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「私、おばさんなんだけど」by吉川

作者: ちぃねぇ

0:校舎裏にて




涼:例のブツは?


守:バッチリ手に入れてきた。お前の方は?持ってきたんだろうな


涼:抜かせ。あるに決まってんだろ


守:じゃあさっさと交換するぞ


涼:おう




0:二人が鞄を交換する直前、楓登場。




楓:はーい悪ガキ共、そこまで


涼:げ


守:吉川せんせ…


楓:二人でこんな校舎裏でコソコソ…何してるのかな?


涼:いやその


楓:ブツ、出しな?


守:俺…トイレ…っ!


涼:ずりぃぞ守…!




0:守逃走。




楓:あー…一匹取り逃がしたか。…まあいいわ、さあ氷室君?大人しく鞄の中見せてもらいましょうか


涼:…ハイ




0:鞄の中からグラビア雑誌が出てくる。




楓:これは何?


涼:本デス


楓:何の本?参考書じゃないわね?


涼:エッチな本デス


楓:なんでこんなものが学校にあるのかな?


涼:…すみません


楓:没収です


涼:な…!


楓:あのね…これで3回目よ?あれほど学校にこういうの持って来るなって言ったのに…氷室君、わかりましたって言ったじゃない


涼:今回は勘弁してよ!碧ちゃんの特集なんだよ!


楓:勘弁できるわけないでしょ


涼:頼むよぉ!


楓:別に、R指定のこの雑誌の入手方法とか聞かないけど…なんで持って来ちゃうかなぁ?


涼:小遣い足りねぇもん


楓:なるほど?お互いに交換して補い合って素晴らしい友情ね。…でもそれとこれとは別です


涼:そんなぁ


楓:あなたたちのせいで私のデスクの引き出し、ピンクい紙束で埋まってるんだけど?これ以上増やさないでくれる?


涼:じゃあ返してよ!


楓:却下


涼:んだよ!吉川先生のわからずや!


楓:はいはい、何とでも言いなさい。…あ、そろそろ休み時間が終わるわ、教室に戻りなさい


涼:へーへー




0:教室にて。




涼:ずりぃぞ守、一人で逃げやがって


守:まーまー、おかげでこっちのお宝は守れたんだから


涼:どうせ後で手荷物検査待ってんぞ


守:抜かりないよ、2年の後輩にパンと引き換えに隠してくれって預けてきた


涼:お前ほんと、そういうとこ頭回るよな


守:だろ?


優斗:なに?涼と守、また学校に余計なもの持って来たの?


守:んで涼だけ吉川にとっ捕まった


涼:お前な


優斗:あらら


守:相手が悪かったよな…もし小林先生だったら見逃してくれたかもしんないのに


優斗:あーあの人…緩いよね。バレンタインでチョコ持ってる女子見つけても「俺今瞬間的に視力落ちてるけどそろそろ回復しそうだから、万が一不都合な物持ってたら速やかにしまってくれ」とか言ってたし


涼:話分かるよなーこばやん。それに引き換えうちの担任は鬼かよ。なけなしの小遣いで買った碧ちゃん…袋とじまだ開けてねぇんだぞ!?


優斗:まあ、チョコとエロ本じゃ対応も変わってくるよね


守:黙ってたらそれなりに美人なのに…中身おっかねぇよなぁ


涼:は?美人?誰が


守:吉川先生


涼:どこが?


優斗:先生は美人だよ?


涼:お前まで


守:顔もそうだけど、スタイルいいんだよな~ボンッ、キュッ、ボンッじゃん?


涼:そうかぁ?


守:お前ちゃんと先生見たことねぇだろ


涼:当たり前だろ、吉川マジマジ見てどうすんだよ


守:まーまーそんなこと言わずに一回ちゃんと見てみろよ…ほら来たぜ




0:楓登場。




楓:チャイム鳴ったわよ、席ついてー…教科書78ページ開いてー…


涼:(M)二人とも何言ってんだ?吉川が美人?どこが?同じ教師なら現社の鈴木先生のがよっぽど良くね?ボン、キュッ、ボン?んー?


楓:名詞節を導くwhetherとifの違いは…


涼:(M)あー…まあ確かにラインは悪くないかもしんねぇけど…いや…むしろあの尻は結構好きかも…


楓:…はい、じゃあカッコ1にはifとwhetherどっちが入りますか?…氷室君


涼:うぇ!?


楓:答えてくれる?


涼:え、あ


楓:聞いてなかったでしょう。教科書逆さまよ?


