始まり
色々な作品を読ませて頂いていたところ、急に書きたくなり衝動的に書いてしまった作品ですので、至らぬ点など有りましたらどんどん指摘下さると有難いです!
輪廻転生という言葉、または概念を知っているだろうか。知っているならばその転生という概念を信じているだろうか。
まあ大勢というか、大半は信じていないだろう。死んだらそこで終わり、それはそれで正しい。実際あるかどうかもわからないものを信じることに合理性は無いし、否定はしない。
だが、少なくとも俺は信じている。なぜなら俺は既に二度転生という減少を経験しているからだ。
そうだな、少し昔話をしよう。あれはまだ一度目の生のこと。特にいいことも悪いことも特別無かった為に最早覚えていることの方が少ない第一の生における最後の日、俺は確かに転生したのだ。
良くありがちなトラ転では無く病気という形ではあったが。
何はともあれ、死んだなと自覚すれば次は赤ちゃんプレイの始まりであった。はっきり言って地獄だった。中身成人の赤ちゃんプレイに何の需要があるというのか。俺自身からすれば需要など欠片も無かった。
………まあこの話はこれくらいにして、俺は当初逆行したのかと思っていたが、その説はすぐに否定した。なぜか?それは簡単、まず両親が違うからだ。第一の生における両親はハッキリ言って普通の顔立ちであり、その辺に紛れていれば誰にも気付かれない上に覚えられすらしないモブを極めたモブ中のモブだった。断じてこんな街中を歩けば誰もが振り向くような美形では無い。
そのことを理解してからの俺は第一の生のことを忘れ、薔薇色の人生を送ろうとした。……まあ無理だったが、他ならぬ俺自身によって。
なんというべきか、俺は第二の人生における両親の遺伝子を全くと言っていいほど受け継いでいなかったのだ。血の繋がりはあるのに赤の他人というレベルで似ていない、Theモブというべき特徴という特徴すらない平凡という言葉を体現した顔。お察しの通り第一の生における俺の顔である。
どんな顔でも自分達の息子だと可愛がってくれたのは嬉しかったが、ぶっちゃけ申し訳なさ過ぎて死にそうだった。
薔薇色の人生なんて要らないから極力迷惑をかけないように過ごしたいと思うくらいには申し訳なかった。
両親は気にしなくていいなどと言ってくれたが、俺の魂が奪ってしまった、恐らくとんでもなく美しい人として生まれる筈だったこの体本来の持ち主にも申し訳なく思っている以上嫌でも気にしてしまう。
きっとこの横に座っている幼馴染のように最高に可愛い女の子が生まれていただろうにと思うと………嗚呼、残念だ……
「?、どうしたの新一?」
「……いや、なんでもない」
「またそう言う……なんかあるなら言ってくれたらいいのに」
「本当になんでもないんだよ……」
「そう?」
「ああ」
今俺の横でコロッケを頬張っているのが俺の幼馴染で、名を水橋 佳奈という。超絶怒涛と付けたくなるほどの美少女で(断じてピン芸人では無い)、現俺の恋人である。
身の丈に合わないとかは理解している。むしろなんで俺なんかが選ばれたのか理解出来ないくらいだ。
「新一さ、そろそろその髪切ったらどうなの?」
そろそろって……いつも言ってるだろ……
「あのなぁ、いつも言ってるだろ?この髪は俺のトレードマークなんだよ」
「トレードマークって、根暗だの陰キャだのバカにされてるのに?」
別にバカにされていいだろ……つーか俺みたいな極悪人はバカにされる程度じゃ済まないっての……
「いいんたよ、というかなんでそんなに切りたがるんだよ?」
「え?そりゃー新一が本当はこんなにカッコイイって知ってもらいたいし」
「………、はァ、俺のどこがカッコイイんだよ……バカにしてんのか……」
俺は佳奈の言葉に呆れ返りその場を立った。もうこのまま帰ろう。帰ったらFWOの準備をしてそのまま寝よ。
あ、FWOとはこの世界初の完全フルダイブ型VRゲーム『フリーダム・ワールド・オンライン』の略であり、βテストなどを終え遂に明日稼働する話題沸騰中のゲームのことである。
「ちょ、ちょっと!待って!」
佳奈が慌ててコロッケを食べ進め追いかけて来るが、俺は気にせずそのまま帰路を歩く。
「ちょっと!待ってってば!!」
後ろを焦ったように追いかけてくる佳奈をチラリと見て、その溢れんばかりの美貌に目を細めたその時、上空から聞こえる異音に気づいた。フォンとかブオンとかの、風を纏う重量のある物などが落下してくるような……
そこまで考え上を見た俺は、すぐさま己が恋人の下へと駆けていた。
「佳奈!!逃げろ!!!」
「え、な、なに急に!?」
言葉通り急に振り向き走り出した俺に驚いたのだろう。佳奈はその場で立ち尽くしてしまった。これが平時ならば良かった。だが今に限って言えばそれはマズイ。
「上、上だァ!!」
「う、上……?え、………」
「ッ!、チッ!!!」
上空から迫り来るそれ――――落下してくる大量の鉄骨の視界に収めてしまったのであろう佳奈は恐怖の表情で凍りつき、尻餅をついた。そして俺はそんな佳奈の体を思いっきり押し出し、その場に倒れ込んだ。
まあ上から鉄骨が降ってくる状況で倒れたりしたら待つのは一つである。
全身を襲う形容しがたい痛みを感じた直後、俺は意識を失った。
目覚めてみれば骨だった。どうも、今世の名前は『呪われし剣王』の俺です。
まあ一言で言えばまた死んで、また蘇った。実に三度目の生である。
最初こそめっちゃ豪華な玉座の上で同じくめっちゃ豪華な服を鎧を身につけている状態で目覚めたものだからどっかの王様に憑依でもしたのかと思ったが、そうでも無かったのだ。だって骨だし。
割と後になって、スキルという概念や、HP、MPという言葉から分かったが、ここはゲームの世界であり、早い話俺はNPCという形で第三の生を迎えることになったのである。
まあ最初こそ、このまま鍛えたらいずれはボスキャラとかプレイヤー越えて最強になれるんじゃないか?とか考えていたのだが、そう上手い話もある訳もなく、俺は目覚めてからずっとこの部屋に縛り付けられていた。
何故なのか、それは俺が転生したのがこの部屋を含む領域を守るエリアボスだから。エリアボスがその領域から離れるなんて有り得ない!という思想の運営なのかは知らないが、プレイヤーがこの部屋を訪れるまでは部屋から出ることは愚か、玉座から立ち上がることすら出来ない。不便通り越して殺意すら覚えるレベルだ。
プレイヤーが現れたら動けるようになるということを知ってからは、プレイヤーと友好関係を築くことでなんとかこの部屋から出ようなどとも画策したものの、こちらの言葉は届かない上に身振り手振りによるコミユニケーションは勝手に強力な魔法の発動モーションに変わる。
オマケに身振り手振りによって発動した魔法はどれもこれも即死効果でも着いているのか、どれだけ重装備で固めていようと、防御魔法を発動しようと一発で消し飛ぶ。相手のHPが満タンだろうがまた同じ。
プレイヤーが訪れなければ動けない上に、プレイヤーを倒さねば休みも貰えない連戦。それに加えてプレイヤーを倒せばまた強制玉座生活………どこまでもNPCに厳しい世界である。
そんな生活を送ること早一ヶ月。……どうやら今日もまた招かれざる客が来たようだ。数は一人だが侮れない相手だろう。
発言から恐らくβテストなどにも参加したであろうトッププレイヤーでさえ門以外の入口から入ってくることは無かったのに対し、目の前に現れたコイツは文字通りこの部屋に”出現"した。
どんな裏ワザを使ったのかは知らないが、それを見つけ実行する観察眼や度胸を侮ることは出来ないだろう。それらはこれまでの多岐にわたる戦闘から身に染みるほど理解させられた。だからコイツもまた厄介な敵の筈だ。
………だがそれにしては妙なこともある。さっきから威圧たっぷりに見下ろしている筈なのに、まるで気付いていないかのようにキョロキョロと辺りを見回したり、トッププレイヤーでさえ倒せないこのエリアボスたるこの俺『呪われし剣王』が座する部屋なのに明らかに初心者装備しか身につけていなかったりと、なんというかちぐはぐ過ぎるのだ。
まるで初めてログインした初心者の如きその姿を見つめること数分、ようやく相手側が気付いたようで此方を見た。
さて、ここまで立ち上がることすら出来なかったが、これでようやく動けるようになるだろう。相手は初心者のようにも見えるし、少し遊んでから始末して――――!?
『カナ、ダト?』
俺は思わず右手に握り締めたこれまで多くのプレイヤーの命を奪ってきた片手剣『血吸の呪剣』を取り落とし、声を漏らしてしまった。
「え、誰!?なんで私のリアルの名前知ってるの!?……もしかしてあなた?」
まあいいか、どうせ向こうには聞こえないしとそのまま剣を拾えば明らかに聞こえているとしか思えない反応が帰って来てまた剣を手から滑らせた。
『ナニィ!?』
ば、馬鹿な……こちらの言葉は通じない筈……いやしかもリアルの名前だと?こんな馬鹿なことがあるのか……?
混乱の極めにあった俺は、この部屋で目覚めてから初めて初めて自分の意思で体を硬直させた。
「あれ……もしかして、新一?」
そうこうしている間に佳奈に俺が何者なのか特定されてしまったようです。なぜ特定されてしまったのか明日までに考えていてくださ―――え?
『エ?』
「違った?おかしいな……その頭蓋骨の感じ新一っぽかったんどけど……」
いやいやいやいや!?なんでわかるの!?怖!?めっちゃ怖いんだけど!?なんで骨の感じで俺ってわかったの!?というか俺っぽい骨ってなに!?マジで怖いんだけど!?
結論:暫定俺の彼女がなんか怖いです。