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わざとじゃないぜ?

 やべぇ、やべぇ、チミーがやべぇ!

 ビリーは息を切って町中を走りながら、ガルダパンクと名乗った黒いカレクトルがチミーを圧倒する様子に汗を流す。


 今までチミーは、ギルガンが相手でもカレクトルが相手でも圧倒できていた。

 そんな彼女が完璧なほどに出鼻をくじかれたのは、ビリーの知っている限り今回が初めてである。


 あいつは何とか切り抜けられるだろうか……?


 思案しながら土を蹴るビリーの背後からは、金属の慌ただしく噛み合う音が鳴っている。

 ガルダパンクと共に行動していた10体のカレクトルが、こちらを追跡しているのだ。

 正直、今はチミーの心配をできるような状況ではない。


 この町の構造は単純だ。

 中央を十字に通るメインストリートがあり、その道に沿う形で家が並んでいる。

 家同士はビリー2人分くらいの僅かな隙間が開いており、時折もう少し広い道の通っている場所がある、といった形だ。


 背筋へ迫ったカレクトルの手を回避しつつ方向転換し、脇の小道へ飛び込む。

 カレクトル達はビリーより大柄で、しかもその数は10体だ。

 通るには1体ずつ縦に並び、窮屈な道を走らねばならない。

 広い道での速さじゃ確実に勝てないが、小道に入るとビリーに有利が傾く。


「いっ!?」


 悪い、今のは嘘だ。

 小道を抜けた先の道から、カレクトルの頭が姿を表す。

 知らぬ間に回り込まれていたようで、背後から迫るカレクトルと出口から入ってくるカレクトルとで板挟みの状態になってしまった。


 逃げ場は残されていない……『上』以外は!


 ビリーは意を決し、隣に積まれてあるブロック塀に足をかける。

 ブロック塀を登る勢いを使ってそのまま跳躍し、屋根の端を掴んだ。


「ぐぐぐ……っ!」


 指先がペシャンコになってしまいそうなほどの圧力がのしかかった。

 歯を食いしばって痛みを耐え、何とか身体を持ち上げて胸元を屋根まで届ける。

 屋根へくっつけた胸を支点にして、這うように身体を屋根の上へ登らせた。今のでかなりの体力を使ってしまったビリーは、その場で仰向けになって倒れ込んでしまう。


 そんな彼の耳に、ガスバーナーの噴射するような音が届く。

 そして次の瞬間、ビリーの視界にカレクトル達の姿が映った。


「おいおい、勘弁してくれ……」


 カレクトル達は飛行のためのジェットパックを装備しており、それを使って難無く屋根を登ってきたのである。

 彼らが飛行できる事はチミーとの戦闘で見たはずなのに、焦ってすっかり忘れていた。


 だが、ビリーは諦めない。

 こちらに手を伸ばすカレクトルへ指差し、汗を散らしながら叫んだ。


「待て待て待て!お前らここがどこか分かってるか?そうだ、家の屋根だ!」


 ビリーは斜め向きに傾いている屋根の端に身体を転がしており、その周囲をカレクトル達が半円の形で囲っている状態だ。

 ビリーの左足は屋根から宙に投げ出されていて、ちょっと体を傾ければ落下してしまう状況である。


「今お前らが俺に乱暴してみろ!俺は屋根から落っこちて、骨を折っちまうかもしれねぇなぁ!」


 その言葉を聞いたカレクトル達の動きが止まった。

 