涼:う゛…


楓:授業ちゃんと聞いてくれる?


涼:…はい


涼:(M)くそアマッ…!やっぱ全然可愛くねぇ!




0:放課後。




涼:あいつのどこが美人なんだよ!100%ねぇよ!第一あんな嫌味女、見てくれがどうとか言う前に性格が無理!俺は中も外も可愛い子が好きなの


優斗:そう?僕は割りと本気で好きなんだけど


涼:…マジ?


守:優斗は元々年上好きだしな


優斗:あの上からな感じ、いいよね


涼:お前…Mかよ


優斗:なんかこう、優しく屈服させて僕無しでは生きられないように懐柔したくならない?


涼:え?


守:そっち?


涼:こいつMの皮被ったドSじゃん…こえぇ


優斗:でもさ…最近先生、婚約したんだよねぇ


涼:えっ…マジ?


優斗:薬指…婚約指輪してるでしょ。はぁぁ…


涼:お前目ざといな


守:むしろ知らなかった涼に驚くわ。一週間くらい前、女子がきゃあきゃあ言ってたじゃん


涼:一週間前って…


守:あ、そう言やお前インフルで学校休んでたっけ


優斗:卒業したら告白しようと思ってたのになぁ…はぁ…


涼:マジか…


優斗:タイプだったんだけどなぁ…


涼:まあまあ、あと半年で卒業なんだから。大学のサークルで年上お姉様狙えよ


守:そうそう!


優斗:はぁ…




0:3か月後。




守:おい涼、お前知ってるか?


涼:なにを


守:吉川の依怙贔屓えこひいき


涼:なんだ?それ


守:妹に聞いたんだよ。妹の友達が学校にゲーム機持って来てたの吉川にバレたらしいんだけど、没収免れて説教だけで終わったんだって


涼:はぁ!?んだよそれっ!俺らの雑誌はいっつも取り上げるくせに


守:な、ひでーよな。捕まった奴、あいつの部活動の生徒だったって話だぜ。相手選んで態度変えるとか…ねぇわぁ


涼:マジかよ…鬼は鬼でもそういうことはしない鬼だと思ってたのに…


優斗:先生はそんなことしないよっ


守:お前が先生をかばいたい気持ちもわかるけど、実際取り上げられてねぇ奴いるんだぜ?


優斗:それは…


涼:…俺、ちょっと文句言ってくる


守:辞めとけ辞めとけ。学校に不要なもん持って来たこっちが悪いって説教くらってとぼけられるぞ


涼:あーもう最悪。見損なったわ吉川


優斗:先生はそんな人じゃ


守:まあ、卒業までの辛抱だって


涼:うぜー……




0:卒業式当日。




楓:あ、氷室君いた。よかった…探したのよ


涼:げ。…なんすか


楓:はい、これ




0:楓、涼に紙袋を差し出す。




涼:なんすかこれ


楓:あなたに返したかったの


涼:これ…俺らから取り上げた雑誌


楓:取り上げたって!…まあ実際その通りなんだけど


涼:何で今更?


楓:卒業したら返すつもりだったわ


涼:…今更そんなことして何になるんすか?


楓:え?


涼:あの時に読みたかった気持ちは戻らねぇんですけど。正直、今更って感じなんですけど


楓:まあ、それはそうなんだけどね。…でも、元はと言えばこういうの持って来ちゃってた氷室君が悪いのよ?


涼:よく言うよ。…依怙贔屓してたくせに


楓:依怙贔屓?


涼:自分の部活の生徒には甘いんですっけ?ゲーム機、見っけたのに取り上げなかったそうじゃないっすか


楓:…あぁ、あれね。広まっちゃってるのか…


涼:へぇ?認めるんだ。意外ですね


楓:まあ…事実だし


涼:…そうかよ。最低だな、あんた。生徒選んで態度変えるとか


楓:………


涼:俺、吉川先生は平等に厳しい人だと思ってました。なんかショックっすわ


楓:……じゃあそれ、確かに返したわ。卒業おめでとう


涼:あーあ!俺の担任、先生じゃなくてこばやんがよかったわぁ


楓:(悲しそうに笑って)…………


涼:(M)クソっ…少しは信じてたのに…ほんと最悪っ…




0:5年後、同窓会にて。




守:涼!久しぶりだなぁ


涼:おー久しぶり守!お前スーツで参加とか、嫌味くせぇよ


守:仕方ねぇだろ、午前仕事だったんだから


優斗:涼、守、久しぶり


涼:おー優斗!お前も変わんねぇな!


