↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/53

第二十話 「検証」

ルカーノ・ビアジーニ視点

 僕の部屋には一人の兵士とこの国の宰相フェルモ・ドゥーカ=スタツィオ閣下がいる。


「ビアジーニとやら、その方に頼みたい事がある」

「それは王命、でございますか?」


「内密のモノだが王命と考えてよろしい、一週間後に入学するシスティナ・ドゥーカ=ソァーヴェ令嬢のスキルを調査してほしい」

「なぜぼ・・・私なのでしょうか?わがカヴァルカントには何十名もの優れた教授がいます」


 何とも不思議で怪しい依頼だ。僕はいち教授、一番若年で新参者に過ぎないのに。それもドゥーカ(公爵)の令嬢のスキルを探れとは。聞けば理鬼学を知らない娘だという事。そんな相手をどうして・・・。


「その方が理鬼学教育研究機関の最高峰たる『エーゼスキル学園』の出身者だから・・・というのが理由だ、とにかく余計な詮索と他言は無用・・・今までの返済免除と月一回の報告につき十二分な報酬を支払おう」


 ともあれそのエーゼスキル学園に入学するにあたり国費留学させてもらったのだから拒否はあり得ない。留学資金の返済免除に加えて報酬も頂ける事だし引き受けよう。


「お引き受け致します」



◇◇◇



 一カ月後、宰相スタツィオの言うようにシスティナ・ソァーヴェ令嬢が入学してきた。王太子妃候補で相当頭の回転が速くモノ覚えが良いらしい。三年間の授業を一年で許される能力だとは、さすがに高貴な生まれは違うという事か。

 また以前に入学していた「治療専科の聖女」と言われる傍若無人なラウレッタ・ソァーヴェ嬢は彼女の妹だが似ても似つかないそうだ。


 そして治療専科での実習をのぞいた時、宰相の言葉が理解できた。


 多くの治療専科生は怪我の止血・傷口の縫合・骨折の固定という手段で傷を癒すものだ。しかし彼女のスキルは全く次元の異なるものだった。傷口が治る、というものではない。傷を受けた事自体が無かったかのように完全に元通りになるのだ。


 宰相から聞いた話ではガストーニ砦にて右腕を失った兵士を無意識に治療したのだそうな。その時に欠損した右腕を完全復元したとか。実際に彼女がスキルを使用する様子をこの目で見たので納得できる事だった。


 エーゼスキル学園にも治療士志望の学生は五万といたが彼女の様な完璧なスキルは持ち合わせてはいない。あの偉そうな教授陣の中にすらいないんじゃないか?


 とにかくどうにかしてシスティナ・ソァーヴェ嬢を調査しなければならない。それにはまず人となりを知ることからだ。


 幸いにして僕にはカヴァルカント学園の学長から「エーゼスキル学園から送られてきた資料の整理・編纂」という大いなる雑用を押し付けられている。成績優秀な彼女なら作業の助手として引き入れる口実となるだろう。


「頂きます・・・香ばしくて口の中が引き締まるような渋みが美味しいですわ」


 間近で見るソァーヴェ嬢は美しい。黒髪で青い瞳を持つ落ち着いた雰囲気ながら時折歳相応の可愛らしさも見られる。

 それに頭が良いだけでなく常に控え目で、僕のような学術用語しか知らない22のオジサンにも話を合わせてくれる。彼女と過ごす時間が楽しくて思わず使命を忘れそうだ。


 こんな健気な娘を婚約者にしている王太子が憎らしい。彼女と同時に入学したその王太子アルカンジェロ殿下も高圧的な雰囲気ながら成績は優秀で理鬼学も習得済み、且つ人を惹きつけるカリスマを持ち合わせているようだ。王の子は王、という訳か。



◇◇◇



 学園の休日を使ってシスティナ嬢のスキルの正体を探るべく、彼女が治療―肉体欠損から完全復元―した兵士達に話を聞くため西のフィロガモ砦にまで行く。


「俺っちがアリキーノ様だ、右腕?ほれ、この通りピンピンしてやがるぜ!」


 システィナ嬢が最初に治療した土木工兵アリキーノ氏、粗暴ながら義に厚いので周囲に人ができあがるタイプだそうな。

 治療された右腕を見せてもらうと傷口が全くなく怪我をしたのかどうかさえ分からなくなる復元ぶりだ。





「先生、困りますなぁ・・・手伝いたいからとお任せしたのに咲いてる花を切っちまうなんて・・・」

「いやぁ、これは僕がうかつでした・・・この分だけ株分けにしてもらえませんか?」

「しょうがねぇ、今回だけですよ?」


 学園の庭師に花壇から花弁が落とされたチューリップの株を鉢に入れて分けてもらう。治療スキルの検証のためとは言え花には「済まない」と謝りつつ研究室に向かう。

 中ではシスティナ嬢が待っていた。


「お邪魔致しております、教授」

「お待たせしましたソァーヴェ嬢、今日は書類整理の前にこの花を治して頂きたいのです・・・間違えて僕が切ってしまいまして・・・」

「まぁ、それは可哀そうですわ!分かりました・・・鉢植えをこちらに」


 システィナ嬢はすぐさま茎の切断面に触れるか触れないかの手つきで鬼力をこめて治す。すると物の見事に花は復元された。燃えるような赤い花びらが咲き誇っている。


「ふぅ、終わりました・・・綺麗なチューリップですわね?今後は気をつけて下さいね」

「面目ない、お礼にお茶を淹れますので・・・」


 控室に行き上着のポケットを探る・・・僕が切ってしまったチューリップの花弁がどのポケットを探しても無い?システィナ嬢の治療スキルによって復元された花弁と見比べるつもりだったのに・・・これは一体どういう事なんだ??

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。