表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/48

あの場で殺しとけば良かった

 銃を突きつけられた状態のベネディクトは観念したように両掌を開き、胸元辺りまで少しずつ持ち上げていく。

 途端、翻ってアリスの銃を手で払い除けた。


「ッ!」


 アリスはそのまま腕を取られる前に前蹴りを放つも、ベネディクトの装甲はびくともせず、カウンターとして腹部に拳を打たれてしまう。


 怯んだ隙に銃を取り上げられてしまい、顔を上げたアリスの額に銃口が突き付けられた。


「言ったでしょ? 人間をよく観察してるって」


 形成を逆転させたベネディクトは、微笑を浮かべながらそう言い放った。



 一方。

 銃を鳴らしたビリーは、力を使い果たして動けなくなっていた。

 出血は続き、どんどん力が失われていく。

 ぼんやりとした視界の中で、アリス達の無事を祈っていた。


 ああ、そろそろ……限界か。


 (まぶた)が、意識に蓋をするように重くなっていく。

 その重さに耐え切れず、もう閉じてしまおうかと思った、その時だった。


「大丈夫!? ……じゃ、なさそうね」


 止まりかけていたビリーの上半身が持ち上がり、薄い視界の中で彼の顔を覗き込む影が現れる。

 彼の元へ現れたのは、チミーだった。

 彼の銃声に反応して目を覚ました彼女は、音を辿ってここへ辿り着いたのである。

 チミーは周囲を軽く見渡し、ビリーの失血を止められる物はないかと探し始めた。


 窓を覆っているカーテンに目が留まると、片手を伸ばしてカーテンを引き千切り、細く裂いて傷口に巻き付ける。


「いててっ!」

「あっ!? ごめん!」


 1度きつく縛られすぎたことで悲鳴を上げたビリーだったが、何とか止血が完了した。

 止血された事で幾分か気分がマシになったビリーは、立ち上がるべくよろめく体を持ち上げる。


「危ないよ?」

「いいんだ。それよりも、アリス達が危ねえ!」


 チミーの制止へ振り払うように言い返したビリーは、片足を引きずりながら壁に寄りかかった。

 彼の気持ちを汲み取ったチミーは、ビリーを置いて先に扉の方へ歩いていく。

 

「……私、先に様子見てくるから。無理しないでね!」


 心配しながそう告げたチミーは、アリス達の元へ向かうべく廊下を飛び出した。



 

 アリスに銃口を突き付けたベネディクトは、そのままトリガーを引いてアリスの眉間を撃ち抜こうとする。

 しかしトリガーを引いた拳銃は乾いた音を立てただけで、弾丸が発射されなかった。

 ベネディクトの一瞬の動揺を狙って顔面に拳を放ったアリスだったが、ギリギリで受け止められてしまう。


「弾を入れずに脅しをかけたってこと?」

「違うわよ? 私のは魔弾だから、使い方を知らない人には使えないの」

「へぇ。また1つ、知らなきゃいけないことが増えたわね」


 アリスの種明かしにそう返したベネディクトは、アリスの顔面に向かってハイキックを放った。

 両腕をクロスさせて防御したアリスへ、そのまま一回転しつつドロップキックの追撃を放つ。

 

「ぐっ……!」


 内臓を弾かれるような激痛と共に衝撃が走り、アリスの体が勢いよく吹き飛んだ。

 腹部を抱えて苦しむアリスへトドメを刺すべく、ベネディクトが彼女に歩み寄る。

 と、その時だった。


「!」


 何かに気付いたベネディクトが足を止め、廊下の先へ顔を向ける。

 ハヤブサのように飛んできた何かに激突し、彼女の体がアリスと正反対の方向へ吹き飛んだ。

 飛んできたものの正体を見たアリスは、苦痛の中に安堵の表情を浮かべて口を開く。


「チミーちゃん……!」


 チミーはアリスがやられる前に、ベネディクトの前に現れることができた。

 想定外の人物が登場したことで、余裕だったベネディクトの額に一筋の汗が伝う。


「思ったより、目覚めるのが早かったわね」

「どっかのカウボーイが、デカい音鳴らしてたからね~」

「……あの場で殺しとけば良かった」


 ベネディクトが舌打ち混じりに呟くと、ひとりでに鎧が動いて彼女の顔面を覆った。

 武装の完了を告げるように赤く一瞬の発光が行われ、戦闘態勢に入る。

 ベネディクトが床を蹴ると、木の床材が剥がれるほどのパワーでチミーへ接近した。

 

 が、しかし。


「遅いね」


 チミーは高速で放たれたベネディクトの拳を掴むと、がら空きの腹部へカウンターの拳をお見舞いした。

 ベネディクトは再び後方へ吹き飛び、インテリアへ激突して破砕音を響かせる。


「あー……殴った後で聞くのもアレなんだけど。あの人、誰なんです?」

「人に見えるけど、『エリア6』のマスター・カレクトルなの」

「えっ!?」


 アリスから説明を受けたチミーは驚きを隠せないでいた。


「『エリア6』のマスター・カレクトルって言うと、確か名前が……」


 チミーが思い出すようにそう呟いたその時、アリスは『エリア5』のマスター・カレクトル、シャドルペダルから聞いた事を思い出す。


「『エリア6』のマスター・カレクトルは『ベネディクト・O(オー)・ナー』って名前だけど、決して『O(オー)・ナー』とは呼ばないように」


 シャドルペダルはアリス達へ、そう注意を促していた。

 だがしかし、その時チミーは意識を失っており注意を聞いていない。

 アリスの背筋に、嫌な予感が走った。


「チミーちゃん! 待っ……」

「『ベネディクト・O(オー)・ナー』、だったかな。アンタがそうなの?」


 チミーがその名を口にした途端、その場が一気に凍り付くような雰囲気が広がる。

 体を持ち上げかけていたベネディクトは停止し、静かに呟いた。


「……その名で私を呼ぶな」


 ドスの効いたその呟きが耳に入ったチミーは、何かやってしまったかと言わんばかりに口を紡ぐ。

 しかし、既に手遅れであった。


「私の大嫌いな名前を! 人間らしくない名前を! 呼ぶなよ!!」


 『エリア6』のマスター・カレクトル、ベネディクト・O(オー)・ナー。

 彼女は人間に憧れたが故に、自らの名を嫌っていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