第三十六話 「焦燥」
アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ視点1
「ルビカント・ドゥーカ=ソァーヴェの娘・システィナ・ソァーヴェでございます、どうぞ宜しくお願い致します」
カーテシーにて挨拶をする女の子を見る。母上とメイド以外の女を見たのは初めてだ。こんなに綺麗な女の子が俺の婚約者?
「頭をあげてくれシスティナ、そうカタくならんでも良いぞ・・・なぁ王妃よ」
「ええ、これからは家族となるのですから・・・ねぇアルク?」
「・・・・・・・はい」
ふと婚約者のシスティナと目が合ってしまった。黒い髪は艶やかで目は細く瞳は青くて引き込まれそうだ。左の頬に泣きボクロがあるが却って可愛い顔にしている。
なぜか顔が熱くなって居たたまれなくなった俺は突然部屋を飛び出す。後ろから母上の叱責する声が聞こえてくるがもう止められない。
いくら時間が経っても心臓の音が鳴りやまない、俺の婚約者があんな可愛い娘でいいのかな??
◇
剣術の稽古を終えて廊下を歩いていると中庭でとぼとぼと歩いているシスティナを見つける。どうやら王太子妃教育が辛かったようだ。俺も初めは学問なんて嫌いだったからそのツラさはよく分かる。
「お前、いっつも顔色よくないぞ?ほら、これ食べて元気出せ!」
今まで女の子を励ますどころか、話しかける事すらなかった俺はポケットに隠していたお菓子の包みを渡す。これで夕食まで腹っ減らし決定だ。
これで元気になってくれたらいいけど。
◇
イラツァーサ王国の東部に位置するエスポージト砦に父上と向かう事に。母上やシスティナは王城に残っている。当然だろう、こんな場所に女は連れていけない。
隣国コルムーの侵略兵と戦う砦の兵士達の強さは文句が出ないほど。俺も近い将来ああして戦をしてみたいものだ。
「よぉし、コルムーのヤツラを追いかえしたぞ!準備を整い次第あちらの領土を勝ち取りにいくぞ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉおおおおぅっ!!!」」」
今何て言った?コルムーの領土を勝ち取りに行く??侵攻してきた敵兵を迎撃できたんだからそんなことする必要はないだろ???
「王子様、これは軍務卿のご命令でございまして・・・私の方では何とも」
俺に問い詰められた砦の隊長は困った顔で答える。戦争ってのは敵を迎撃、火の粉を振り払うだけじゃなかったのか??軍務卿はこの場にはいないので父上と二人っきりになった時に聞いてみる。
「アルクよ、これが現実なのだ・・・我が領地にないものは余所から奪う以外にない、そうしなければ我が王国の民衆達を養う事は出来んからな」
国の民を思う悲痛な言葉とは裏腹に父上の楽しそうな顔が忘れられない。この人は心底戦争を楽しんでいる。
では今まで楽しく学んできた剣術や軍学に理鬼学は・・・他国へ略奪するためのものだったのか。この事実に愕然とした。
◇
15歳となりただの王族から王太子となった俺は父上と話し込む。
「いや、システィナの力は素晴らしい!是非とも我がイラツァーサの国防軍で傷ついた兵士達を癒してもらいたいものだ、なあアルク」
「・・・はっ」
不承不承生返事するしかない俺。よりによって自分の婚約者が、あんな可愛らしいシスティナに神のごとき治療スキルが備わっていたとは。
俺のスキルは戦闘向きで一時的に肉体の速度を速めたり触れた相手を少し動けなくする程度。システィナが見せた欠損した肉体を完全に復元するなんて事は到底無理だ。
自分の婚約者が優秀なのは俺としても誇らしい。システィナの方が優れていて王太子はダメだとか言われてもさして気にはならん。
父上はシスティナと一緒にカヴァルカント学園に通学するよう命ずる。理鬼学を学ばせる事で彼女がスキルを使えるようにするためだろう。それはいい、無意識にあんな治療術をするぐらいだ。鬼力をコントロールできないとどんな形で暴走するか分からん。それは彼女にとっても危険だから。
問題なのは父上、現国王アルジェント・リ=イラツァーサの元で彼女が軍務部に組み込まれて軍のため・・・つまり人殺しのために協力させられるという事だ。あんな綺麗なシスティナを人殺しのために働かせるなんて我慢できない!
でも俺の婚約者である限りそれは逃げられない立場だ。だったら俺から婚約破棄をすればいい、これしかシスティナを助ける道はない!!
「父上、どうかお聞き届けを・・・」
「またその話か、お主は一体あのシスティナの何が気にくわないんだ?!」
「・・・アイツは俺に相応しくないです・・・」
度ごとに俺はシスティナとの婚約破棄を父上に願い出たが当然却下されている。身分は公爵家令嬢で控えめで礼儀正しく、王太子妃教育も完璧とあれば破棄する理由は全くない。何より母上とシスティナの仲がいいのも原因の一つだ。
一体どうすればシスティナを自由にしてやれるんだ?




