第二十五話 抑制
カヴァルカント学園の卒業まで後一週間となった。本学の最終試験の結果が張り出される。
最終試験 結果発表
第一位 アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ
第二位 ティト・カナーリ
第三位 アンジョラ・ネローニ
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第九位 システィナ・ソァーヴェ
殿下は見事に第一位だった。そして私は第九位、首席結果を残せなかったけどこれで私が殿下を脅かす事はない。点数を下げるとは言っても下げ過ぎると殿下の婚約者として失格になってしまい、殿下の評判を下げる事になるからだ。
「ソァーヴェ嬢、こちらでしたか」
「これはビアジーニ教授・・・ご機嫌麗しく」
ビアジーニ教授に向かい挨拶をする。この方は私の授業や実習を担当していないので研究の助手がなければほとんど会う事はない。教授は怪訝な表情をして聞いてくる。
「最終テスト・・・残念でしたね、まさか貴女があのような順位だとは信じられません」
「失態をおかしてお恥ずかしい限りです」
「・・・まさかとは思いますが、『彼』に対して便宜を図ったのでは?もしそうであれば学業ではあるまじき行為です」
教授のするどい推測に喉が詰まりそう、でもしっかりとお答えする。
「お買い被りです、私にそこまでの器量は御座いませんので・・・」
「ソァーヴェ嬢、宜しければ研究室で・・・」
相変わらず優しい教授に甘えたくなる、でもそれは許されない。もうすぐ卒業となるのに教授に迷惑をかけたくは無い。
「せっかくですがお断り致します、教授がいち生徒を特別扱いしてはあらぬ疑いを持たれます」
「これはうかつだった・・・では困った事があれば相談に」
「こんなところで何をしている?」
思わずびっくりして振り向くとそこにはアルカンジェロ殿下がいらした。
「これは殿下、ご機嫌麗しく・・・ビアジーニ教授からご教示頂いただけです」
「・・・そうなのか教授?」
殿下のお顔がいつになく厳しい。それより驚いたのがビアジーニ教授の態度。眼鏡をかけ直して言われた言葉。
「何、普段から成績優秀なソァーヴェ嬢には何かご心配事でもあるのかと伺った次第・・・教育者としては当然の事です」
分厚い眼鏡の内から見える冷たい目。私の知っている優しい教授のお顔ではない。自分が叱責されているようで思わず目をそむけてしまう。
しかし殿下も教授に負けない冷たい目で言い返す。
「そんな事は貴殿がお考えになるまでもない、と言ったハズだが?」
「恐れながら殿下、そばで咲いている『花』は手を施さなくとも咲いているとお考えなきよう・・・ソァーヴェ嬢、失礼致しました」
教授は依然冷たい目で意味不明の事を言われると、私に向けて笑顔を向けてその場を後にした。どうやら私の成績不振でお怒りになられていたのではないようだ?
「全く・・・以前といい王太子に不敬なヤツだ、卒業したら罷免させてやる」
「あ、あの・・・殿下??」
「あ、ああ・・・ただの軽口だ、本気に取るな・・・それより俺もお前に話がある、付き合ってくれ」
「承知致しました・・・」
◇
校舎の外にあるひと際大きなイチイの木。その下で何故かそわそわしながら話し始める殿下。
「そ、その・・・先日の城では・・・悪かった、いきなり怒鳴ったりして」
突然の謝罪に驚くもしっかりとお応えする。
「もう済んだことです・・・私に至らない事があったようで申し訳ない限り」
「いいや、お前にはどうすることも出来ない事だったんだ・・・どうかあの事は忘れてくれ」
目を合わせないところは相変わらずだけどこんな穏やかに言葉を仰るのは珍しい。
「それより・・・そろそろこの学園も卒業だな?」
「ええ、ここでは色々な事を学ばせて頂きましたわ・・・おこがましい事ですが王太子妃になっても教えてもらった事を活かせるよう頑張ります」
「そ、そうか・・・卒業パーティーはあくまで学生の身分だからドレスを贈ることは出来ないが・・・」
「承知しております、他の皆さんも制服なのですから気に致しませんわ」
「ぉ、俺は・・・お前を危険な立場から助け出したい!大田石日なんて・・・(*)」
「えっ・・・」
「ぶ、ぶっきらぼうで汚い言葉しか使えん俺だが・・・お前を悪いようにはしない!だから何があっても信じてくれ!!それじゃあ!」
そう言って殿下は走り去って行かれた。最後のお言葉がよく分からなかった。少なくとも王城の時のように不機嫌だった訳ではないようだ。
ともかく後一週間で卒業だ、これ以上トラブルが起きないように過ごそう。
(*)この誤字は仕様です。表現の一種として受け取って下さい。




