ちょっと見せてくれませんか
チミーは世界がこうなる前に、ヴァルグリーズと戦ったことがある。
対象者に自我の暴走と引き換えで莫大な力を与える『暴走の宝珠』を埋め込まれ、暴れていたヴァルグリーズを止めるべく戦ったのだ。
そんな経緯を話すと、男は納得したように頷く。
「なるほど。それでヴァルグリーズは地中に埋められていたわけか……」
「こっちは話したわよ。あなたは何者?」
首を傾げながら放たれたチミーの問いかけに、男はハッとした表情になって答えた。
「僕はナズナ。ナズナ・コルディエラと言います。行き倒れそうになった所でヴァルグリーズを発見して、今日まで生きてこれました。今は『アナグマ商会』という所の……」
「!?」
ナズナという男が発した『アナグマ商会』という単語に、3人の顔色が一気に変貌する。
警戒心を張り詰めた空気に気付いたようで、ナズナは困惑した顔を浮かべていた。
「どうしました?」
「『アナグマ商会』って言やあ、俺たちの命を狙ってる奴らだよな?」
「え!」
彼の疑問に答えるように、そして再確認するように言ったビリーの言葉に、ナズナは困惑の表情を深める。
初耳だったのか、シラを切っているだけなのか。
分からないが、不意打ちを仕掛けてくる様子はない。
ナズナはしばらく考えた後、3人に尋ねてみた。
「なんで『アナグマ商会』に命を狙われているんですか?」
「はぁ? 自分で上司に聞いてみたらどうだ?」
「上司なんていないですよ。外部委託みたいな扱いで、何も知らないんです」
ビリーの返しに首を振った後、また少し思考に入る。
彼の視線の先には、ベネディクトに電源を切られたままの状態で連れてきていたギルバートの体があった。
ナズナはふと、ギルバートへ指をさす。
「そこのロボットは、壊れているんですか?」
ギルバートはベネディクトに電源を切られた状態で、部屋にずっと座っていた。
しかしガンロイドの出現やグルアスタの襲撃によって建物を吹き飛ばされ、アリスたちと同じように外へ転がってきたのである。
それに気付いたビリーが瓦礫の中から拾い上げてきたのが、ついさっきの出来事だ。
「外傷は少なそうだけど……電源が付かないわね。内部で何かがやられてるのかも」
ギルバートの機体を見回すアリスが、心配そうに呟く。
すると、ナズナが手を伸ばしてきた。
「ちょっと見せてくれませんか。僕、前の世界ではロボットの技師をやってたんです。何か分かるかも」
そう口にしたナズナの隣で、「やめとけ。何されるか分かんねーぞ」とビリーが忠告している。
そんな言葉を気にする様子もなく、ナズナは「信じてください」と言わんばかりに、真っ直ぐな目でアリスを見ていた。
しばらく視線を返していたアリスだったが、ほんの少しだけ警戒した表情を緩める。
「いいわよ。ただし、ちょっとでも変な事したら撃つから」
許可を出しつつも、鋭い目を維持させたままギルバートの機体をナズナへ預けた。
受け取ったナズナはしばらくギルバートの外装を観察した後、懐からドライバーのようなものを取り出す。
慣れた手つきで胸部装甲を外すと、露出した配線の中に1本だけ切れている線があった。
繋ぎ合わせた瞬間、止まっていた時計が動き出すようにギルバートの体がビクリと跳ねる。
ブゥンという音と共に光が点き、ギルバートは目を覚ました。
「あ……? 何があったんだ、これ」
目覚めた時には屋敷は跡形もなく吹き飛んでいて、目の前には知らない男がいる。
ギルバートに経緯を説明すると、装甲を直しながらなるほどと頷いた。
「アンタが俺を直してくれたってことか。ありがとう」
「ひとまず、それなりに信用できそうで良かったわ」
無事にギルバートの修復をこなしたナズナを見て、アリスはようやく敵対の空気を解く。
同じく警戒することをやめたビリーだったが、ふと疑問に思ったことをつぶやいた。
「そういやぁ、あんたは何のためにここへ来たんだ?」