優斗:涼も全然変わらないね


涼:皆来てんの?


優斗:大体出席にマルしてくれたよ


守:今日の同窓会の幹事、お前だっけ?サンキューな


優斗:僕だけ地元に残ったからね。みんな大学やら就職やらで散っちゃったから


涼:そういやお前、結婚したってマジ?SNSで見たんだけど


優斗:ほんとだよ、ついこの間。家族だけの小さな式も挙げた


涼:マジかー!あ、相手誰?やっぱ年上?


優斗:うん、9つ上


守:9!?どこで出会ったんだよ


優斗:大学だよ。僕のラボの准教授だったんだ


涼:先輩じゃなくてそっち行ったんか!


守:お前の年上好きは本物だな…確かあの頃も優斗、吉川先生のこと好きって言ってたもんな~


涼:おい、あんな奴の名前出すなよ


守:おーおー、まだ根に持ってんのか?


涼:当たり前だろ!俺から碧ちゃんを取り上げたあの悪魔、ぜってー許してやらねぇ


守:まあでも、学校に持って来てた俺らが悪いのは確かだしなぁ


涼:大人ぶんじゃねぇよ!あいつが依怙贔屓して生徒選んでた事実は変わんねぇじゃねえか


優斗:先生はそんな人じゃないよ!


守:あーそう言えばあの頃、お前同じように先生かばってたっけ。懐かしい~


優斗:そうじゃなくてっ!あの時先生が没収するかしないか分けてたのは理由があって!


涼:あ?だから贔屓してる生徒か否かだろ?


優斗:違うよ!先生はある種…涼たちを守ってたんだよ!


涼:はぁ?


守:どういうことだ?


優斗:俺、どうしても先生が依怙贔屓する人間だなんて信じられなくて、卒業式の日先生に聞いたんだ。どうしてゲームを取り上げなかったんですかって


優斗:先生最初は教えてくれなかったんだけど…食い下がった教えてくれたよ。「その日は金曜日だったから」って


涼:はぁぁ?金曜日だ~?それが一体何の関係があるんだよ


守:もしかして華金だったから機嫌がよかったから、とか


涼:だったら尚のこと最悪じゃねーか


優斗:違うよ!…思い出してよ、二人が雑誌取り上げられてたのっていつも…水曜日じゃなかった?


涼:あ?曜日なんてそんなの…覚えてねぇよ


守:あ、でも待てよ。…確かに水曜だわ


涼:え?


守:ほら、俺の好きな漫画雑誌とお前の好きなグラビア雑誌、それぞれ月曜火曜発売だったじゃん。だから交換するとき、必然的に水曜日になってなかった?


涼:あー…言われてみれば…でもそれが一体


優斗:あの頃、近隣の高校で煙草の所持が見つかって問題になったのは覚えてる?


涼:そんなことあったか?


守:さー?


優斗:それで先生達、持ち物検査に力入れてたんだよ。基本的に抜き打ちだったけど…大体1年は木曜、2年は火曜、3年は水曜って決まってたんだって


涼:え


守:マジ?


優斗:さすがに毎回同じ曜日にやってたらバレるから入れ替えはしてたらしいんだけど、基本月金はお休みで火水木で回してたんだって


守:マジか…気付かんかったわ


優斗:持ち物検査、引っかかると結構エグくてさ…前に漫画見つかった友達は、没収された上、親への連絡と反省文課せられたらしい


守:うげっ…そこまでやるかー?


優斗:ほら、全体主任の小笠原先生、覚えてる?


守:あー…あのいっつも不機嫌そうなゴリラ


優斗:そう。あの人なんでか生徒を…特に男子生徒を目の敵にしてたから、必要以上に重い処罰下してたみたい。中には目の前で持って来た物壊された奴もいたんだって


守:えぐっ。でもあのゴリラならやりかねんかも


涼:…じゃあ、吉川が俺らの荷物没収してたのって


優斗:小笠原先生から守ってくれてたんだよ。現に二人とも、親呼び出しとかなかったでしょう


守:そういえば…いつもその場の注意だけで終わってたな


優斗:説教も職員室で受けたことないでしょう


涼:まさかそれも


優斗:大ごとにしないようこっそり取り上げてこっそり注意してたんだって


涼:な…


守:嘘だぁ…それ、マジ?マジで吉川がそうだって言ったの?


