ほんと、趣味悪いわね......
投稿しようとしてる時に寝落ちしてました。(言い訳)マジですみません......
復活したチミーの姿に、プルライダーから僅かに狼狽えた気配が現れた。
「時間稼ぎでしかなかった、ってことかよ。ハナっから、勝つ気はなかったのか」
プルライダーにそう言われたアリスは、彼の言葉を否定する。
「いや? 一応、勝とうとはしていたわ。でも思いのほか強かったから……もっと強い人が目覚めるまで、時間を稼いだ方がいいなと思って」
アリス達が稼いだ時間はそう多くなかったが、チミーが動けるぐらい回復するには十分すぎる時間だった。
チミーは拳を握りしめながら、プルライダーの元へ足を進めていく。
地面を強く蹴ると、一気に目の前まで距離を詰めた。
「ッ!?」
振りかぶられた拳を、プルライダーは展開した盾で受け止める。
金属の反響音が雄叫びの如く鳴り響き、ビリビリと揺れ動く衝撃波が近くにいたアリス達の肌を震わせた。
プルライダーが盾を変形させて拳の拘束を狙うも、腰を捻ったチミーが叩き付けるようにその腕へ蹴りを放つ。
尋常でない威力をしたその蹴りは、プルライダーの前腕部を大きく歪ませた。
大ダメージを貰ったことで錬俱磁俱による変形が中断され、チミーは拘束から逃れて後ろへ下がる事に成功する。
「しゃあッ!!」
そこに、プルライダーが迫った。
薙ぎ払うような腕のスイングをスウェーで回避したチミーは、踏み込んでカウンターの拳を放つ。
金属の歪む音を立ててプルライダーの頭部を歪ませたものの、プルライダーは怯まなかった。
チミーの腹部へ膝蹴りを食らわせた後、振り上げた手のひらを錬俱磁俱で変形させる。
フォークのように鋭く尖った5本指を、チミーに向かって振り下ろした。
「!」
チミーは仰け反りながらも、両手で指を掴んで直撃を阻止する。
だがそれを読んでいたプルライダーの足払いによって両足が宙に浮き、バランスを崩して倒れてしまった。
背を打ったチミーは、腕を十字に組むことで追撃の拳を防ぐ。
「くっ……!」
みしみしと、骨が軋む感覚を覚えた。
プルライダーは建物との錬俱磁俱から分離した状態とはいえ、マスター・カレクトルであることには変わりない。
生半可な実力で倒せるほど、甘い相手ではないのだ。
だからこそ、チミーが動けるうちに倒す必要がある。
「……!?」
地響きが周囲を揺さぶり始めたかと思うと、地面が唐突に陥没を起こした。
そこに、チミーとプルライダーは飲み込まれるように落下していく。
「らあッ!!」
落下したことでプルライダーの拘束から逃れることに成功したチミーは、空中でプルライダーの顔面に蹴りを放つ。
腕を上げてそれを防いだプルライダーだったが、そのあまりの衝撃に体が一瞬だけ硬直してしまった。
その一瞬を逃さなかったチミーは回転し、今度こそ顔面へ蹴りを喰らわせる。
「うおっ……」
特急列車の如き勢いで顎部分を叩き抜かれ、プルライダーは穴の底に叩き付けられた。
即座に起き上がった彼の頭上から、チミーが襲いかかる。
「おお、らあッ!!」
落下の勢いを『永遠なる供給源』によって加速させ、運動エネルギーを最大限に引き上げた拳骨がプルライダーの顔面を再び地面へ叩き付けた。
深い穴に反響音がけたたましく鳴り、衝撃が地面を揺らす。
プルライダーが再び立ち上がった時には、胸を大きく開いて右拳を振りかぶったチミーの姿があった。
「どぉりゃああああああッッッ!!!」
そして防ごうと構えられたプルライダーの腕ごと、彼の顔面を全力の拳でぶん殴った。
金属が千切れ、破砕する音と共に、プルライダーの頭部が吹っ飛ぶ。
頭部を失った彼の体は、重い音を立てて静かに倒れた。
吹っ飛んだプルライダーの頭部を見て、チミーの表情が固まる。
「頭、飛んじゃった……」
相手は機械であるカレクトルとはいえ、まるで人間のように振る舞っていた者の頭が吹き飛んでしまったのだ。
妙な罪悪感に苛まれながら、転がっていったプルライダーの頭部へ近付いていく。
彼の顔部分を覗き込んだ、その時。
「わっ!」
「うわぁっ!?」
頭部が突然チミーの方を振り向き、発光して声を発した。
驚いたチミーが反射的に頭部を蹴り飛ばすと、頭部は「いてっ!」と声を上げながら岩にぶつかる。
頭部だけの状態だが、プルライダーはまだ生きていたのだ。
心拍の早くなった胸を押さえるチミーを見て、プルライダーは笑い声を上げる。
「あっはっはっはっは! あんだけ強いのに、心臓は弱いんだな!」
「ほんと、趣味悪いわね……」
遊ばれた事に対する怒りを呟きながら、チミーは再び拳へエネルギーを充填し始めた。
それを見たプルライダーは、彼女を落ち着かせる。
「待て待て。こんな状態じゃ、俺はもう戦えねえよ」
「本当?」
「嘘なんてつかねえよ。つくならもっとマシな嘘をついてる」
プルライダーの力『錬俱磁俱』は、物体の性質を変化させる力。
周囲に何もない状態で、頭部だけとなった彼ができることはないだろう。
チミーは彼の言葉を信じ、拳を下ろした。
「ようし、俺の負けだ。それで……えらくデケェ穴作ったな?」
敗北を認めたプルライダーが、頭上を見上げて呟いた。
チミーが『永遠なる供給源』によって空けた陥没は深さ十数メートルの大穴。
建物が一件、丸ごと入るくらいの大きさである。
「この深さじゃ、通信も通らねえ。……そうだ」
大穴の出口を見上げながら、プルライダーが何かを閃いたように呟いた。
顔をチミーの方へと向けると、彼女に一つの提案を行う。
「ちょっとだけ、カレクトルの事を話してもいいぜ」
そう言ったプルライダーの顔からは、表情のないフルフェイス型のパーツの中に笑みが見えた気がした。




