第三十五話 意志
この砦で静養させてもらって三日が経った頃、向こうからこの場には似つかわしくない気品ある女性が一人やって来る・・・あの方は?
「システィナ・・・システィナではありませんか!!」
私を呼ぶ声は・・・王妃メリッサ様だった。どうしてこんなところに王妃様が?
「ああ、髪が短くなっていたから一目じゃ分からなかったけど・・・間違いない、システィナ・ソァーヴェだわ!」
慌てて駆け寄ってくる王妃様は私の手を取ろうとするが、私は拒否するようにひざまずく。私はもう貴族ではないのだから。
「王妃様、人違いです・・・王太子殿下から国外追放された私は衛生部隊『ルーチア』のドーディチです」
「な、何を言ってるの!貴女は私の娘よ!!システィナには謝罪してもし足りませんがまずは王城に戻りましょう!」
「王妃様・・・私にはもう王城に入る資格などございません」
「ど、どうしてそんな事を・・・ああ、アルクの事で腹を立てているのね?それは当然よ、貴女をこんな目に合わせてしまうなんて!!!貴女がこんな場所にいるってわかったから直接私が迎えに来たのよ!!」
それから王妃様は怒りや悲しみを携えながら弁解を続ける。しかし私の耳には王妃様の言っている事が支離滅裂になって聞こえてくるので内容を掴めない。
「とにかくまずは王城へ戻ります、こんなところでは謝罪も弁解もあったものではありません・・・いいですねシスティナ?」
「・・・承知し」
『名前を失おうが髪を失おうが・・・自分を無くしちゃダメだよ』
ふとジェンマ様の最後の言葉が思い返される。
そう、このまま戻っても私はすでに婚約破棄された身。王妃様は私を悪く扱わないだろうけど、私の帰還を良くは思わない貴族もいるに違いない。
何よりアルカンジェロ殿下とラウレッタの仲睦まじい姿を見せつけられる事になる。もう殿下には愛情がないとは言えそれは苦痛でしかない。
「いいえ、私は王妃様についていく事はできません・・・一度は王族が口にした事をひるがえす事は混乱を招きます、どうかこのまま放っておいて下さい」
「な、何て事を言うの!アルクにはちゃんと言い聞かせるし貴女には王太子妃となってあの子を支えてもらいたいのよ!陛下も貴女の帰還を待ちわびています・・・強情にならないで!」
「そして殿下と再婚約した私は義妹ラウレッタから婚約者を奪った姉、ということになりますわね?今度はお父様達から恨まれる事になります・・・もう私、人から恨まれるのだけはご勘弁したいのです」
「そんな事はこの私がさせない!貴女はアルクのものよ!あのビアジーニとかいう生意気な若造だって片付けたのに」
「えっ・・・」
「貴女、もしかしてあの教授に色目を使われたんじゃないでしょうね?!貴女のスキルを探るために宰相スタツィオを通して命令したのに、あの若造は使命を忘れて事もあろうか貴女に懸想するなんて・・・」
私のスキルを探る?命令?懸想?
「陛下もあんな若造の言葉に踊らされてつい不敬罪で捕縛してしまったから処理に困ってたけど・・・宰相が『マラコダ』に入隊させたからもう死んでいる頃ね?」
陛下?不敬罪?処理?マラコダ?
「実家から冷遇されている貴女にはもう王城しか居場所がないのよ?わがまま言わずに戻ってきてちょうだい!!謝罪なら何回でも何万回でもしてあげるから!!!」
・・・つまりビアジーニ教授は宰相、王妃様か陛下によって殺されたようなもの。いくら王族とは言えこんなことが許されるのだろうか?あの方は殿下と違って最後まで私に気を使ってくれたのに・・・
『自分が欲しいのは何か、自分が何をしたいのか』
そうだ。教授のいた「マラコダ」はガストーニ砦の近くで全滅したと言っていた。でも誰もあの方のご遺体を見た訳じゃない。ひょっとすれば死を免れてどこかに生きていらっしゃるのかも!!
そう思った時、私の中から鬼力があふれ出す。今までと違って緩やかな力だ。
「し、システィナ・・・ぁああ、これは・・・私の手が・・・顔まで・・・うぅっ」
突然倒れ込む王妃様。一瞬駆け寄ろうとしたけど思い留まる。この人を助ければまた望まぬ世界に連れ戻されるかも知れない。少し罪悪感は残るが放っておこう。
「お、王妃様??・・・あれはこの間の・・・出合ぇい!反逆者だ!!」
「「おおぅ!!」」
私の周りを取り囲む20人の兵士達。貴方達まで私を嫌な世界に連れ戻そうとするの?もう人の言う通りに生きるのは嫌になってきた。
私は彼らに警告するつもりで右手を高くあげ鬼力を少し解放する。それだけで兵士達は全員倒れる事に。
鬼力を使っても全く力が減らない。治療スキルの時は「治して」「維持する」から鬼力の減り方が大きかった。
でも今は違う。この力ならなんだって出来そうな気がしてきた。モンスターだって追い払えるはず。
私の行動は私が決める。
行こう、ガストーニ砦に。お慕いしていた教授の生死を確かめるために。
今話をもってシスティナ視点は終わりを迎えます。以後は他者視点で語られます。




