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黒蜂の機人

『エリア4』は先程まで居た『エリア3』とは異なり、形の残っている建物が多かった。

遠くには『エリア3』に無かったビル群のような巨大建造物が立ち並んでおり、文明の残り香が期待できそうである。


そんな事を考えていたが、今はマキシマムの捜索を優先しなければ。

住宅街のような残骸群を横切りながら『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を起動。エネルギー探知能力を駆使して、周囲の生物を探っていく。


探索も兼ねた軽い飛行とはいえ、能力によって存分に引き出された運動エネルギーは特急列車をも凌ぐ速度を弾き出す。

何も問題がなければ、数時間もしないうちにマキシマムを見つけることは可能だろう。


そう......何も問題がなければ、の話だ。


しばらく飛行が続き、少しだけ眠くなってきた頃。


「!」


何かに気付いたチミーが体ごと上を向き、仰向けの状態で飛行を続けながら空を見た。

空の温度が急激に下がり始めている。雲の色も、ほとんど黒に近い。


「雨が降りそうね。」


チミーはエネルギーを操作して雨粒を弾く事ができるため、雨の中でも探索は可能だ。

だが雨が降れば、動物達は雨から逃れようと陰に隠れ始めるだろう。

そうなると探すのは大変だ。チミーは少しだけ、飛行速度を上げた。


「それにしても.....。」


仰向けのまま腕を組み、チミーは先程の戦闘を思い出す。

突如として現れた、ギルガンを片手で倒せるほどの戦闘力を持ったロボット集団。

彼女は奴らと戦っているうちに、奴らから強烈な『違和感』を感じ取っていた。


チミーの能力『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』は、『あらゆるエネルギーを操作する』能力だ。

空を飛ぶことだって、一撃でコンクリートを粉砕するパンチだって繰り出すことができる。


そして今、マキシマムをエネルギー探知によって探しているように、周囲のエネルギーを探る事も可能だ。

エネルギーとは、この世のあらゆるものが持つ概念。チミーに認識できないものは無い。


......はずだったのだが。

あのロボット達からは、それが全く感じ取れなかったのだ。


ロボット達との戦闘の最後、立ち上がろうとしていたリーダーロボットの存在にも全く気付くことができていなかった。

ビリーが気付いてとどめを刺していなければ、戦闘はあの後も続いていただろう。


一体、あれは何だったんだろうか。

この世に存在して動いている以上、エネルギーを持たないもの......というのはありえない。

そうなると、『超能力による干渉を遮断する素材』で作られたロボットなのだろうか?


勿論、チミーが知っている範囲では『超能力による干渉を遮断する素材』なんてものは未だ生まれていない。


だがしかし、相手の能力に干渉する超能力者なら見た事がある。

チミーも一度、『相手の能力を奪う』能力者に『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を奪取された経験があるのだ。


相手の能力に干渉する超能力があるなら、超能力に関わる素材が誕生していてもおかしくない。

そうなると、あのロボット達は非常に厄介な.....