優斗:一応、他の人に言わないでねって釘刺されたけどね。全体主任が生徒に当たり散らしてたとか、持ち物検査の曜日がほぼほぼ固定だったとか、あんまり外に出せない情報だから


涼:えぇ……マジかよ…


優斗:…涼、どうしたの?顔青いよ?


涼:俺…卒業式の日…先生に酷いこと言った…かも


守:お前…マジか


涼:だってそんなん俺、知らなかったし


優斗:じゃあ本人に謝ってくる?


涼:え


優斗:今日、先生方も何人か呼んでるんだ。…来てくれる予定なんだよね、吉川先生


涼:……マジで?




0:15分後。




涼:なあ、マジで来るの?マジで?


守:お前、一体何を言ったんだよ


涼:もし俺が言われたら一番嫌な言葉を


守:うげ


涼:だって!一応信頼してたんだよっ!半分デマだって…信じたかったのに…!あっさり贔屓したって認められて…


守:お前……


優斗:あ、いらしたよ




0:楓登場。




楓:(参加者に向かって)お久しぶりです。みんな相変わらず元気そうで安心しました。呼んでくれてありがとうね


涼:え……


守:なあ…あれホントに鬼の吉川?俺らの担任だった吉川?なんか…昔より美人じゃね?


優斗:昔から美人だよ、吉川先生は


守:確かに面影はあるけど…変わりすぎじゃね?


優斗:あの頃先生眼鏡だったし、髪も大体一個にまとめてパンツスタイルばっかりだったから…コンタクトと髪型とスカートのフルコンボってとこかな?


守:だからってこれは…劇的ビフォーアフターだろ


優斗:女子、三日会わざれば刮目して見よってね。…5年も会わなきゃ、そりゃ変わっててもおかしくないよね。僕、嫁さんと出会ってなかったら今でもアタックに行ってたと思うもん


守:…先生確か29だったよな?今年34だよな?…言われなきゃ20代で通るぞあれ。ていうか若返ってるだろ絶対………おい、涼もなんとか言えよ


涼:……どうしよう


守:あ?どした?


涼:俺のドストライクなんだけど


守:おまっ………嘘だろ


涼:どうしよう!?俺……先生のことマジで、いいなとか思ってるんだけど


守:落ち着け!ほ、ほら、クラスの女子見てみ?確かに先生は綺麗だけど、5年経った女子たちもなかなかどうして綺麗だろ!?


優斗:…先生以外、目に入ってないね涼


守:おまっ…おい!


優斗:ねえ、涼?今更先生の良さに気づいても…ねぇ?卒業式の日、自分が何を言ったのか思い出しなよ。何言ったか知らないけどさ


涼:……どうしよう俺…穴掘って埋まりたい


守:優斗お前…辛辣しんらつ


優斗:だって僕の大好きだった人を傷つけたんだもん、これくらいしなきゃ


守:お前だけはほんと、敵に回したくねぇ


涼:とりあえず俺…謝ってくる


守:おー…骨は拾ってやる




0:楓の傍まで来た涼。


涼:あの、せんせ…


楓:ああ…氷室君?変わらないわね、久しぶり。元気でやってる?


涼:はい…


楓:そう、よかったわ


涼:あの…俺


楓:あ、ごめんね?私あっちのテーブルに呼ばれてるの


涼:あ……はい…




0:すごすご引き下がる涼。




涼:避けられた…


守:お前…よっぽど酷いこと言ったんだな


涼:どうしよう俺……立ち直れねぇ


守:ま、まぁ……飲もうぜ…な?




0:2時間後。




涼:俺は…なんて酷い奴なんだ…


守:りょー?大丈夫かー?


涼:知らなかったとは言え…俺は…俺ってやつは…


優斗:聞いてないねこりゃ


守:どうする?二次会引っ張ってく?


優斗:放置でいいんじゃない?


守:お前…相当怒ってんな?


優斗:ん?何のこと?


守:こういう奴が一番タチ悪いんだよなぁ




0:楓登場。




楓:氷室君、潰れちゃったの?


優斗:あ、先生


楓:もう。大学で飲み会慣れして来なさいよ


涼:先生…俺…


楓:ん?どしたの?


涼:俺…俺っ…先生に酷いこと言いました


楓:なんのこと?


涼:卒業式の日、俺…俺っ…


守:こいつ、先生に謝りたいらしいですよ


楓:んー?謝ってもらうようなこと…なにかあったかしら?


守:おっとぉ?


楓:よくわかんないけど私に用があるみたいだし…氷室君引き取ろうか?


