第十七話 講義
ビアジーニ教授の後に続く。途中で教授は「取りに行くものがあるので・・・後から向かいますので先に入っていて下さい」と仰ったので一人で研究室に向かいドアを開ける。
「失礼し・・・あ!!どうして・・・」
なんとそこにはビアジーニ教授が机に向かい書類に目を通していた。私と別れてからそれほど時間は経っていないハズ。それにしても一心不乱に書類に向かうその姿はなぜか神々しく輝く一方で鬼気迫るものがあって
「お待たせしました、ソァーヴェ嬢」
「ぇ・・・きゃあああああっ!」
後ろを振り返るとティーセットを抱えたビアジーニ教授が入ってきた?!あり得ない事に驚いた私の口からはしたない声が出てしまう。どうみても教授が二人いらっしゃる??一体どうして・・・。
「失礼、驚かせて申し訳ない・・・実はコレ、僕の偽物なんですよ」
そう言って教授は指を弾いて鳴らすと机に向かっていた教授の姿はぼやけた。後に残ったのは人間と同じ大きさの人形―詰め物をした布で五体を組み上げた物―だった。
「な、何が起こって・・・」
「これは僕の鬼力を使った『遊び』です・・・まずはお掛け下さい、お茶を淹れましょう」
お茶を飲むと香ばしい香りが口の中に広がる。いつも淹れて下さる異国のホウジチャは美味しい。教授はそのまま話し始める。
「先ほどの手品を説明する前に・・・書類整理の際に読まれた文献を覚えていらっしゃいますか?人間の鬼力の波長には七つの種類があると・・・」
「はい、確か文面には・・・
『人体の生命エネルギーである「鬼力」を扱う技術がある。その力は光・電・火・風・水・土・念の7種類の属性に振り分けられる』
だったかと」
「さすがです、それぞれの力は文字通りの自然エネルギーとの波長が一致するのです・・・例えば」
教授の講義が続く。あまりの高度な内容に置いてけぼりにされそうだ。鬼力の属性についてまとめてみると、
・光、光のように粒と波の性質を合わせ持つ?鬼力
・電、電気のように細かい振動を与える鬼力
・火、火のように全てを溶かし分解させる鬼力
・風、空気のように拡散させる鬼力
・水、液体のような自由な形を操る鬼力
・土、個体のように固定・硬化させる鬼力
・念、他の六つの属性とは異なる性質の鬼力で詳細不明
という事のようだ。何気なく使っていた鬼力にこれだけの種類があるとは思っても見なかった。
「ではこの理論で考えると・・・止血や骨折を治す治療の鬼力は物を固定させる『土』なのでしょうか?また筋肉痛や病気を治すスキルの鬼力は血液の循環を促す『水』という事になりますわ」
「ご明察です、この理論を聞いた直後に本質を見極められるなんて・・・当然僕を含めた教授達や学園の生徒達にも鬼力の種類の区別が存在する、という事です」
「それでは教授の鬼力の属性は・・・人形を元にご自分の姿を投影・・・『光』ですね?」
「全く貴女という方は・・・仰る通り僕の属性は『光』です、それを言い当てるだけでなくトリックの種明かしまでされては僕の面目も丸潰れですよ」
「そ、それは申し訳ありませんっ」
「冗談ですよ、しかしこの理論は僕がエーゼスキル学園を卒業する一年前に確立された理論でして・・・残念ながらこのカヴァルカントでは教育カリキュラムには入ってはいないんですよ、だからここでの知識は他言無用でお願い致します」
「誓って口外致しません」
なるほど、それで「理鬼学のスキルというものは教えられて習得するものではない」のか。鬼力の属性はそれぞれ違うので、教える側の鬼力と教わる側の属性が違えばスキルを模倣する事すらできない。
だからこそカヴァルカント学園では普通科で入学し理鬼学のスキルを検証してから、改めて専門課程に変更する事が多いようだ。
今の理鬼学の学習方法は似通ったスキル―騎士科では戦闘スキル・治療専科では治療スキル―で互いに協力し合うに留まっている。
「ちなみに私の持つ鬼力の属性は何なのでしょうか?恥ずかしながら自分の事が分からなくて・・・」
「それについてはまだ確定が出来ていません、何せ欠損した肉体部分を再生、というより完全復元するなんてスキルはエーゼスキル学園でも見なかった例です・・・当然使用する鬼力も半端なものではない、と言う事です・・・僕が何を言いたいのかご想像できますか?」
「・・・・・・いいえ」
「貴女のスキルは神のごとき力と言っても過言ではない、でも使用するごとに貴女の鬼力も膨大に消費するという事です・・・それこそ命を削るほどの」
!まさかそんな事が・・・治療スキルに鬼力が追い付いていないのはただの力量不足と思っていたのだけれど。
「貴女のような優秀な方が理鬼学に真剣に取り組んで下さるのは我々も嬉しいところ、しかし貴女のお役目は理鬼学に命を懸ける事ではないハズ・・・実習から解放された今どうぞよくお考え下さい」
一瞬どうしてかぶっきらぼうで時々お顔が赤くなるほど不機嫌になる殿下の顔を思い浮かべる。
「それでは・・・理鬼学の使用を禁止した殿下は」
「殿下のご意向をいち教授が憶測するのは不敬ですが・・・婚約者の貴女を危険な目に遭わせたくはない、と考えるのが自然です」
・・・あの方がそこまで私の事を考えて下さっていたなんて。
「教授、ご指導ありがとうごさいました・・・お言葉、しっかりと熟考させて頂きます・・・このあたりで失礼致します」
「誤解が解けて何よりです・・・長く引きとめて申し訳ありませんでした」
お互いに挨拶を交わして研究室を引き取る。さっきまではこれからの学園生活をどう過ごしていいのか分からなかったけど教授のお陰で少し理解できた。
殿下のお気遣いを無駄にしないように頑張ろう。
本話にて語られるビアジーニ教授の理鬼学理論が煩雑そうなので補足します。物語のイメージの参考になれば。
・理鬼学
人間の生命エネルギーたる鬼力を扱い人体を強化する「支援術」。作中にもあるように治療も可能。最新研究では鬼力属性の分類もなされている。
登場作品 origin world
「惑いし令嬢は全てを流す」本作
・七鬼学
「理鬼学」を元に鬼力の7つの属性と波長の合う自然界に漂うエネルギーや物質を扱い攻撃・防御を行う「戦闘術」。主に武器使用(少数ながら素手での運用もあり)。
登場作品 divine world
「決死のタイムリープ」「2人のライオネット」「緋き牙と碧き路」
・鬼功
「七鬼学」を基礎概念とした「格闘術」(初級中級者は武器使用)。鬼力属性は6つ。エーゼスキル学園では鬼力を更に純化させる純鬼功を開発中。
登場作品 アルネ戦記
「生真面目王女と不真面目勇者の快進撃?」
本来であれば小説の中で説明し切れなきゃダメなのですが、私の表現力ではこのあたりが限界なので少し補足させて頂きました。