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理由は知らん

 すかさず拳銃を引き抜いたアリスは、棒立ちするヒドロに向かって数度の発砲を行う。

 弾丸が体を貫通して深い紫の液を飛び散らせるも、ヒドロは余裕の表情を続けていた。

 アリスが発砲を止めると、弾丸に穴を開けられた体が元に戻っていく。


「効かねえんだよ、残念ながらな」


 笑みを維持しつつそう言い放ったヒドロは膝を曲げて姿勢を低く取ると、地面を蹴った。


「ッ!」


 走り出したヒドロに対し、アリスは反射的に再度の発砲を行う。

 しかし弾丸が刺さっても怯むことのないヒドロは、あっという間にアリスの目の前にまで迫った。

 

 だが彼女の立っている場所まで数メートルといった場所で、ヒドロの動きが停止する。


「ああ?」


 振り返ったヒドロの視界に映ったのは、自身の背中から生える氷の滝。

 ヒドロの体に突き刺さった『凍結弾』が発動し、生成された氷が地面を掴んだのだ。

 ヒドロは動こうとするたびに『凍結弾』を浴びせられ、次々と体が凍らされていく。

 これにはさすがのヒドロも、焦りを隠せないでいた。

 

「ちくしょう……だが、まだだぜ!」


 ヒドロは唯一動く右腕を上げたかと思うと、その形状を変化させる。

 人と変わらぬ腕から巨大なナイフのような形に変えた腕を、自身の首へ振り下ろした。

 水を斬るような軽やかな音と共に、ヒドロの首が切断される。


 すると落ちた首は笑みを浮かべ、再び動き始めた。

 アリスが発砲するも、難無く回避されてしまう。


 アリスの弾丸を回避したヒドロの首から、生えるように少しずつ肉体が現れ始める。

 それは立ち上がりながら次第に手足を形作り、元の姿へと戻ったのだ。

 凍らせていた方の肉体は、いつの間にか泥のように形を崩している。


「どうすれば……」


 物理攻撃は効かず、動きを止めても体を斬って再生する。

 チミーでさえ一瞬で倒されてしまうほどの実力に、対峙するアリスの額に汗が浮かび上がった。


「あなたは一体、何者?」

「言ったろ? 俺はヒドロ。毒性生物だ」


 アリスの質問に、戦闘態勢を中断したヒドロが答える。

 化け物の姿をしているが、どうやら意思の疎通ができるようだ。

 アリスは続けて、ヒドロの目的を尋ねる。


「何のために私達を狙っているの? 初対面のはずだけど」

「『生け捕りにしろ』って言われただけだ。理由は知らん」

「それは『アナグマ商会』の命令かしら」


 ヒドロはチミーを倒した際、以前戦った『アナグマ商会 戦闘担当』を名乗るロボット……ワーク・ショップの名を出していた。

 彼も同じ所属なのかと思ったが、どうやら少しだけ違う様子。


「そうだな……俺たちは『アナグマ商会』と契約している業務委託(アウトソーシング)ってところだ。世界がこんな状況の中、物資を保証できるだけの力を持っているのは『アナグマ商会』しかねえ。支援欲しさに、こういう事をやってんのさ」

「ああ、そう。じゃ、分かり合えないわね」


 ヒドロのご丁寧な説明とは対照的に、冷たい目をしたアリスが再び発砲する。

 脚に放たれたそれを難無く避けたヒドロだったが、避けた『凍結弾』が地面に突き刺さった。

 発動した『凍結弾』はヒドロの足元を凍らせ始め、周囲の地面を覆い尽くす。


「おわっ!?」


 凍り付いた地面にバランスを崩したヒドロは、思わず倒れてしまいそうになった。

 だが足裏をスパイクのような鋭利な針状に変形させることで、前に一歩出た状態のまま踏みとどまる。

 一瞬だけ硬直したヒドロの元へ、ギルバートが太刀を振り上げて襲いかかった。

 ギルバートの放つ斬撃を、ヒドロは上半身の動きだけで回避していく。

 

「ちぃっ、ロボットか! 毒ガスは効かねえみたいだな」


 ギルバートの攻撃を避けながら不利を悟ったヒドロは、横薙ぎの一閃を潜るように避けて拳を握りしめ、ギルバートの腹部へ叩き込んだ。

 大型生物の突進にも匹敵する衝撃が走り、ギルバートの体幹が揺らぐ。

 すかさず彼の手首を掴むと、ヒドロはギルバートの顔面に拳を放った。

 

「ぐっ……」


 金属のへこむ、鈍い音が鳴る。

 追撃を加えるべく口を開け鋭い歯を見せたヒドロだったが、発砲音を聞いて即座に頭を下げた。

 アリスの放った弾丸は、ヒドロの頭上を通り過ぎる。


「はあっ!!」


 弾丸に気を取られたヒドロへ、ギルバートの太刀が振り下ろされた。

 左肩から右腋にかけての斜め一筋に斬撃が炸裂し、ヒドロの上半身があっさりと切断される。

 落ちた上半身へアリスの追撃が放たれ、魔弾によって氷漬けとなった。


「ふん、この程度で俺が死ぬわけねえだろ」


 氷に覆われながらも笑みを見せるヒドロの体が、即座に再生を始める。

 綺麗に切断された断面から肉が生え、再生した下半身の力で氷が砕かれた。

 すっかり元に戻ったヒドロは(まと)わりつく氷の破片を払いながら、ギルバート達の方を見る。


 が、しかし。


「あら……?」


 既にギルバート達はその場にはおらず、走り去る車だけが見えていた。



 

 アリスとギルバートがヒドロと戦っている裏で、ビリーが車の用意とチミーの救出を行っていたのである。

 ビリーはバックミラーを確認し、ヒドロが追ってこないことを確信した。


「何だったんだ? アイツ」

「アナグマ商会が何だとか言ってたな。つまりは邪魔者ってわけだ」

「あんなのにずっと絡まれちゃ困るわね……それに」


 後部座席に座っていたアリスが視線を下へ向ける。

 彼女が膝で寝かせる形で、チミーが横たわっていた。


 チミーからは全く、目を覚ます気配が無い。

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