第十二話「令嬢」
ラウレッタ・ソァーヴェ視点
「ラウレッタ、今日から私達はお貴族様になれるのよ?」
私が8歳になった頃に聞いた母さんの言葉だ。
今までいることすら知らなかった父様はなんと貴族のソァーヴェ家の人らしい。小さかった頃から母さんの働いている居酒屋の掃除をしたり手伝いばかりしていたのが、これから貴族になるからもうしなくていいのだそうだ。
それどころか大きなお屋敷に住めるし、毎日おいしいものを食べられたりすてきなドレスもたくさん着れるし、何より父様と一緒に暮らせるんだって!
屋敷に着くと父様が自分の娘、私の一歳違いのお姉様を紹介してくれた。
「システィナ、今日から私達の新しいお母さん『パトリツィア』と妹となってくれる『ラウレッタ』だ・・・挨拶しなさい」
「し・・・システィナさん・・・これからよろしくね?」
「お、お姉さまぁ」
「はい・・・宜しくお願いします」
初めて会ったシスティナお姉様は物静かな女の子だった。生まれた時から貴族だからもっと偉そうにしているのかと思ってたけどほとんど喋らない女の子だった。だからお姉様とはどんなお話をしていいのかどんなことをして遊んでいいのか全く分からない。
おまけにゴハンを食べる時もものすごく静かに丁寧に食べる。そんなお行儀のいい食べ方を見ていると自由に食べていた私や母さんまでが喉を詰まらせそうだった。
ある日お姉様が流行り病で寝込む事になった。その病気にはもうお薬が出来ているので大丈夫だけど、病気が移ってはいけないのでお姉様のお見舞いにも行けなかった。
その間は父様と母さんの三人でゴハンを食べる事に。お姉様がいないから寂しいかと思っていたけど自由にお腹いっぱいに食べられて幸せだ。父様もそんな私達を見てると楽しそうだ。
それからのゴハンは三人だけで食べる事になった。
―――
「父様ぁ、あの先生いやー!」
「おお、そうかそうか!もっと優しい先生を探してやろう!!だから泣くな!」
三年後、お姉様がこのイラツァーサの王子様と結婚するのでこの家を出た。だから父様からお姉様のドレスやアクセサリーをお下がりでもらったけどあんまり可愛いのはなかった。つまんない。
そしてお姉様がいなくなったこの家の子供は私だけになったので貴族として勉強する事になった。でも私には勉強なんて出来ない。それにマナーなんてなくても生活できるじゃない。今までずっとそんなもの無しで生きてきたんだから。
家庭教師の先生は私が平民出身だからか誰もが厳しかった。その上私にやる気がないので教え方が余計に酷くなる。その度に父様に言いつけて先生を変えてもらって十回以上。そうなったところで父様は私に家庭教師を付ける事を諦めたようだ。
堅苦しいお姉様が家を出ておいしいものが自由に食べられたり、難しい勉強もやらなくなって色々遊べるようになった。でもどうしてか毎日がつまらない。
母さんにしても最初は父様からドレスやアクセサリーをもらってウキウキしていたけど、買い物に行ったり友達としゃべったりが出来なくなって不自由そうだ。父様が参加するパーティーには私も母さんも貴族のマナーが苦手なので連れてってもらえない。
そんな時に家に来たのが・・・王子様?名前はアルカンジェロっていうんだって。金髪で瞳がブルーのカッコイイ王子様だ!お姉様はこんな人と結婚するのかぁ。うらやましくなっちゃう。
父様が慌てて挨拶してお茶の準備をメイド達に指示していたので母さんと私がお相手することになった。平民だったから王子様とお話なんてドキドキしてしまう。この機会に仲良くなればお姉様の代わりに私が王子様と結婚できるかも!
「・・・よくわかった、ありがとう・・・また話を聞かせてくれ」
2時間ほど過ごしてから王子様は帰った。話の内容は・・・つまらなかった。事あるごとにお姉様の事を聞いてくるんだもの。いくら姉って言っても目の前の女の子をそっちのけで違う子の話なんて聞きまくる??
名前も長いし今度からは王子様を「アルク様」呼ばわりしよう!この方が呼びかけやすいし仲良くなったみたいだし。