無事に生き残れたなぁ?」

「はぁ?実は逃げてるだけじゃね?」

「しかしそれも重要な事、お主やり手だのぉ」


 新入りとしてイジられ戦闘を繰り返す毎日で僕の心は疲れてくる。カヴァルカント学園の教授を勤めた人間がこんな有様になるとは人生とは分からないものだ。


 戦争好きな国王の元での戦争はいつまでも終わらないから、生きていても戦死しても大した違いはない。


 そういえばシスティナ嬢はどうしているのだろうか?もうすでに学園を卒業しているハズだからあの王太子と結婚している頃か。僕の想いは叶わなかったけどどうか幸せになって欲しい。


 僕がシスティナ嬢のスキルの正体を墓場まで持っていけば、あの国王も無理に彼女を軍隊に組み込む事はないだろう。



 色んな砦を転々とする内に東のエスポージト砦で部隊の補給をする事になった。そこには思いもしなかった人物がいた。


 髪を一つ結びにし衛生兵の服に身を包んだシスティナ・ソァーヴェ嬢だ。

 聞けばカヴァルカント学園の卒業記念パーティーの折りに王太子アルカンジェロから婚約破棄されたらしい。僕が投獄されていなければ彼女をこんな目に遭わさずに済んだのに。


「今の私には何もお渡しすることが出来ません、どうかこれをお持ち下さいませ・・・」


 切った髪の房を僕に手渡すシスティナ嬢。その目には涙があふれている。

 彼女の髪を失った痛みを思うと申し訳なさが募る。


「ぼ、僕は・・・僕こそ何も出来な・・・うぅっ」

「私がお願いする事は・・・教授のご無事だけです、次に会う時も元気なお姿をみせて下さいませ・・・もういいです、隊長様」

「ぁ、ああ・・・よし、行くぞ」


「貴女もどうか・・・ご自愛下さい・・・」


 システィナ嬢は振り返らず去ってしまった。彼女をこんな過酷な世界に放り込んだ王太子に、そして彼女に対して何もできない自分にも怒りが湧いてくる。


 何としても生き残ってやる、それが僕のために綺麗な髪を失わせたシスティナ嬢に対する僕の責務だ。





 ガストーニ砦にて大量のモンスターが発生している報告を受けて僕達マラコダは迎撃命令を受けた。だがあまりにも多勢に無勢、押し切られるのも時間の問題となった。


「防戦準備、防御陣形を敷きモンスターどもを砦に一歩も入れるな!」


 砦の司令官の号令が飛ぶ。それを合図にマラコダ部隊も下がろうとすると後方のガストーニ砦の兵隊達が一斉に槍を突き出して威嚇する。


「我々は作戦上ここを完全防備する!貴隊はそのまま迎撃されたし!!」


 なんて事だ、これじゃ僕らに死ねと言ってるようなモンだ。


「くそが!ガストーニのヤツラめ!!俺達を見殺しにするつもりか・・・だったらここにいる必要は無ぇ!お前ら、逃げるぞ!!」

「「「おっしゃぁあああああ!!!」」」


 マラコダの隊長の檄とともに一目散にその場を逃走する兵士達。よし・・・この機会に僕も!



  ざくぅぅぅっ!!



 突然胸を襲う衝撃が。目の前にはマラコダの兵士が僕の胸にナイフを突き立てていた。


「悪く思うなよ?こんなモンスターどもの中を逃げ切るにゃあ囮がいるんだ・・・あばよっ!」

「ぁぐっ!!」


 ナイフが引き抜かれると同時に倒れ込む。ダメだ・・・もう意識が。


・・・

・・


「ぅ・・・痛てて・・・血が出ている・・・」


 目が覚めると砦の近くにいた。痛みを感じる胸からは血が出ていたものの、思ったより浅手で心臓までは届かなかったようだ。一体どうして?


「ともかく応急処置をしておかないと・・・これは!」


 僕の命を救ってくれたのは・・・システィナ嬢がくれたひと房の髪だった。彼女の髪を胸のあたりに忍ばせておいたんだった。それがクッションとなって深手を負わずに済んだ。


 改めてシスティナ嬢に感謝する。今度は僕が彼女を助け出す番だ。

 持っていた医療具で止血をして包帯を巻き応急処置をしておく。これで少しは動ける。



 一息ついた僕は視力を強化して辺りを見回す。向こうの方にモンスターの群れと戦っているマラコダの兵隊達がいた。僕をナイフで突き刺して逃げ出したヤツラだ。


 どうやら動けなくなった僕よりも急に動き出した兵隊達の方にモンスターの興味が向かったようだ。僕を囮にして逃げ延びようとしたのに却ってモンスターに目を付けられるとは何とも皮肉だ。


 自分を殺して置き去りにしたヤツラを助けに行くほどお人好しじゃない。かと言ってガストーニ砦に戻るわけにもいかない。マラコダを見捨てた証言者がいれば砦の司令官にとってはマイナスでしかなく、迎え入れられた途端に殺されてしまうだろう。



 僕に出来る事、視力の強化でモンスターの索敵と光属性によるカムフラージュ、この2つだ。戦闘はなるべく厳禁にしていく。一人では限界があるからだ。


 とにかく生き延びる事だ。生きてさえいればシスティナ嬢に恩を返すチャンスがあるに違いない。

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