守:え、いいんすか?


楓:ちょっとお水飲ませてから、行けそうなら二次会会場に送るわ。無理そうなら帰宅させるし。あなた達今から駅前のカラオケでオールするんでしょ?みんな待ってるわよ


守:でも迷惑じゃ


楓:あら、気遣いのできる大人になったのね。…あなた達のお世話には慣れっこだから、任せて


守:じゃあ…すんません、お願いします


優斗:もし涼が失礼なことしたらどうぞ殴ってくださいね


楓:木村君、そんなキャラだっけ?


守:色々ありまして


楓:ふふっ。じゃあ遠慮なく雑に扱うからこっちのことは気にしないで


優斗:それじゃあ先生…よろしくお願いします


楓:はい、行ってらっしゃい




0:二人退場。楓、店の人からグラスを受け取る。




楓:氷室君?とりあえずはいこれお水。お店の人にもらってきたから


涼:すみません…


楓:…さっきはごめんね?せっかく話しかけてくれたのに切り上げちゃって


涼:え、俺…避けられたんじゃ…


楓:なんで教え子を避けるのよ


涼:だって俺…先生に酷いこと


楓:それ、さっきも言ってたけど全く心当たり無いのよねぇ…私あなたに何かされた?


涼:え…だ、だって俺…卒業式の日…


楓:卒業式?


涼:先生に…俺の担任が小林先生だったらよかったのにって…


楓:……ああ!あれか!


涼:あれか、って


楓:まあ、仕方ないじゃない?変に差別する憎たらしい女教師より、生徒に寄り添ってくれる小林先生の方がそりゃ魅力的だもの。私だって同じように思うわ


涼:でも…先生が俺達の雑誌取り上げてたの…小笠原から守るためだったって


楓:あら…木村君喋っちゃったの?…もう!口止めしたのに!


涼:なんで言ってくれなかったんですか!知ってたら俺…あんな酷いこと言わなかったのに


楓:んー…だって、仕事とは言えあなたがなけなしのお小遣いで買った雑誌を取り上げた事実は変わらないし、私が他の生徒を見逃したのも事実。差別された!って怒る権利があなたにはあったもの


涼:だからって


楓:それにほら、あなた妹さんいたじゃない


涼:え?


楓:2つ下の学年に。もし妹さんに色々漏れたら…ね?抜き打ちの持ち物検査なのに固定の曜日でやってます、なんてバレたら…すっごく面倒じゃない


涼:だから…黙ってたんですか


楓:そ。木村君は兄弟がいなかったから教えちゃったけど………え、もしかして…そのことでずっと、悩んでたの?


涼:え


楓:だったら私のほうこそごめんなさい。そんな罪悪感を植え付けて卒業させてしまって…


涼:あ、いや…俺がそれ知ったの、ついさっきで


楓:あら、そうだったの?だったら良かった!じゃあもう気にしなくていいから、そんなこと忘れちゃいなさい


涼:そんな


楓:さ、酔いも少し冷めた?氷室君カラオケ合流する?明日予定無いなら、せっかくの同窓会なんだから最後まで楽しんだら?


涼:…先生はどうするんですか


楓:私?私は帰るわよ~二次会まで先生が一緒とか、堅苦しいでしょ?


涼:俺…先生と一緒がいいです


楓:え~?何言ってるのよ。…同窓会って貴重よ?あの頃好きだった子の連絡先とか、手に入れて来なさいよ!


涼:好きだった子なんていません


楓:あら、つまらない青春送ったわね?


涼:今、好きな人ならいます


楓:ああそうなの?じゃあ連絡先なんて要らないか


涼:先生の連絡先、教えてください


楓:…はい?


涼:俺、先生が好きです


楓:えっ?ちょ、ちょっと待って?氷室君まだ酔ってるわね?


涼:酔ってません


楓:酔っぱらいはみんなそう言うのよ!私、あなたに好かれてた記憶は無いんだけど?


涼:今好きになりました


楓:はぁ?ちょっとあなたね…おばさんをからかうのもいい加減にしなさい


涼:からかってなんかないです。あと先生はおばさんじゃないです


楓:おばさんよ!あなたより11も上のおばさん!ほらよく見て?目元の小じわ、見える?20代のあなたたちにはない代物よ?


涼:先生は綺麗です


楓:なっ…


涼:先生…好きです


楓:ちょお、ま、ストップ!シャラップ!ここ居酒屋!退店しなきゃいけないの!わかる?


