人間を好きになるようプログラムされているからな
仄暗い穴の底から、チミーは上から様子を伺うアリス達に声をかけた。
「倒した! すぐ戻るー!」
その言葉を聞いて、アリスは上から了解の合図を送る。
合図を見届けたチミーは、頭部だけとなったプルライダーに再び振り返った。
プルライダーは僅かに発光した後、チミーに自分達カレクトルの事を語り始める。
「俺達が何故、ギルガンを殲滅しているか。って聞いてたよな?」
チミーはプルライダーと戦闘を行う前に、道路で見た巨大なギルガンの事について彼に尋ねていた。
その時は「命令されただけだ」とはぐらかしていたが、彼は今度こそ事実を語る。
「俺達カレクトルとギルガンは、元々同じ場所にいた」
方や、人智を遥かに越えた機械集団。方や、理性のない化け物。
同じ場所にいたというにはあまりにも対極の存在だが、プルライダーが嘘をつくとは思えない。
「ギルガンはこの星に来て、君たち人間へ襲いかかるようになった。この星に用があった『創造主』は、邪魔者であるギルガンの殲滅と、この星で最も繁栄している種族である君たちを庇護することを俺達に命令したのさ」
「『創造主』は、何の用があってこの星に来たの?」
「それは分からねえ。本当だぜ? 『創造主』の考えていることは、俺達マスター・カレクトルには分からねえ領域だ」
結局、『創造主』が全ての鍵を握っているのだろうか。
続いてプルライダーは、この世界の状況について話し始める。
「ここが『エリア4』なのは知っているよな? こんな感じで、カレクトルは区画を分けて管理を行ってる。現時点で『エリア8』までだ」
「意外と少ないわね」
「こんな状況だ。人間の文明は半壊し、数もかなり減ってるからな」
プルライダーはチミーの疑問に、どこか寂しげな声色で、呟くようにそう返した。
そしてチミーに、一つのアドバイスを送る。
「『創造主』の居場所は、俺にも分からん。だがとりあえず……『エリア6』へ行ってみるといい」
「『エリア6』?」
突如として示された場所に疑問を感じたチミーだったが、これにはちゃんとワケがあるようだ。
「『エリア6』のマスター・カレクトルは、俺達の中でも特に人間が好きな奴だ。俺と同じく話せないこともあるだろうが……多少の手助けくらいは、してくれると思うぜ」
「それ、信じていいの?」
「通信が届かない状態なんだ。わざわざいらん嘘をつくほど、人間に寄せちゃいねえよ」
そこまで言われたが、まだ疑問が残る。
チミーはそれを、プルライダーにぶつけてみた。
「なんで……そこまで、良くしてくれるの? 敵のはずなのに」
そう。プルライダー達カレクトルにとって、チミー達の存在は『創造主』の正体を暴こうとする邪魔者である。
そんなチミー達を有利にする情報を与えるのは、何故なのか。
それは至極単純なことだった。
プルライダーは上を向き、呟くように理由を告げる。
「そりゃあ俺達は、人間を好きになるようプログラムされているからな」
穴から脱出したチミーは、アリス達の元へ駆け寄った。
プルライダーは穴の中で放置してある。
変な事されても困るし、どうせ何とかするだろうという信頼から。
「奴は?」
「倒した。頭だけになったから、もう何もできないはず」
「そうか。よくやってくれたな」
プルライダーに残る力を全て使い切ったチミーは、もう体力が限界まで来ていた。
だが施設には、復活したカレクトル達が残っている。
「チミーちゃんは休んでて。後は私達が、何とかするから」
チミーにそう告げたアリスはビリー、ギルバートと共に施設へと足を進めた。
アリス達が施設へ再び突入してから、数十分の時が経った頃。
チミー達4人は、監視室に集まっていた。
チミーの足元に、アリスとビリーが仰向けで倒れている。
「た、助かった……」
「チミーちゃんが来てなかったら、もっと大変だったわね……」
アリス達は思いのほか多かったカレクトルを捌くことに苦戦し、疲弊しきっていた。
だが途中で回復したチミーが参戦したことも相まって、カレクトル達を粗方倒すことに成功する。
チミーの傍らで、ギルバートが監視室のキーボードを操作していた。
部屋のど真ん中にある巨大なパネルに、この建物の周辺地形が描かれている。
無人の建物が建ち並んだ、存在感はあれど寂しい地域だ。
「プルライダーは『エリア6へ行け』って言ってた。そこのマスター・カレクトルなら、私達に協力してくれるかもって」
「ほーん。……『エリア6』はこの方角にあるらしい」
ギルバートがキーボードを叩くと画面が切り替わり、エリア同士で繋がっているマップが表示される。
彼が指し示す方角に行けば、『エリア6』へ到着することができるのだという。
「私が最初に墜落した……アリス達の家があった場所の近くを通るのね」
「みたいだな。寄ってくか?」
ギルバートの問いに、チミーが小さく頷いた。




