第三十二話 訃報
その後一ヵ月間はいくつかの砦を移動して回る事に。私のいる衛生部隊「ルーチア」は兵隊たちの快復ぶりが評価されているらしく、様々な戦地に派遣されている。
そして今は西のフィロガモで活動中。
目の前の重傷者に鬼力を込めていく。お腹に空いた大きな穴が見事に塞がる。治療の終わった頃を見計らって隊長様が私の肩を軽く抑える。
「よし、交代だ!ドーディチの嬢ちゃん、休んでな」
「はぁはぁ、まだ3人目です・・・後4人ぐらいは」
「ったくクソ真面目だな、アンタに倒れられちゃ俺達の士気が下がるっての!」
「ホントだよ!とにかくアンタは自分の身体も大事にするこった、これは上司命令だからね!!」
「承知しました・・・」
衛生部隊の隊長様からセッテさんにまで言われたので下がって休む事に。
この衛生部隊に入った当初、貴族生まれの私は身の回りの事など出来ない事が多く平民出身の兵士達にはよく叱られたものだ。でも一緒に過ごしていると部隊の皆さんがとても良い人達だとわかってきた。
カヴァルカント学園でも平民の方と接した事はあったけど私の身分が邪魔をして深い付き合いをした事が無かった。
『平民などは我ら貴族とは人間が違う、話す価値もない』
とはお父様ルビカントの言葉だ。今までじっくりとお話してきた事はなかったけど、周りの大人達から聞くにお父様は元伯爵家の三男だったとの事。家を継ぐべき長男がいるからあまり領地の事には関わって来なかったのだろうか?逆に、
『平民、特に領民は大切にして接しなさい・・・いつかは貴方を助けてくれるから』
これは母フランカの言葉だ。小さい私をピクニックに連れて行ってくれた時には、領民達から声を掛けられ楽しく過ごしていたのを覚えている。思えばあれは私を楽しませるためだけではなく、領地領民の様子を自分の目で見ていたのだろう。今更ながら母の偉大さを思い知る。
今の私はもう貴族では無い、でも母フランカの信念は見習いたいものだ。
◇◇◇
少し勝手の慣れてきたフィロガモ砦にてゆっくり身体を休めているとけたたましい伝令の声が飛んできた。
「伝令、特殊部隊『マラコダ』がガストーニ砦の防衛線で全滅!一方砦は王国国防軍が加勢したため無事に死守した模様!」
ガストーニ砦・・・特殊部隊のマラコダ・・・それはもしかして!
騒然となっている砦の会議室にノックをして入る。そこには砦の軍幹部が机を中心に議論していた。その中で貴族らしい人が私を叱る。
「なんだ貴様は!今は軍議中だ、部外者は立ち入り禁止だ!!」
「申し訳ありません、ガストーニ砦の特殊部隊の件を教えて頂きたく参りました!伝令の方と話をさせて下さい、お願い致します!!」
「衛生兵の知るところではない!さっさと出て行かないと処罰するぞ!」
私がなおも交渉しようとすると後ろから両肩を抑えられる。衛生部隊「ルーチア」の隊長だ。
「司令官、私の兵が失礼を致しました!この者は私が責任を持って管理しますので・・・」
「早くつまみだせ!それでは軍議を続ける・・・こちらの残存部隊をもって」
隊長に連れられて部屋の外に出た。隊長は宥めすかすようにして言う。
「全く、ここは衛生兵の入るところじゃないぞ?嬢ちゃんが無礼を働けば俺の首だけじゃ済まなくなる」
「ご、ごめんなさい・・・でも私!」
「大丈夫だ、そう思って伝令役からガストーニ砦の事を聞いておいた・・・嬢ちゃんにはかなりキツイ話だぞ?」
「それでも・・・お願いします!」
これより3日前、ガストーニ砦にてモンスターが大量発生した。それを迎撃するべく特殊部隊「マラコダ」が出撃。如何せん勢いの強いモンスター達に砦の正規兵は防御陣を敷いてこれに対処。国防軍の加勢もあって砦が陥落することは無かった。
しかし砦の周りにはモンスターの死骸と特殊部隊の兵隊たちの死体が群がっていて生存者はいなかった。つまりビアジーニ教授も・・・
「大丈夫かい?俺もこんな事でウソや気休めは言いたくないんだ・・・」
「はい・・・大丈夫です」
「俺達のいる場所は戦地だ、自分の知り合いが死んで行くのを嫌になるほど見てきた・・・惨い言い方だがふっ切っておくんだ、でないと次に死ぬのは自分だぞ?悪いが俺は会議に戻らなきゃならねぇ」
隊長は会議室に戻る。その瞬間、足元から力が抜けて座り込んでしまう。
しかし・・・涙が出てこない、教授が戦死したのは悲しいハズなのに・・・そんな私をいつの間にか来ていたセッテさんが支えてくれた。
「お嬢さん・・・アンタ『マラコダ』の連中の話を聞いたんだね?」
「はい・・・でもおかしいんです、あそこにいた私の恩師が亡くなったのに涙が出てこない・・・私、無慈悲な人間なのかしら」
「アンタはそんな人間じゃないよ、悲しむより驚いてるのさ・・・手貸してあげるからしっかり立ちな?休養も仕事の内なんだ」