涼:俺もっと、先生といたいです


楓:ああもうっ…とにかく店から出るわよ




0:涼を引きずって店から出た楓。




楓:とりあえず駅ね…この時間ならまだ終電には間に合うはず…


涼:先生。好きです


楓:はいどうも。…たく、飲み過ぎよ


涼:俺本気です。本気で好きなんです


楓:はいはいどうも


涼:本気なんです!…先生っ!こっち見てよっ


楓:っ…!


涼:俺、先生が好きです


楓:手、離して


涼:俺本気です


楓:わかったから。……離しなさい


涼:…はい


楓:あなた…正気?


涼:はい


楓:私、あなたの11個上よ?


涼:知ってます


楓:元担任の教師よ?


涼:知ってます


楓:知ってるって…あのねぇ


涼:好きです


楓:っ


涼:先生が好きです


楓:……あなた別に、学生のころから想ってましたーとかじゃないでしょう


涼:はい。でも俺…先生が好きです


楓:今の今好きになりましたって、そんな言葉信じられるほど若くないんだけど


涼:信じてほしいです。好きです


楓:…酔ってるでしょ?


涼:酔ってません


楓:あなた…何にもわかってないわ。私は34歳のおばさんなのよ?肌だってたるみ始めてるし、お腹のお肉だってすごいのよ?見せてあげたいくらい


涼:見たいです


楓:な……


涼:先生をこのまま…帰したくないです


楓:あなた…いっつもこんな感じに女の子口説いてるの?だとしたらすごいわね


涼:そんなことしたことないです。先生だけです


楓:……そんなドラマみたいな台詞、34歳には破壊力が過ぎるんだけど


涼:好きです…俺、先生がどうしようもなく好きです


楓:断言してあげる。あなた、明日絶対後悔するわよ


涼:しません。先生…好きです


楓:あなた今、自分がどんな顔してるかわかってる?


涼:わからないから教えてください


楓:…ああもう!…若い子ってホント怖い


涼:先生…好き…好きです


楓:…私にだって人並みに欲はあるのよ……


涼:好きなんです…後悔なんてしないから…!


楓:…はぁ…。もう知るかっ!…………あのさ…家、来る?私の家。…すぐそこなの


涼:……はい




0:翌日。




涼:(M)俺…すごいことしちゃった…先生、可愛かったな…お腹のお肉って、嘘じゃん


楓:んー…


涼:(M)寝顔、可愛い。ああもう、全部が可愛い…あの頃の俺はなんでこんなに可愛い人を怖いだなんて思ってたんだ…?


涼:(M)でも実際、あの頃より先生…うんと可愛くなったよな…誰かの影響?だとしたらムカつく……


涼:あっ


楓:ん…ん?


涼:(M)そう言えば先生って俺らが卒業した年に婚約したって……!え……俺、既婚者に手ぇ出した…の?


楓:…氷室君、おはよう


涼:あ、おはよう…ございます…


楓:ふ…その顔。…予想通りすぎて笑っちゃうわ


涼:先生、俺あの


楓:いいよ、無かったことにして


涼:え


楓:後悔してますって、顔に書いてあるわ


涼:あの、俺…


楓:私もう少し寝てるから。机の上に鍵置いてあるでしょう?閉めて出て。郵便受けに戻してくれればいいから


涼:お、俺


楓:…心配しないで。私も楽しかったし、別に怒ってなんかないわ。あなたの言葉なんて、真に受けてないから大丈夫


涼:せんせ…


楓:眠たいの。もう徹夜とか、身体に堪える歳なんだから寝かせて。…おやすみ、さよなら


涼:……はい…




0:翌日の夜、優斗から電話。




優斗:涼?今大丈夫?


涼:ああ、うん…どした


優斗:同窓会の二次会、涼来なかったでしょう


涼:ああ


優斗:二次会で、僕の結婚式は身内だけで済ませたから披露宴もやってなかったし、軽いお披露パーティーみたいなことやろうかって話になって。涼も来てくれる?


涼:あ、ああもちろん


優斗:ありがとう。来月か再来月、空いてる日程また教えて。涼と守にはぜひ、僕の奥さん紹介したいし


涼:ああ…ありがとう


優斗:……涼?どうしたの?なんか、元気ない?歯切れ悪いよ


涼:あ、いや、そんなことねぇよ


優斗:ほんと?…………もしかして、先生となんかあった?


