第三十話 徴用
カヴァルカント学園の正門前。そこには二台の馬車が停まっていた。
私が馬車に向かおうとするとアンジョラ様が私のトランクケースを持って駆けつけて下さった。卒業式の後は王城に戻る予定だったから荷物をまとめていたのだった。
「システィナ様、お荷物です・・・勝手に取ってきて済みません」
「まぁ、わざわざ持ってきて下さったのですねアンジョラ様・・・何から何までありがとうございます」
「アルカンジェロ殿下のこの仕打ち・・・私は一生忘れる事は出来ません!今は何も出来ないけど・・・必ずシスティナ様の無念を晴らして見せます!!」
気負う彼女をそっと抱きしめる。突然の事でびっくりされたようだ。
「どうかおやめ下さい・・・そんな事より貴女のような方とお知り合いになれて私は光栄でした、それだけで満足です・・・またお会いしましょう!」
「うぅっ・・・システィナ様、どうか・・・どうかお元気で!」
少しの間抱擁した後、私は意を決して馬車に向かう。迎えた兵士が横柄に尋ねてくる。
「ソァーヴェ嬢というのはアンタか?そろそろ出立するぞ、荷物を馬車に運びこむんだ」
「はい、お待たせしました・・・それで私はどの国に行く事になるのでしょうか?コルムー?ウィザース?それともオヴロでございますか?」
「アンタを連れて行くのはそんなトコじゃねぇ・・・外国に出るこたぁねぇよ」
兵士の言葉に耳を疑う。国外追放になるのではなかったのだろうか?
「では一体どちらに??」
「・・・戦場さ」
◇◇◇
「開門!負傷者を運びこめ!!」
「衛生部隊、スキルの準備を・・・12(ドーディチ)!右足無くした重傷者だ、頼む!!」
「はいっ・・・」
イラツァーサ王国の東のエスポージト砦にて負傷兵が運び込まれてくる。
あれからは私はアルカンジェロ殿下の決定-国外追放-ではなく、最前線で戦う部隊の衛生部隊「ルーチア」の衛生兵として徴用された。毎日まいにち負傷者の治療で忙しく重労働だ。
その上服の洗濯に兵隊たちの料理の手伝いまでさせられる事になった。年長者達に叱られながらも一つひとつこなしていく。
そうして婚約破棄騒動から一ヶ月が経っている。衛生部隊の服に身を包み長い髪を一つ結びにする事で以前よりも軽快に動くことが出来る。
しかし却ってこの状況はありがたいかも。婚約者の殿下から婚約破棄された身としてはショックが大きかった。ここでは軍務の多忙さもあって塞ぎこんでいる時間はない。
そしてここでは「システィナ・ソァーヴェ」ではなく何故か「ドーディチ」と呼ばれている。追放された身分だから名前を抹消されたのだろうけど、この番号は徴用された順番なのか本名から取ったのだろうか由来は分からない。
突然説明も聞かされないまま「ドーディチ」呼ばわりされた時は、お母様やご先祖様から頂いた「システィナ・ソァーヴェ」の名前を捨ててしまったようで罪悪感に襲われていた。それも時が経つにつれて薄れていく。慣れというものは怖いもの。
「はぁはぁ・・・つ、次は・・・」
5人の重傷者を治したところで力尽きそうになる。でも欠損している負傷者が3人もいるのでまだ倒れる訳にはいかない。
「おい!もうドーディチが限界だ、後は他のヤツラで対応してくれ!!」
「はぁはぁ・・・構いません、私が・・・あぅっ・・・」
立ちあがった瞬間、私の目の前が暗くなった・・・
◇
「はっ!・・・ベッドの上、か」
「ようやくお目覚めかい?お嬢さん??」
またもや気がつくとベッドの上だった。身体を起こそうとするも力がまるで入らない。ゆったりした動作で私の上半身を支えてくれる年長の女治療士「7(セッテ)」。
ご年齢は四十代ぐらいで目つきが鋭く日に焼けた小麦色の肌を持つふくよかなご体型。そして男性と見間違うかのような短い巻き毛の髪型だ。
「すみません、またスキル使用で倒れてしまってご迷惑を・・・」
「なぁに、誰もアンタがサボってるなんて思っちゃないよ!お陰さまで死にかけのヤツラだって息を吹き返したんだ・・・それに今日は戦も休業日さ、だからコレ食って休んどきな!ってコトだよ・・・ほら」
「いただきます・・・ん」
手渡されたトレイを受け取りシチューをすくったスプーンを口に運ぶ・・・味が全くない。初めて軍隊食なるものを口にした時は思っていたよりも美味しいものだったのにここ数日から味が感じられなくなってしまった。
とは言え食べない事には働く事は出来ない。薬だと思って食べきる事に。
「ごちそうさまでした・・・セッテ様、ありがとうございます」
「よしなよ、様づけなんてさ!そんな呼び方されたら背中がかゆくなっちまうよ!」
「申し訳ありませんセッテさん、ついクセで・・・」
「ホントは敬語もいらないんだけどね・・・それにしてもアタシみたいな不行跡やってきた人間はともかく、どうしてアンタみたいなお嬢さんがこんなところに来たのかねェ??ここは王国の掃溜めだよ!」
「・・・・・・」
蓮っ葉な喋り方だけどセッテさんは私に気遣ってくれる優しい方だ。こんな人から聞かれるとつい話してしまいそうだけど気軽に打ち明けられるモノではない。
「ああっ!気にしない!言えなくて当然さね、アタシだって自慢できる事は何もないさね」
「・・・お気遣いありがとうございます」
「ああもぅ、分かったからそのお嬢様言葉はよしとくれよ!それじゃ今日はしっかり休んでおくんだよ?」
セッテさんはそう言って食事のトレイを引き下げる。食事を済ませると身体の疲れが心地よく感じられる。そのまま再びベッドに横たわり眠る。




