第十六話 忠告
「ふぅ、これで今日の日課は終り・・・後は」
普通科の授業を終えて教室を出る。ガストーニ砦で倒れて以来理鬼学の実戦訓練には参加していない。理由はアルカンジェロ殿下の言いつけを守っているから。
殿下は砦の医務室にて私の具合を確認して部屋を出た後、学園に戻って教授達に私―システィナ・ソァーヴェ―の理鬼学実習の禁止を命じたらしい。それほど私が治療スキルで倒れた事が殿下の不評に繋がったのだろうか。そう考えると申し訳ない思いでいっぱいだ。
また私の勝手な都合でカリキュラムを変更させられる教授達にも随分迷惑を掛けたと思う。
元々カヴァルカント学園に入学したのは国王陛下のご意向。それに答えるため少しでも理鬼学を上達させたいけど、殿下に禁じられている以上勝手に訓練する事も気が引けてしまう。
「あら、お姉様・・・生徒会室にどんな御用かしら?もしかして・・・治療に失敗したから今度は生徒会に入れてもらいたいの??」
気がつくと目の前にラウレッタが立ちはだかっている。その横には渋い顔を作っているアルカンジェロ殿下がいた。
考えながら歩いているといつの間にか生徒会室の前まで来ていたようだ。
ラウレッタはこうしてガストーニ砦の件以来事あるごとに私の失態を煽ってくる。ここは適度に受け流しておこう。
「いいえ、それより貴方がちゃんと生徒会に参加しているようで安心したわ」
「くっ・・・当たり前じゃない!もう治療に失敗したお姉様になんか生徒会の場所はあげないんだから!!」
真っ赤な顔になって怒るラウレッタ。はしたない彼女を下がらせて殿下が言う。
「おい、調子はどうなんだ?勝手にスキルを使ってないだろうな?」
「殿下、ご機嫌麗しく・・・お言いつけ通り普通科生として勉学しています」
いつも通り微笑を作りながら答えるとまたもや殿下はそっぽを向けられる。
「っ、じゃなくてだな・・・もういい、とにかく治療術は使うな!これは命令だ・・・俺はもう行くぞラウレッタ嬢」
「ああ、殿下ったら呼び捨てにして下さいよぉ!私も行きますから一緒に・・・」
ラウレッタは殿下の後を追って見せつけるかのように右腕に抱きつく。殿下はあの娘の事をラウレッタ呼びしている、あの娘に話す時はしかめた顔もされていない・・・もうそこまで仲良くなっているのかしら?もしかして王太子妃をラウレッタに・・・。
頭によぎった考えを追い出す。ラウレッタは私の失敗で聖女の評判を保っているけど、理鬼学以外の勉強の成績が悪いのは相変わらずだ。これ以上に覚える事の多い王太子妃教育にあの娘がついていけるとは到底思えない。もっと気を強く持たなきゃ。
「これはソァーヴェ嬢、ご領地ではお世話になりました」
「ご機嫌麗しく存じます、ビアジーニ教授」
校舎を出る途中でビアジーニ教授と出会う。そう言えば理鬼学の書類整理が終わったのでお会いするのはソァーヴェ領の丘以来だ。
「先日のガストーニ砦では大変でしたね、ご体調は大丈夫ですか?」
「問題ありません、しかし殿下からは治療スキルの使用を禁じられましたので・・・」
ビアジーニ教授の前だと言うのに弱音を吐いてしまう。しかし教授の口から出た言葉は。
「恐れながら・・・今回の王太子殿下のご意見に僕は賛成です、王太子とは言えいち生徒が学園で言いたい放題されるのは御免こうむりたいものですが・・・」
やっぱり私の失態は学園でも問題になっていたか。
「そう、ですか・・・私の事で教授の方々までご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いえ、そういう意味ではありません!えぇっと・・・立ち話も何です、ご用事が無ければ研究室にお寄り下さい」
「用はありませんが書類整理の終わった今いち生徒が研究室に入るのは・・・」
「これは僕がうかつでした、どうも貴女に誤解をさせてしまった様子・・・それを解いておかないと僕の責任となりますので、いきましょう」
「承知致しました・・・」