第十一話 休暇
しばらくすると下の方から2人づれの殿方が・・・あの方は!
「はぁはぁ、ぶ・・・無事だったのか?」
「あ、これは殿下!ご機嫌麗しく・・・」
アルカンジェロ殿下とその護衛の騎士だった。
立ち上がって挨拶しようにも押しとどめられる。息を整えてから仰るには。
「それはいい、それよりここに男がいただろう?リベリオが・・・遠見のスキルが使える部下がそう言っていたから気になって飛んできたんだ」
「いえ・・・道に迷われた方でしたので教えて差し上げただけですわ」
ビアジーニ教授の事は伏せて話す。教授もここがソァーヴェ領とは気付かなかったのだからまるまるデタラメにはならないハズ。
私の答えにホッとしたような顔をする殿下。
「そうか、無事で良かっ・・・それよりどうしたんだ?長期休暇なのに家にもいないなんて・・・」
「・・・少し風に当たりたかったのと、久しぶりに絵画をしてみたくなっただけですわ・・・すでに私の家に向かわれたのですか?」
「いや、来る途中で部下がお前を見つけたと言っていたからまだだ・・・この絵はお前が描いたのか?」
「ええ、恥ずかしい出来ですが」
キャンバスをのぞき込む殿下。おかしな箇所を探されているのかと思うと身構えてしまう。
「意外だ、俺は何も知らなかったな」
「???」
殿下の仰る言葉の意味を掴めない。首をかしげているとお顔が赤くなったような?
「い、いやこちらの話だ・・・せっかくの里帰りだが王城に戻ってもらうぞ?王太子妃としての責務があるからな」
「お言葉ですが・・・陛下からは久しぶりに家に帰るようにと」
「それは取り消しだ、お前にも早く王太子妃としての自覚をもってもらわないと・・・さっきの事もある式が木でならん(*)」
突然の申し出に驚く。陛下が一度言われた事を取り消すだなんて今まであったかしら?とは言えこれはチャンスだ、あのまま家にいても居心地が悪いだけ。お言葉に甘えよう。
「承知致しました・・・それでは一度屋敷に参りましょう」
「ぁ、ああ・・・突然の訪問になってすまん」
殿下は何故か私から目を背けて足早に向かう。護衛の方も慌てて追いかける。
ソァーヴェの屋敷にて。殿下の突然の訪問にお父様がしどろもどろになって応対する。
「そ、それにしても王城へ突然の帰還命令とは・・・」
「家族団らんのところを済まない、ご令嬢は責任をもって預かる」
しかしお父様や義母は言葉とは裏腹に安心したような顔をしている。やはり私がいては邪魔だろうから。逆にラウレッタは不機嫌な表情を隠そうともしない。どう見ても私の事が嫌いなハズなのに。
◇◇◇
イラツァーサ王城に向かうとまたもやプライベートルームで拝謁する事に。
「何だ、もう家族と過ごさなくてよいのかシスティナよ?」
「違いますわよ陛下・・・もぅアルクのわがままで・・・振り回してごめんなさいねシスティナさん?」
「ぁ、恐れ入ります・・・」
陛下のお疑いはもっともだ。普通の家族なら実家で水入らずに過ごすべきだろう。今ひとつ分からないのが王妃様のお言葉だ。「わがまま」に「振り回す」とはどういう意味だろう?
「皆様、システィナ・ソァーヴェでございます・・・お見知りおきを」
「まぁなんて可愛らしい、王妃様が羨ましいですわ!」
「本当に!お相手が王家でなければウチの息子に引き合わせるのに!!」
「うふふ、ダメですわよ?この娘は私の娘なんですから!」
その後、公務や王太子妃教育が待っているのかと思えば全くない。あるとすれば時々行われる王妃様とご友人方とのお茶会への参加ぐらい。それも気さくな方ばかりなのでストレスなく過ごせた。
「あの・・・もう少し丁寧に描き直しますので」
「いや、これでいいんだ・・・わがまま言って済まない」
殿下とは一度お茶を一緒に頂いたっきりだ。しかし腕慣らしの為に描いたサダン・ダグラド・バィワの三山の絵をしきりに欲しがられていたので差し上げる事に。ヘタな絵にも関わらず真剣に見て頂いているのは嬉しいような恥ずかしいような感じだ。
常に気を引き締めなければならない王城ではあるものの、居場所のない実家よりもくつろげたように思う。
そして絵画の道具を持ち込ませてもらったので、休暇の終わる3日前には母フランカの肖像画を仕上げる事が出来た。30センチメートルほどの小さな絵画だけど持ち運びには便利な大きさ。
これでいつでもお母様と一緒だ。
(*)この誤字は仕様です。表現の一種として受け取って下さい。