僕には及ばない程度にね
マスター・カレクトルのように複雑なパーツで、マスター・カレクトルよりも洗練された体を持つカレクトル。
突如としてベネディクトやチミーたちの前に現れたそれを、ベネディクトは『創造主』ガンロイドと呼称した。
「『創造主』……!?」
突然の出現に、チミーたちは動揺を隠せない。
そしてそれは、ベネディクトも同じであった。
「……!」
顔を強張らせ、小刻みに震えている。
その姿はまるで、蛇に睨まれた蛙のようだった。
ガンロイドと呼ばれたカレクトルは腕を組み、うーんと軽く唸ってみせる。
「ベネディクト・O・ナー。君は私怨によって人間を殺害し、加えて私のセキュリティを1つ破ったようだね。人間に対する好感度を上げすぎるのも、あまり良くない結果をもたらすみたいだ」
ガンロイドは腕を組んだまま、残念そうな声色でそう口にした。
そして再び、ベネディクトの顔を見る。
「君は廃棄処分することにしたよ。パーツのほとんどを人間のそれに作り変えた君は、再利用するだけの価値も残っていない。そのために、私がやってきた」
「そりゃあ、都合がいい」
さっきまで怯えた表情を見せていたベネディクトは、吹っ切れたように目を見開いていた。
ガンロイドに笑うような怒りを込めるような表情を向け、装甲を身に纏う。
「ずっと殺したかったんだよ。私をこんな……人間になれない体にしたお前を!!」
ヴンと殺意ある駆動音を鳴らし、ベネディクトはガンロイドの顔面へ腕を伸ばした。
しかし、その腕はガンロイドへ触れる前に停止してしまう。
対するガンロイドは、棒立ちで虚空を掴むような恰好をしていた。
必至で力を込めているのか、ベネディクトの腕装甲が小刻みに震えている。
「ぐっ……!!」
「この透明化技術は、僕が作ったものだよ?」
ガンロイドがそう指摘した途端、ベネディクトの手の先から直剣が出現した。
虚空を握っていたと思われたガンロイドの手は、この剣を掴んでいたのである。
ガンロイドは剣を掴んでいる手を外側へ返し、バランスを崩したベネディクトの顔面に拳を向けた。
「ッ――!!」
拳の装甲が展開され、中から現れた小指大の針がベネディクトを襲う。
頭を動かすことで辛うじて致命傷は免れたものの、装甲越しに首筋へ穴が穿たれる。
穴の内側に脈打つ動脈が露出しており、1ミリメートルでも逸れていれば致命傷であった。
「がぁっ!!」
ベネディクトはめげずに攻撃を繰り出していくも、全て暖簾に腕押し。
最小限の動きで、全てを避けられてしまった。
ガンロイドは放たれたベネディクトの拳を掴むと、1秒後には粉々に粉砕する。
破砕した装甲が肉に食い込み絶叫したベネディクトを引き寄せると、瞬きの間に首を掴んでへし折ってしまった。
「かっ……!? ひ……」
「マスター・カレクトルは、僕の次に強い存在として作成した。それでも、僕には及ばない程度にね」
ガンロイドはそれだけを告げると、既に絶命したベネディクトの首から手を離す。
ベネディクトの死体は、人形のように転がった。
「さて」
ベネディクトを殺害し終えたガンロイドは、意識をチミーたちへと移す。
何をされるのかと身構えていたが、一言目は意外なものだった。
「すまなかったね。君たち人間に危害を加えるような存在を作ってしまったこと、申し訳ない」
「……」
ガンロイドの謝罪に、チミーたちは面食らったように黙り込む。
そんな彼女らの様子など意にも介さず、ガンロイドは背を向けて片手を持ち上げた。
「では、僕はこれでお暇させてもらうよ。ベネディクト・O・ナーの処分だけが目的だったからね」
特に話を続けることもなく、ガンロイドはあっさりとその場を立ち去ろうとする。
そんな彼の背中に、チミーが声を放った。
「待ちなさいよ」
チミーの声に、ガンロイドはピタリと動きを停止させる。
回転盤の上に乗っているのかというほど綺麗な動きで転換すると、重い体を起こしつつあるチミーを見下ろした。
2つのレンズによる無機質な視線を、チミーは睨み返しながら立ち上がる。
「アンタが……カレクトルたちの『創造主』ってこと?」
「そうだね」
「都合がいいわ。聞きたいことが、山ほどあるの」
体を支えてくれていたアリスの手をやんわりと退け、ガンロイドの目の前に立った。
「アンタたちカレクトルは、何者なの?」