涼:な…なんかって、なんだよ…既婚者相手になんかなんて…あるわけねぇだろ


優斗:あ、いやそういう事じゃなくて…上手く謝れずに仲違いしちゃったのかな、とか


涼:あ…そっち


優斗:あと、先生は独身だよ?


涼:…………は?えっ…だって、あれ…?先生って俺らの卒業した年に婚約してた、よな…?あれから5年経ってんだぞ?まさかまだずっと婚約期間なのか?


優斗:違う違う。…あれ、言ってなかったっけ?…先生、1年前に離婚してるんだよ


涼:……は?


優斗:今回同窓会の幹事することになって色々話してたんだけど、先生ずっと、吉川姓のまんまだったから気になって…そう言えば結婚後の名字って何ですかって聞いたら…


楓:「今も吉川のままなの。去年離婚しちゃった」


優斗:…ってあっけらかんと言われたんだ


涼:……マジ?マジで…?


優斗:うん。まあ、離婚理由なんて色々あるし、ただ籍を抜いただけで事実婚にしたのかもしれないけど


涼:悪い、優斗。また連絡する


優斗:ん?うん、わかった


涼:悪いな、あとマジでサンキューな!




0:一方的に電話が切れた。




優斗:……なにが?




0:家のチャイムが鳴りインターホンを覗く楓。




楓:え、誰だろうこんな時間に。…はい


涼:先生、俺です


楓:…氷室君?


涼:すみません、突然押しかけて


楓:どうしたの?何か忘れ物でもした?


涼:先生、少しの時間でいいので会ってくれませんか?


楓:え?


涼:玄関先でいいので…5分だけいいから…会ってくれませんか


楓:…あのね氷室君、私一応女なんだけど。8時過ぎに男性をほいほい上げたくないんだけど?


涼:すみません


楓:はぁ…まあいいわ、上がって


涼:お邪魔、します…




0:ドアが開く。




楓:で?どうしたの?


涼:俺…先生が…好きです


楓:えー?…なに?また酔ってるの?


涼:酔ってません!あの夜だって、酒なんかとっくに抜けてた


楓:無理しなくていいのよ?…あ。もしかして、責任取らなきゃとか考えてたりする?一回寝たくらいで?やめてよ、いいわよそういうの


涼:そんなんじゃ


楓:朝起きて「やらかした」って顔してたでしょ。あれが答え。いいじゃない、ワンナイトで。お互い大人なんだから


涼:お、俺が…やらかしたって思ったのは…先生が既婚者だって思ってたからです


楓:え?


涼:とんでもないことしちゃったって…頭真っ白になって…


楓:あー……氷室君、私が離婚したこと…知らなかったんだ


涼:というか…結婚してるってことも朝思い出して


楓:あぁ…そりゃパニクるわ


涼:丸一日、まるで仕事が手につかなかった…とんでもないことしたっていう罪悪感と、こんなに好きなのに諦めなきゃいけないっていう葛藤と…


楓:好きって…


涼:あの夜俺が言ったこと、全部本気です。俺、先生が好きなんです。優斗に先生が独身だって聞いて俺、嬉しくて…


楓:嬉しいって……まさか本気で私と付き合いたいの?


涼:はい


楓:私、アラサーのおばさんよ


涼:おばさんって言わないでください


楓:言うわよ、事実私はおばさんだもの。23歳のあなたはどんな子でも選びたい放題なのよ?なのに…なんで私なの


涼:好きだからです


楓:その根拠は?


涼:わかりません


楓:ええ?そんな曖昧な口説き台詞に頷けって言うの?


涼:だってしょうがないじゃないですか…勝手に信頼して勝手に裏切られた気になってたのに…かばっててくれたんだってわかって…なんか、ぶわーって来ちゃって


涼:俺あんな酷いこと言ったのに今も変わらず優しくしてくれるし…なんでこんな綺麗な人に気づけなかったろう…とか、先生が綺麗になったのは誰の影響だろう…とかぐるぐる考えちゃって


楓:氷室君


涼:俺じゃダメですか


楓:…ダメです


涼:俺じゃダメですか


楓:だからダメだって


涼:だったらちゃんと目を見て言ってください!俺…先生が好きですっ


楓:……私の抱き心地、そんなに良かった?


涼:茶化すなよ!先生…俺と付き合って


楓:…無理


涼:なんでっ


楓:……私の離婚理由ね、浮気なの


涼:え


楓:元旦那に突然「遊び相手に本気になったから別れてくれ」って言われたの


涼:なんですか…それ


楓:知らないわよ。知りたくもない。……だからね、恋愛なんてもうこりごりなの


涼:俺はそんなことしない


楓:…そうかもしれない。だけど、そうじゃないかもしれない


涼:先生!


