そいつって、ヴァルグリーズじゃないの?
突如としてグルアスタの前に現れた巨大なロボット……それはかつて、チミーが戦ったヴァルグリーズというロボットであった。
グルアスタへ歩み寄りながら、腰をひねってぐわんと腕を持ち上げる。
ドウッ!
防御姿勢を取ったグルアスタの腕に、ヴァルグリーズの拳が叩き込まれた。
僅かに姿勢が揺らいだグルアスタへ、さらに足を踏み込んでいく。
二撃、三撃。
ヴァルグリーズの巨体から放たれる連撃は、グルアスタに後退を強いた。
グルアスタが足を引く度に、建物が砕けて凄まじい土煙が舞い上がる。
巨体同士の戦闘は、大災害そのものであった。
彼らが動くたびに地面が激しく揺れ、ビリーやアリスはその場にへたり込んでしまう。
「チミー! あのロボットのこと、知ってんのかっ!?」
「まぁね。なんでアイツが……」
チミーは心ここにあらずといった様子で、2者の戦いを眺めていた。
攻撃を受け続けていたグルアスタは唐突に屈んだかと思うと、低い姿勢で回転し、尻尾をヴァルグリーズの脇へ打ち付ける。
空気の破裂する音が響き渡り、不意打ちの反撃を受けたヴァルグリーズは大きく仰け反った。
再び前を向いたグルアスタが腕を掲げ、爪を立てて掴みかかる。
しかしヴァルグリーズは両手でそれを掴み返すと、腹部へ蹴りを放った。
「ヌウッ……!!」
グルアスタが転び、地響きと砂煙を撒き散らす。
転がりながら四つ足で体制を立て直すと、歩み寄ってきたヴァルグリーズへ飛びかかった。
上半身へグルアスタの全体重が乗り、ヴァルグリーズは大きく仰け反ってよろよろと後退していく。
「ハアッ!!」
装甲に爪を立てながら頭部へ噛み付こうとしたグルアスタだったが、開けた口に手を突っ込まれて封じられてしまった。
上顎を掴んだヴァルグリーズは、腰をひねってグルアスタを投げ倒す。
両者は、睨み合う形となった。
だが、しかし。
「用が無くなった。お前と戦う必要もな」
そう告げたグルアスタが尻尾を翻し、地中へ潜り込んでしまう。
地響きの収まっていく中、ビリーとアリスはいつの間にかガンロイドがいなくなっている事に気付いた。
グルアスタの言っていた『用が無くなった』とは、この事を指しているのだろうか。
そしていなくなっているのは、ガンロイドだけではなかった。
――――――ッッッ!!!
がいん、と表現するには、あまりにも巨大な音。
グルアスタに逃げられ、残っていたヴァルグリーズが何かにぶつかったようによろめいている。
後ろへ数歩下がった機体の元いた空中には、小さな人影が映っていた。
「チミーっ!?」
そう。横からヴァルグリーズを殴り飛ばした者の正体は、チミーだったのである。
チミーは空を蹴り、ヴァルグリーズに向かって再び突進を仕掛けた。
払うような手を回避すると、その顔面にアッパーカットを放つ。
しかし体を反らせて回避したヴァルグリーズが、カウンターとして彼女の体に手を振り下ろした。
「このっ……!」
両手を上げて受け止めたものの、圧倒的な質量に押し負けて叩きつけられてしまう。
ひび割れて陥没したアスファルトの中心で、チミーがヴァルグリーズの手を抑えていた。
ヴァルグリーズが手を緩めたところで脱出し、空中に躍り出る。
「はああっ!!」
上げられた頭部へ、全力を込めた拳を放った。
しかし、手のひらによって防御されてしまう。
甲高く重い金属の音を響かせ、チミーとヴァルグリーズとが睨み合った。
……と、そんな時。
「何なんですか、急に!」
一度電子を通したような声が、ヴァルグリーズから放たれる。
その声を聞いた途端、チミーの全身から力みが失われた。
ゴーグルで目元が隠れていても分かるほど、困惑の雰囲気を放っている。
「……え?」
チミーが腕を下ろして戦意を消滅させると、気付いたヴァルグリーズも片膝をついて停止する。
鎧のような装甲の隙間が開くと、ブシュウと排熱が行われた。
同時に、うなじにあたる部分が重い音を立てて開かれる。
「落ち着いてください。同じ人間ですよ」
開かれた場所から、1人の男が現れた。
黒いジャージと作業着を組み合わせたような、変わった服を着用している。
髪は黒く、アリスより少し年上くらいの雰囲気を持ち合わせていた。
人が現れたのを見て困惑を加速させたチミーが、ひっそりと機体に指をさす。
「え……そいつって、ヴァルグリーズじゃないの?」
「え、知ってるんですか?」
チミーが口にした名前を聞いて、男も困惑の表情を見せた。




