ギルガンの『王』
突如として現れた『サムライ』は一太刀を放って威嚇した後、ガンロイドに尋ねた。
「我々の『王』を、どうするつもりだ」
と。
ガンロイドが『サムライ』をギルガンだと呼んだり、『王』という謎の単語の出現だったりと、まるでわけがわからない。
チミー達は完全に、蚊帳の外であった。
「ギルガンの『王』を復活させる……。君たちギルガンにとっても、悪い話ではないと思うんだけどなぁ」
「ギルガンの、『王』……!?」
ガンロイドから飛び出した言葉が、チミー達を激しく動揺させることとなる。
そして次の瞬間。
そんな衝撃へ追撃をかけるかのように、突如建物の天井が崩落した。
「何!?」
『サムライ』のすぐ後ろ……ガンロイドの前方にあた場所へ、爆破されたように砕けた瓦礫が滝のように降り注ぐ。
同時に砕けた天井の穴から、巨大な柱が床に突き刺さっていた。
否。
巨大な柱だと思っていたそれは、筋骨隆々の『腕』であった。
「おっと、これはまずい」
大樹を思わせる、あまりに巨大な腕が天井から引き抜かれたのを見て、何かを察したガンロイドが呟く。
チミーは建物の外で、圧倒的なエネルギー量が動くのを見た。
そして、次の瞬間。
――――――――――ッ!!!!
巨大な腕による薙ぎ払いで、建物は床だけを残して全てが吹き飛ばされた。
豪奢な造りをしていた屋敷は砂糖菓子のように粉々に粉砕され、夜空へ散っていく。
「……?」
にも関わらず、チミーたちは痛みの一つも覚えることはなかった。
いつの間にか目の前に立っていたガンロイドが、ふうと安堵の息を思わせる音声を放つ。
何が起こったのかは分からないが、ガンロイドが守ってくれたのだろうか。
「全く、星の原生生物へ危害を加える事になんの躊躇も起こさないとは。つくづく野蛮で、愚かな生命だな」
「お前が、俺たちをこんな風にしたんだろう……!!!」
呆れるようなガンロイドの言葉に、真正面から地響きのような声が返される。
憎しみのこもった言葉を放った主は、夜の暗闇より出でた。
片方だけでチミーの数倍もの大きさをした蛇目に、風のように莫大な空気の塊を吐き出し続ける鼻孔。
ギラリと剥き出しにした牙は、高層ビルでさえひと噛みで砕いてしまいそうである。
大木のような脚を突き立てて、巨大な生物がガンロイドの前に現れた。
微細に動き続けている瞳孔が、目の前のものが生物であることを生々しく証明している。
現れた生物の姿に、チミーは既視感を覚えた。
「アイツは……!!」
そう。チミーらがアナグマ商会の街から脱出し、プルライダーの住まう基地へ向かっていた道中に見た、巨大なトカゲを思わせる化け物と全く同じ姿をしていたのである。
先ほど建物を吹き飛ばしたのは、こいつだったのだろうか。
「『ギルガンの王』の肉片は、既に揃いつつある。嬉しい事じゃないか。邪魔しないでおくれよ」
「肉片を我々に渡さない時点で、ロクな使い方をしないのは分かり切っている!」
突如出現した『ギルガンの王の肉片』という単語。
ガンロイドはそれを集めることで、『ギルガンの王』を蘇生しようと画策しているのだろうか。
ギルガンとは明らかな敵対状態にも関わらず、何故?
疑問は深まるばかりだが、とにかくガンロイドは『ギルガンの王』を蘇生しようとしていて、ギルガン達はそれを防ごうとしているようだ。
「で、君の目的は何だい? えーっと……グル、グルアスタって言ってたっけ。興味ない者の名前を覚えるのは苦手でね」
「お前を殺しに来た」
グルアスタと呼ばれた巨大なギルガンはガンロイドの質問に、短く尖った言葉で返す。
彼の返事を聞いたガンロイドは装甲の隙間を僅かに発光させた後、はっはっはとわざとらしい高笑いを見せた。
「たった2体で勝てると思っているなら、思い上がりもいいところだな。君たちは一度破れ、知能まで奪われているんだよ? そんな戯言は、この星に生きてるギルガン全員を集めるくらいしてから言ってほしいね。それに……」
ガンロイドは高笑いのリアクションを唐突に終了させると、グルアスタから顔を背ける。
彼の向いた先から、断続的な振動が迫っている事に気付いた。
「"彼"の相手をすることに、集中した方が良いと思うな」
ガンロイドが指をさした方角へ、グルアスタは頭を持ち上げつつ視線を送る。
その先にあったものを見たグルアスタは、明らかな動揺を見せた。
チミーのエネルギー探知能力に、反応はない。
しかし地響きは、着実に近付いていた。
錆びた建物が蹴飛ばされ、朽ちた歩道橋が蟻のように踏み潰される。
のそりと現れたのは、巨大な漆黒のロボットであった。
高さ数十メートル。立ち上がったグルアスタよりは少し小さいが、それでも一歩進むごとにアスファルトを砕くほどの質量を有している。
建物の上からソイツの姿が見えるようになったその時、チミーが驚愕の声を上げた。
「ゔぁ、ヴァルグリーズ!!??」




