第二十八話「戦略」
アルジェント・リ=イラツァーサ視点
「わが小隊はコルムーの先鋒を打ち破りました!」
「ウィザースの索敵兵を虱潰しに叩きました」
「オヴロの駐屯兵を迎撃!」
「ふむ、大義であった・・・恩賞を取らそう程に」
王城にひっきりなしに報告が入り込んでくる。
我がイラツァーサは領土こそ広いものの未だ人間の手が入らず手つかずの荒野が多い。加えてサダン・ダグラド・バィワの三山からやってくるモンスター共の脅威と戦わなければならない。
その上生産力は特別高い訳では無く特産品もないので他の領地から奪い取らねば国民の暮らしは成り立たない。
故に諸外国コルムー・ウィザース・オヴロの三国とせめぎ合いを行っている。戦争は愚策の中の愚策、と言われるが自分の領地で賄えないものは奪いとる以外にない。
それに我が国の列強たる姿を見せ続けなければ、いづれ国内の貴族達は見切りをつけるに違いない。もはやこの流れを止められるものはいない。
「父上、どうかお聞き届けを・・・」
「またその話か、お主は一体あのシスティナの何が気にくわないんだ?!」
「・・・アイツは俺に相応しくないです・・・」
待ちに待った念願の王子アルカンジェロは余に似て武闘派の性格だ。頭も悪くは無し武技にも長け理鬼学すら使いこなしておる。余の跡取りとしては相応だ。
ただあまりに武闘の面が強過ぎて女への免疫がないというか。選んだ婚約者システィナ・ソァーヴェには優しく接する事が出来ないでいる。
王妃メリッサ曰く『まだ子供』との事だが、いい加減にしてもらわないと貴族達から王太子としての品格が疑われるものだ。
そのシスティナ・ソァーヴェ・・・父親のルビカント・ドゥーカ=ソァーヴェの凡庸さとは似ても似つかないほどの優秀さを持ち、すでに王太子妃教育の教師からほぼ合格済みの判定をもらっている。控え目で大人しい性格なので我を立てず見事にアルクを支えてくれるであろう事は想像に難くない。
更にシスティナはガストーニ砦において神のごとき力を持っている事が判明した。戦闘で失った手足を完全復元させるなど到底信じられる話ではないが、この目で現場を見た以上信じるしかない。
依然文句をのたまうアルクを制してカヴァルカント学園にて理鬼学を習得させる事に。
学園への手続きを終えた宰相フェルモ・ドゥーカ=スタツィオが怪訝な顔で問いかけてくる。
「しかし・・・陛下を疑う訳ではありませんが、あのご令嬢が神のごとき治療術を持つなど信じられませぬ」
「であろうな?ではスタツィオ、その方にはシスティナの治療スキルの正体を探ってもらいたい・・・カヴァルカントの教授に頼めば最適であろう」
「なるほど・・・御意に」
すぐさま行動に移したスタツィオは学園の教授ルカーノ・ビアジーニに依頼したようだ。あの者はこの世界最高峰のエーゼスキル学園の首席卒業生で、我が国から国費留学させたのだから断れる立場にはない。スキル研究にも内密の依頼をするにも良い人選だ。
この国は三山のモンスターどもと諸外国とのせめぎ合いで軍事に事欠かない。当然負傷者も多く肉体を欠損した場合は兵士を引退せざるを得ない。
もしシスティナがスキルを使いこなして再起不能となった負傷兵達を完全復帰させられればこの国から「軍事力の低下」という単語は消え去る事になるだろう。故に我が息子アルクにはシスティナと結ばせ決して手放さないようにさせなければならん。
システィナのスキルが知れ渡っている今、もしあの娘を実家に帰すような事になればルビカントは娘の能力をダシにわが王家に迫ってくるだろうからな。
あのような凡庸な者に王家の保有する大事な領地や爵位をやすやすとくれてやる訳にはいかん。ただでさえ戦果を上げた兵士達への報酬を用意せねばならんのに。