「いッ!?」


チミーの思考は、頭頂部に加わった強烈な圧力に強制遮断されてしまう。

周囲への意識が薄れ、前方に建物があった事に気付けなかったのだ。

爆音と砂煙と瓦礫とを撒き散らし、大砲のような速度のまま建物に突っ込んでしまう。


「ったぁ〜.....」


みしみしと嫌な痛みが響く頭を押さえながら、瓦礫から体を起こす。

どうやらあまりの速度に建物を貫通していたようで、チミーの体は荒野に投げ出されていた。

少しズレたゴーグルを直して進行方向に向き直ると、少し離れた場所で土煙が見える。


「!」


少しだけ前のめりの姿勢でその土煙を目で追っていると、その正体が何なのかが分かった。

途端に、チミーは地を蹴って土煙の上がる方向へと走り始める。


あの土煙を吐き出している張本人は、ギルガンに追われているマキシマムだったのだ。








一方。

町に戻ったビリーは飯屋にて、浴びるように水を飲んでいた。

店主が心配になり始めてきた頃になってようやく、ビリーはコップを置いて大きな一息をつく。


テンガロンハットを押さえて天井を仰ぎ、もう一つため息を吐いて呟いた。


「大丈夫かねぇ、チミーは.....。」


マキシマムの捜索をチミー1人に任せた事が、彼の頭の中に引っかかっていたのだ。

落ち着いた様子でカウンターを掃除していた店主が、手は動かしたまま顔だけを向けてビリーに尋ねる。


「後悔してるの?ついて行かなかった事。」

「分からねぇ。」


店主の問いに答えられないと判断したのか、ビリーは即座に言葉を返した。


「効率を考えりゃ、あの子が一人で行ったほうが早えだろ。俺なんか足手まといになるだけだ。」


カウンターに置かれてあったピッチャーを持ち上げ、溢れんばかりの水をコップに継ぎ足していく。


「けど引き受けてくれたとはいえ、俺の問題なのによ......。どうすりゃ良かったのか、分かんねぇんだ。」


不安な感情を誤魔化すように水を飲んでいくビリーへ、店主は布巾を片付けながら穏やかに言葉をかけた。


「根拠はないけど、あの子ならきっと大丈夫よ。あの子が無事に帰ってくればアナタの不安も解消するんだし、今はあの子の無事を祈っときましょ。」


にこりと微笑んでビリーを励ます店主。

だがそんな彼女の表情は、外から聞こえる音に反応して困惑へと変化した。

ビリーもその音に気が付き、僅かに開いていた扉の隙間に顔を近付けて外の様子を伺おうとする。


聞こえたのは、複数の人の声。静かなこの町で、人の声がここまで目立つのは珍しい。


「何事だ?」


椅子から身を乗り出し、扉に指をかけて少しだけ開く。


「んなっ.....!?」


その先に映った光景を見て、ビリーは飛び出しそうなくらいに目を見開いて驚きを見せた。

寸分違わぬ揃った足並みに、金属の擦れる音。


そこに映っていたのは、ロボットの集団が町に訪れている光景だった。


総勢10体ほどのロボット達は避けるように離れていく人々にまるで興味を示さず、町の中心に向かってまっすぐ歩いていく。

ビリーは扉を少し閉じ、狭まった隙間から様子をうかがった。


ロボット集団の先頭には、一際異質な雰囲気を放つ個体が立っている。

黒い外装の隙間から黄色の光が漏れており、まるで警戒色のような威圧感のある様相だ。


ビリーは何度かロボットを見た事はあるが、黒いロボットを見るのは初めてである。

それにロボットを見た事自体も町の外での話で、奴らが人の住む場所へ現れる事は今まで無かった。


ビリーのこめかみから汗と共に、嫌な予感が流れ落ちる。


と、その時。


「ッ!!」


黒いロボットと、目が合った。

周囲の人間には全く興味を示していなかったにも関わらず、黒いロボットがビリーを見た途端に周りのロボット達の視線もこちらを向いた。


反射的に扉を閉めるが、足音が近付いている事が扉越しに伝わってくる。


まさか、用があるのは俺なのか?

いや......まさかな。

嫌な予感を払拭するように軽く息を吐いて笑みを作り、咳払いをして扉に向き合った。


足音が近付いてくる中、ビリーは扉を開けて外へ出る。


「へっへ〜、どうも.....」


目の前まで迫っていたロボット達の視線をへらへらとした表情で流しつつ、さりげない動きで彼らの横を通り過ぎようと足を出した。


「待て。」


だが当然、上手くいくはずがなく。


黒いロボットが伸ばした腕に、ビリーは行く手を阻まれてしまった。


「用があるのは貴方あなただ。」


頭だけをこちらに向けてそう言った黒いロボットへ、冷や汗が増えつつも表情を崩すことなく、ビリーが言葉を返す。


「へ...へぇ。何だ、俺のファン?あいにくサインは品切れでね。握手でもいいか?」


そう言って右手を差し出してみるも、ロボットは無反応。

手のひらを上に返して肩をすくめたビリーに返されたのは、一斉に向けられた銃口だった。


「貴方はチーフ・カレクトルを破壊した。よって連行させて頂く。」


チーフ・カレクトル?

よく分からない単語が黒いロボットから発せられたが、今はそんな事を考えている暇はなさそうだ。


相手はこちらに銃口を向ける10体のロボット。

対するこちらが持っているのは、5発の弾丸が入ったリボルバー拳銃が1丁のみ。


ビリー・クック、絶体絶命である。

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