楓:私だって、覚悟決めて結婚したの!この人と一生添い遂げるって!親にも友人にも祝ってもらって……なのに、あっけなく終わったの


楓:私もう…傷つきたくないの。もう裏切られたくないのよ。もう恋愛のごたごたなんて…勘弁してよ


涼:先生は…俺が何を言ったって信じてくれないんですか


楓:…一瞬、信じかけた自分が嫌になったのよ。あなたの朝の表情を見て、冷や水を被った気分だったわ


涼:それはっ


楓:もう繰り返したくないの


涼:先生。俺のことが嫌いですか。生理的に無理ですか


楓:…生理的に無理な人、家になんかあげなかったわよ


涼:だったら…先生、俺にチャンスをください


楓:え?


涼:俺と付き合って。絶対に裏切らないし、大事にするから


楓:あなた、自分が何言ってるか…わかってる?


涼:わかってる


楓:わかってないわよ。あなたは誰でも選べる立場にいるのよ?なのになんで


涼:好きだからだよ!俺は、先生が好きなの!…もうなんでもいいから頷いてよっ!難しいこと考えるの全部やめて俺がアリかナシか、それだけで判断しろよっ


楓:…踏み出すの、怖いの


涼:じゃあ怯えてていいから…俺でリハビリしてよ


楓:それで傷ついたら今度こそ私、死んじゃうじゃない


涼:させないから…お願い、俺を選んで


楓:…執着するわよ


涼:して


楓:2度目は離してあげられないよ


涼:望むところです


楓:なによっ…悪ガキのくせに…生意気なのよ…!


涼:先生、連絡先教えて。ちゃんとデートから始めたいです


楓:…裏切らない?


涼:はい


楓:…やらかしたって顔、もうしない?


涼:誓います、二度としません


楓:私、甘えたな性格よ?ベタベタするわよ!


涼:めっちゃ見たいです


楓:…絶対に、裏切ったら許さないからね…!


涼:はいっ




0:数週間後、守の家にて。




守:いやー…マジで青天の霹靂だわ


優斗:ほんとにね


守:お前から吉川先生と付き合うことになったって聞いたとき、俺フリーズしたぜ


優斗:僕は持ってたお箸落としたよ


涼:まぁ驚くよな


守:驚くなんてもんじゃねぇって。一体全体何がどうしてそうなった


優斗:飲み会の二次会、引っ張って来なくてよかったね


守:ほんとな。色々聞きたいことはあるが、とりあえず…先生ってお前の前でどんな感じ?


優斗:まず聞くのそれなんだ


守:気になるだろ?


優斗:まあ


涼:…可愛い


守:え


涼:俺が視界から消えるのが嫌みたいでどこに行くにも引っ付いてくんの。服の袖ちょこんとつかんで。……こんな可愛いなんて聞いてねぇんだけど。俺爆発しそうなんだけど


守:むしろ今すぐ爆破されてくれ。誰もやらねぇなら俺が吹っ飛ばす


優斗:…むやみに話掘るの、よそっか。地雷だらけみたいだし


守:だな


涼:外できりっとしてる分、そのギャップがたまんねぇんだよ!俺の前でだけあんな甘えたになって…もうだめ、可愛すぎる


守:聞いてねぇから黙ってくれ…


優斗:…あ、あの子


涼:え?




0:何気なくつけていたテレビに、かつてのアイドルたちが映し出されていた。




優斗:あの子、確か涼が好きだったグラビアアイドルじゃない?名前…誰だっけ


守:あ、碧ちゃんじゃん。相変わらず可愛いなぁ


優斗:そうそう、碧ちゃん


守:お前あの頃、碧ちゃんに夢中だったよな~袋とじとか買って速攻開ければいいのに「まだ開けねぇ!開けたら開いちまうだろ!」とか意味わかんないこと言ってたし


涼:あー…そんなこと言ってた気がするわぁ


守:今は?興味ねぇの?


涼:ねぇよ


守:なんで?


涼:だって先生の方が可愛いんだもん


守:お前…マジか


涼:優斗、お前の目は確かだったよ。先生は美人!そして可愛い!……ああ、マジで可愛い…


優斗:あー…うん、ありがとう


守:まあ、うん…俺はお前が幸せそうでよかったよ


涼:ありがとな!


優斗:…先生のこと、大事にしなよ


涼:ああ、もちろん!

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