第三十四話 自分
「ふっ!・・・ダメ、鬼力がコントロールできない!!こんな時に・・・」
横たわっている傷だらけのセッテさんを治療術スキルで治そうとする。いつもは出来たスキルが発動出来ない。狼達は肉を深く食いちぎっていて血が後からあふれ出している。
このままじゃ出血多量でセッテさんが死んでしまう。
「はぁはぁ・・・もういいよお嬢さん、これ以上やるとアンタが死んじまう・・・」
息も絶え絶えになっているセッテさんが私を優しく宥めてくれる。私よりこの人の方が何倍も苦しいハズなのに。
自分が何の役にも立てない事が悔しくて涙があふれてくる。
「泣くんじゃないよ、人様に迷惑かけてばっかの女が最後にこんないい娘さんを守る事が出来たんだ・・・これで少しは罪滅ぼしにはなったかもね・・・」
「セッテさん、ごめんなさい・・・私、なにも出来なくて」
「アタシは『ジェンマ』さ、アンタにもあるんだろ?本当の名前・・・冥途への土産に教えてくれないかい?」
セッテ、ジェンマ様の言葉に衝撃を受ける。でもはっきりと答える。
「システィナ・・・システィナ・ソァーヴェです、ジェンマ様」
「はっ・・・家名があるなんてやっぱりお貴族様だったじゃないか・・・システィナ嬢ちゃん、いいかい?名前を失おうが髪を失おうが・・・自分を無くしちゃダメだよ」
「じ、自分を・・・ですか??」
「そうさね・・・難しい事なんてないよ・・・『自分が欲しいのは何か、自分が何をしたいのか』ってのを考えて持っている事さ」
自分が欲しいのは何か、自分が何をしたいのか・・・今まで考えた事すらなかった。私の周りにはいつもお父様や義母に義妹ラウレッタ、陛下に王妃様、王太子アルカンジェロ様・・・彼らの機嫌を見て従う事しか頭になかったから。
「む、難しいです・・・そんな事」
「参ったねぇ、これだからお貴族様は・・・もうアンタの顔が見えなくなってきたよ、手を握っててくれないかい?」
言われるままにジェンマ様の手を握る。どんどん冷たくなっていくのが分かる。もうどうする事もできないなんて。
「ぁたっかいよ・・・ありが・・・システぃ」
それきりジェンマ様は動かなくなってしまった。
「ぅぐ・・・・・うぅっ・・・」
もう貴族じゃないから思いっきり泣き叫んでもいいのにそれが出来ない。マナー教育が染みついて離れない。泣くことが自由にできないのがこんなにつらいなんて。
ジェンマ様の持っていた棒を使って土を掘り起こしご遺体を埋める。簡素な墓にすらならないけど今の私にはこれが限界。最後に墓標の代わりに棒を立てておく。
◇◇◇
夜になってあてもなく森の中をさまよう。もうどうしていいのか分からない。
私には森で過ごす方法も知らないしモンスターを撃退する事も出来ない。
時折このままモンスターに殺されても問題ないようにすら感じる。でもそうすれば私を逃がしてくれた衛生部隊「ルーチア」の隊長達や最後まで守ってくれたジェンマ様の想いを裏切る事になる。
「・・・こいつぁ酷い有様だ・・・あ!生存者か!!おい、隊長を呼んでくるんだ!」
どこかから声が聞こえる。もう身体に力が入らない。そのまま眠ってしまう。
◇
ふと目を覚ますとそこは簡素な部屋だった。寝ているのもベッドではなく粗末なマット。どこかの砦だろうか。とりあえずドアを開けてみる事に。
ドアの際には兵士が立っていた。私を見るなり驚いた声を出す。
「はっ!・・・おい、アンタ目を覚ましたのか!動けるなら俺についてきてくれ!司令官、生存者が目覚めました!」
兵士に言われるままに後をついていく。通された部屋は会議室のようだ。中には司令官と思わしき人物と兵士が数名。
「御苦労、さっそくだが話を聞きたい・・・お前はドゥランテ砦の生き残りか?」
「いえ、私は砦に向かおうとしていた衛生部隊「ルーチア」の者です・・・一介の衛生兵ですがありのままの事を報告致します」
司令官にドゥランテの砦が猿のようなモンスターに占拠されている事を報告する。同席している兵士達もどよめく。
「相分かった、ではその貴重な情報を元に我々で協議を始めよう・・・お前はしばらくこの砦で静養するように」
「承知しました・・・」
会議室を引きとって休んでいた部屋に戻る。案内をしてくれた兵士曰く、ここはソリアーノ砦といってモンスターに占拠されたドゥランテ砦からだと王都よりの砦らしい。
2日前にドゥランテ砦がモンスターの襲撃を受けた報告を聞いて戦闘部隊を率いて参戦するつもりが、砦の入り口で大量の狼モンスターの死骸と衛生兵8名の死体を発見したとの事。その近くでさまよう私を見つけてくれたようだ。
隊長達は私達をかばって亡くなられた。その上ジェンマ様まで命がけで私を助けてくれた。でも貴族の名前を無くした私にどんな価値が残っているというのだろう。
持っていたリュックサックは肩にかけるベルトが切れていた。森の中で知らない間に切ってしまっていたのだろうか。




