第三十七話 「模索」
アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ視点2
システィナとカヴァルカント学園に通い始める。
彼女は王城からの通学は恐れ多いとの事で学生寮を選んだそうだ。一緒に通学しないので馬車の中で何を話したらいいかという悩みからは解放されたものの、少し寂しい気もする。
俺達2人は入学審査のテストに全問正解だったので三年間通うハズのところを一年で免除される事に。王城での王太子・王太子妃教育と比べれば問題にはならん。
その甲斐あって俺は学園の生徒会の会長に推薦された。
しかしシスティナは何故か学園側の研究のために借り出される事になった。理鬼学に対するやる気と論理的な思考法が評価されたようだが正直気に食わん。
彼女が手伝うのはルカーノ・ビアジーニとかいう若手の教授だからだ。大陸の向こうにあると言われている理鬼学の最高教育研究機関エーゼスキル学園の卒業生との事だが、人の婚約者に手を出さないか気掛かりだ。
システィナは学園で活躍した。いやし過ぎたといってもいい。
ガストーニ砦では治療スキルの使い過ぎで意識を失うし、バィワ山の国防軍との共同作戦では普通科生を統率しつつ、怠けていた妹であるラウレッタ嬢を叱って代わりに治療専科生を見事に指揮していた。
控えめで大人しい態度とは裏腹に王太子妃教育の賜物なのか毅然としていた。まさに一個の指導者としての素質が十分にある。
「うむ、これならアルクと共に戦場に立てるのではないかな?二人で共に戦う姿を見せれば国民達はより力を合わせてくれる事になるであろう!楽しみにしているぞ?」
慰労パーティーでは父上は彼女をそのように褒め上げた。主だった重臣が控えている中でだ。つまりシスティナを完全に軍に取り込み、その神のごとき治療スキルの力を発揮させようというのだろう。
彼女が讃えられるのは誇らしい気分だが、同時にシスティナが力を使い果たすまで軍の命令に従う姿が思い浮かんでくる。あの性格では生真面目に従う事しか出来ないだろう。
◇
「ねぇアルク様ぁ、一緒にお昼ゴハン食べましょうよ?」
「ああ・・・」
生徒会に入ってから一人の女が俺に付きまとって来る。
彼女はラウレッタ・ドゥーカ=ソァーヴェ令嬢。学園では理鬼学の成績がいいらしく治療専科生の中で聖女として活躍しているとの事。
何より信じられないのがシスティナの妹だと言う事。いい加減無作法な振る舞いに追い払いたいが、王太子としてあまり邪険にするわけにもいかん。
あれから二年以上経っていたが・・・ラウレッタ嬢は何一つ変わっていなかった。
―――
システィナが王城で王太子妃教育を受けて半年が経った頃。俺はシスティナの事が知りたくて彼女の実家ルビカント・ドゥーカ=ソァーヴェの屋敷に尋ねた事があった。
本人に聞くのが一番だが俺はアイツを目の前にするとなぜか顔が熱くなりぶっきらぼうに接してしまう。口を開くたびに傷つけそうで怖い。
「まぁまぁ、我が屋敷にようこそおいで下さいましたわ王子様!!システィナの母パトリツィアです!!こちらは妹のラウレッタでございます、挨拶なさい!!」
「ぉ、王子さまぁ・・・」
いかにも媚びを売ってくるような二人の態度が気にくわない。しかし帝王学で学んだ感情を隠す術、微笑を崩すことなく話すぐらいは俺にだってできる。相手がシスティナでなければ、だが。
母親が違うためか二人は全く似ていない。何もかも完璧なシスティナと比べるのも失礼なほど礼儀知らずぶりだ。
システィナは王家が引き取るから問題はないが、こんなのが公爵家の令嬢だと将来は嫁ぎ先、あるいは婿入りですら難儀な事になりそうだ。
―――
ラウレッタ嬢が扱うスキルは出血を固定する「止血」と折れた骨を固定する「接骨」。
これだけだと別段珍しくもないが、彼女はいとも簡単に怪我した人間の治療をやってのける。治療専科生には貴族令嬢が多く人間の血を見ただけで気を失ってしまうから、自然とラウレッタ嬢に活躍の場を与えてしまったのだろう。
システィナは礼儀知らずなラウレッタ嬢を諭しているが全く効き目がない。見た所ラウレッタ嬢は姉の完璧さに劣等感を持っているようだ。むしろシスティナが諭せば諭すほど反発する仕組みになっている。端からみているとまるで血のつながらない義妹を虐げている姉に見えてしま
これだ、完璧なシスティナから粗を探すのは困難だ。だったら周りのものを利用すればいい。これで婚約破棄が出来る。システィナを利用しようとする王家から遠ざけられる!学園の卒業パーティーを使えば王家の権力も及ばない!
「ねぇアルク様ぁ、この娘達私の教科書を隠しただけじゃなくって、私を引きずり降ろしてお姉様に聖女の座を渡そうとするんです・・・叱り飛ばしてくださいよぉ!」
「ぉ、王太子殿下・・・」
「わ、私達何も」
「これには事情があって」
ラウレッタ嬢が俺に引き合わせたのは怯え切っている三人のご令嬢達。治療専科生の聖女を普通科生のシスティナにさせようなんてずいぶん無茶な話だ。
「ご令嬢方・・・ラウレッタ嬢を虐げた罰は軽くはない、しかしこれから俺のいう通りに従ってもらえれば不問としよう!」