 ガルダパンクはある程度その場に応じた柔軟な対応をできるようだが、こいつらはマニュアル外の事に対応するのが難しい様子である。

 指揮者であるガルダパンクとさえ引き離しちまえば、抜け穴はいくらでもあるみたいだ。

 再び動き出そうとしたカレクトルを、ビリーはもう一度静止する。


「ちょっと待てって。落ちて怪我するのはヤなんだよ。自分で起き上がるから、それまでそっとしておいてくれ」


 そう言うと、こちらを覗き込んだままカレクトル達がまた固まった。

 ビリーは屋根に腕を立て、上半身をゆっくりと持ち上げていく。


 カチリ。


 直後、金属の噛み合う音が響いた。


 カレクトルの首元にある隙間へ、45口径の銃口が差し込まれている。

 ビリーの口元は笑っていた。


「おっとすまねぇ。わざとじゃないぜ?」


 引き金が引かれ、シリンダーが回転する。

 銃口から吹き上がった火はカレクトルの首を貫き、直径1.1センチメートルの大穴を穿った。


 撃ち抜かれて機能を停止したカレクトルが倒れかかってくるのを回避しつつ、ビリーは屋根から転がり落ちる。

 うまく受け身が取れずに肩を痛めてしまうが、それを気にしている余裕はない。


 再び背後から迫り来るカレクトル達を尻目に、ビリーはリボルバーの弾を補充しつつ口の端を持ち上げた。


「まずは1体!」







 一方、チミーはガルダパンクに頭を押さえつけられていた。

 なんとか起き上がろうとするも、右手首と頭とを地面に押さえつけられた状態ではうまく力を入れることができない。


「諦めろ。人間は重心を頭に持って来なければ、起き上がる事はできない。」


 割れてしまうのではないかというほど頭蓋へ圧力が加わっていく。

 痛みに歯を食いしばるチミーへ、ガルダパンクは勝利を確定させるべく腕に備わっている絡繰カラクリを作動させた。


「私がこんな事で、負けるわけないでしょ!」


 だが唐突に、チミーが笑みを見せる。

 一瞬その真意を理解できなかったガルダパンクだったが、その正体はすぐさま『検知』できた。

 頭を後ろに回して見えた景色には、冷静沈着なガルダパンクも思わず驚愕の声を漏らしてしまう。


()ッ!?」


 直後、ガルダパンクは大砲のような速度で突っ込んできた()に殴り飛ばされた。

 チミーの『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』によって操られた一軒家が、その圧倒的な質量を持ってガルダパンクを吹き飛ばしたのである。


 瓦礫の舞う中、吹き飛ばされたガルダパンクは空中で姿勢を立て直し、膝を立てて着地する。

 顔を上げると、痛む右手首を擦りながら立ち上がるチミーの姿が映った。


「いたたた……。今のはビックリしたでしょ?」

「ああ、想定外だった。記録しておこう」


 チミーの言葉に、ガルダパンクは淡々と答える。

 互いに睨み合った状態。ここからどう動くか。

 

 チミーとしては得意な接近戦に持ち込みたいところだが、また掴まれて機動力を封じられては困る。

 だったら、()()()()で勝負だ。


 チミーは足を開いて腰をひねり、上半身を後ろに回す。

 拳を握り、『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を起動した。


「だっ!!!」


 捻った上半身を戻すと同時に、正拳突きの動作で拳を前に突き出す。

 殴った空気が運動エネルギーを纏い、見えない砲弾としてガルダパンクを襲った。


「!」


 咄嗟に腕をクロスしたガルダパンクへ、チミーの放った空気砲が激突する。

 破裂音が響き、衝撃波が輪を描いて方々へ散った。


 ガルダパンクの体は数メートル後退し、腕の装甲が湯気を立てている。


「……」


 ガルダパンクが顔を上げる頃には、チミーは既に『2発目』を構えていた。


「らァッ!!」


 今度は、左拳の突き。

 その動作を見たガルダパンクが地を蹴って横に回避すると、潰されるかのような空気圧が彼の目の前を横切っていった。


 その直後、ガルダパンクの視界にノイズが走る。


 硝子の砕けるような音が響き、ガルダパンクの体が回転しながら宙を舞った。

 周りには黒い破片が撒き散らされており、それは自身の頭部から溢れているものであると気付く。


 再び姿勢を立て直して着地したガルダパンクは、自身の砕けた側頭部をひとつ撫でた。

 避けたはずの彼に襲いかかった衝撃は、チミーが放った『3発目』によるものだと理解する。


「……成程なるほど、これは厄介だな」


 速く、そして何より『見えない』。

 他のカレクトルとは一線を画すマスターカレクトルであろうとも、空気中を走るエネルギーを見る事はできないのだ。


─────しかし。


「っ、はぁ……」

「心拍数、体温の上昇、そして僅かな発汗に、体幹の乱れ。少しではあるが、消耗が目立ってきているな」


 少しだけ姿勢が傾いたチミーの様子を見て、ガルダパンクが正確に彼女の状態を解析し始める。

 そう……チミーの能力『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』の弱点は、体力の消耗がとてうもなく大きい事なのだ。

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