第三十一話 再会
「・・・集合だぁぁ!手の空いてるヤツぁ食堂に来い!!」
砦中で響き渡る怒号に目を覚ます。辺りを見ると夕焼けの光が窓から差し込んでいた。
幾分調子の戻った身体を起こして衛生部隊の服に着替える。9歳ぐらいの頃からパーティードレスのような豪華な服以外の着換えは自分でやってきたから問題はない。
慌てて食堂に向かうと・・・みすぼらしい身なりをした兵士達でごった返していた。少しすえた体臭が漂ってくる。
気がつくとセッテさんがそばに来ていた。
「お嬢さん、アンタ起きて大丈夫なのかい?今日は戦はないって言ってただろ?」
「すみません、兵隊さんの呼びかけが聞こえたので・・・この方々は?」
「ああ、コイツラは最前線の最前線で働く特殊部隊『マラコダ』の連中さ・・・移動中にこの砦で物資の補給しにきたんだ、だからアタシらはコイツラの給仕をしなきゃならない・・・大きな声じゃ言えないけど大半は元罪人の連中でね、お嬢様のアンタがいると面倒になりそうだから引っこんでおきな?」
そう言ってセッテさんは慌ただしく厨房に向かって行った。
入ってきた特殊部隊の皆さんは旺盛な食欲を見せて食べまくっている。まるで食事だけが楽しみだと言わんばかりに。
その中で礼儀正しく黙々と食事をされている人が・・・あの方は!!
その場を眺めていた衛生部隊の隊長さんにお願いしてみる事に。
「お?ドーディチの嬢ちゃんじゃないか、身体はもういいのかい?」
「隊長様、どうかあの方とお話させてもらえませんか?」
「ん~奴らとは接触する事自体許されてないんだが・・・嬢ちゃんには重傷者を治してもらってるしなぁ・・・仕方ない、5分間だけだ!立場上俺もつき合うぞ?」
「ありがとうございますっ!」
隊長とともにあの方と向かい合わせの席に座る。変わらず分厚いメガネをかけていらっしゃるけど以前と違って髪型がボサボサになり虚ろな表情をされている。
でも間違いなくビアジーニ教授だった。
「お久しぶりです、教授」
「・・・あ!貴女は・・・そぁー」
「ここではドーディチと呼ばれていますので」
一瞬驚いた顔だったけどお顔が活き活きとされてきた。やっぱり私の知っている教授だ。
「教授のような方がどうしてこんな危険な部隊に・・・」
「僕の事はどうでもいいんです、貴女こそどうして衛生兵など・・・」
他に聞いている人もいるので関係者の名前は伏せた上で、求められるままに婚約破棄騒動を語る。それを聞く教授の顔は怒りに歪む。
「ひどい話だ・・・あの方、いやアイツは婚約者にこんな処置をするなんて・・・僕が学園にいればこんな事には」
「もう済んだ事です、それより教授のお話を」
「僕のは・・・簡単に言えば運が悪かったというか自業自得というか」
「・・・お二人さん悪いが時間だ、それ以上はダメだ」
隊長の警告が冷たく響く。もうそんなに経ってしまったのか。肝心な話が聞けなくて残念だ。ビアジーニ教授にはどうかご無事でいてほしい。そう思った私は。
「隊長様、ナイフをお貸し下さいな」
「一体何を・・・」
怪訝な顔をされながらもナイフを貸してくれる。後ろで一つ結びにしていた髪を掴んでばっさり切る。
「ぉ、おい嬢ちゃん!そいつぁ・・・」
「そぁ・・・システィナ嬢!どうして!!」
「今の私には何もお渡しすることが出来ません、どうかこれをお持ち下さいませ・・・」
ナイフを隊長に返し切った髪の房を教授に手渡す。頭が軽くなったのは今まで感じた事の無い感覚だ。
覚悟を決めて切ったにも関わらず後から涙があふれてくる。こんなに心にくるものだとは考えもしなかった。
私の髪を受け取った教授は涙ながらに訴えてくる。
「ぼ、僕は・・・僕こそ何も出来な・・・うぅっ」
「私がお願いする事は・・・教授のご無事だけです、次に会う時も元気なお姿をみせて下さいませ・・・もういいです、隊長様」
「ぁ、ああ・・・よし、行くぞ」
「貴女もどうか・・・ご自愛下さい・・・」
そんなつぶやきを耳にするも振り返らない。もう一度お顔をみると我慢できずに言ってしまいそうだったから。学園の時では絶対に言えなかった想い。
『私、システィナ・ソァーヴェは・・・いつもお優しいビアジーニ教授をお慕いしておりました』




