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家族であり、相棒

運命を廻す者ローリング・デスティニー』。


この星を滅ぼそうとした『星の管理者』を倒すべく、『蠱毒の呪い』と『7つの宝珠』の力を取り込んだ末にチミーが手に入れた、『運命を操る』能力。

チミーはその能力を使って『星の運命』を握る『管理者』を倒し、『星の運命の中心』を自分自身に移行させる事によって『管理者』と成り、星の消滅を防いだ。


そんな『運命を廻す者ローリング・デスティニー』が今、自身の体から失われている事に気付いてしまったのだ。


運命を廻す者ローリング・デスティニー』は、この星の運命そのもの。

それが失われているということはすなわち、今のチミーはこの星の運命の、『中心』ではないという事だ。


私が目を覚ますまでの間に、一体何が起こったっていうの......?

テンガロンハットの男はそんなチミーの焦りに気付く様子も無く、目を瞑って軽く2度の頷きを見せる。


「オーケーお嬢ちゃん。君がその『管理者』だろうとそうでなかろうと、只者じゃあないのはよく分かった。」


男はそう言って理解を示した後、最後の唐揚げを口に放り込んでから水を一気に飲み干した。

席を立ち、背中越しにチミーへ声をかける。


「俺も実は用があってな.....ついてきな。知ってる範囲でなら、教えてやる。」


そう言って男が店を出て行ったのを見て、チミーは急いで最後のカツとサラダを口に含み、「ごちそうさまでした!」と叫んで店を飛び出した。


だぼっとしたポケットに手を突っ込み、飄々と荒んだ道を歩くテンガロンハットの男。

追い付いたチミーは、彼の少し後ろを付いていく形で歩いた。


「えっと.....」

「そういや、名前を聞いてなかったな。俺はビリー・クック。お嬢ちゃんは?」


カウボーイのような格好をしたその男.....ビリーはチミーの方を振り向き、後ろ歩きで道を進みながら名を尋ねる。


「私は染口チミー。さっきはありがと。」

「気にすんな。......オッケーチミー!磁石みてーに、しっかり付いてきな。ついでに、その小生意気な態度を改めてくれるといいんだが......」


こうしてお互いの名を知った2人は集落から出て、灰色の荒野を歩き始めた。

何も無い瓦礫の道を行きながら、ビリーが口を開く。


「なぁ、チミーは動物とか好きか?」

「......まぁ、好きだけど。」


唐突な質問に困惑しつつも、チミーは素直に答えた。

その言葉を聞いたビリーは前を向いたまま人差し指を立て、これから行く場所の事を説明し始める。


「今から向かう場所には、動物がいっぱい来るんだぜ。ウサギ、鹿、イノシシ、あとは......リスも見たな。」


指折り数えながら、チミーに動物の紹介をし始めていたビリー。

しかし唐突に、彼はその歩みを足を止めた。


「!」


チミーも能力によるエネルギー感知によって、ビリーが足を止めた『理由』に気付いていた。

"見える"のは、計6つのエネルギー。

顔を半分だけ振り返らせて口に指を当て、"静かに"のジェスチャーを送ったビリーの視線の先に、紫色の何かが蠢いていた。


ギルガンの群れである。


その辺の生き物とは明らかに姿形が異なる異形のそれは、膨張した筋肉を窮屈そうに曲げて腰を下ろし、横たわっている何かを貪り食っている。

恐らく、ビリーが獲ってきていたような野生生物だろう。

遠目で見てもよく分かる、血の色に染まった土を見たチミーは思わず顔をしかめてしまった。


そんなギルガンを視界から逃さぬように凝視しながら、ビリーはそっと腰のリボルバー銃を引き抜く。

ちらりと視線を落とし、シリンダーを開けて弾が込められている事を確認した後、後ろにいるチミーへ振り返った。


「いいか、チミー。俺が奴らの気を引きつけるから、お前は静かに......」


そう言いかけたビリーの顔は、一筋の汗のみを垂らして固まってしまった。

既にチミーは、ビリーの背後から居なくなっていたのだから。


「はあァッ!!」


前方から聞こえたチミーの声に反応して再び視線を戻すと、たむろしているギルガンの群れに突っ込むチミーの姿があった。

思わず声を出そうと口を開けたビリーだったが、その口は開いたまま、声は出なかった。


突っ込んできたチミーに気付いた1匹のギルガンが、他のギルガンにそれを伝えるべく口を開ける。

だが鳴き声を発するより先に、その顔面に膝蹴りが突き刺さった。


膝蹴りを受けたギルガンは、スナック菓子のように簡単に割れた顔面を押さえてもがく。

他のギルガンがそれに気付き、一斉に視線を空へ向けた。


膝蹴りを入れたギルガンの顔面を使って跳躍したチミーは空中で1回転し、そのまま空中で回し蹴りを放つ。

1匹のギルガンを蹴飛ばしたところで着地し、放たれた腕をスウェーで回避。

チミーは『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動し、ギルガンが腕が発生させた運動エネルギーを操り始める。


ギルガンは放った腕を戻せず、それどころか見えない力に引っ張られる形で宙に吹っ飛んだ。

腕を基点として宙を半回転し、凄まじい勢いで地面に叩き付けられる。


「ガアアッ!!!」


牙のように鋭い棘が備わっている手を持ったギルガンが叫び、その棘を手から射出。

弾丸のような速度で、チミーのゴーグルに迫った。


が、しかし。


「残念。」


棘はチミーの目の前で勢いよく速度を落とし、回転も失って地面に力無く落ちる。

ニヤリと笑ったチミーを視認した頃には、そのギルガンの顔面に拳が叩き込まれていた。


引くと同時に拳を開き、全身をくるりと半回転。

右腕を前に突き出して構え、こちらに向かっていた2体のギルガンに手のひらを向ける。


「どーん!」


ふざけ気味な言葉と共に放たれたのは、黄金色の破壊光線(レーザービーム)

木の幹の如き太さに、空気をも焼き尽くす熱量。

そんな光線を正面から受ければ、たとえギルガンだろうとまともに立っていられるわけがない。


全身を焼かれ、完全に力を失って倒れる二体のギルガン。そして今、立っているのはチミーだけ。

ほんの数秒の出来事だった。


そんな凄まじい光景を見て、ポカンと口を開けて突っ立っているビリー。

チミーは振り返り、自信満々に笑みを見せた。


「これで分かったでしょ?私、強いんだよ」


抜いていたリボルバー銃を静かに腰へ戻し、金縛りが解けたように肩を下ろすビリー。

感心するような、呆れたような表情で一言呟いた。


「こいつぁ、とんでもねぇや......」






チミーの戦闘力を目の当たりにし、まだ呆然としていたビリーだったが、目的の場所が見えてくると正気を取り戻した。


そこは瓦礫に囲まれた、大きな水たまり。

ビリーの言った通り、複数の鹿や兎、狸なんかもいる。

野生動物達が住処にしているのだろうか。


チミー達の存在に気付き、2頭の鹿が逃げ去って行く。

逃げていく様子に少し寂しさを覚えつつ、2人はそんなオアシスに足を踏み込んだ。


「ここが、俺の狩り場だ。野生動物達がここを住処にしているみたいでな。」

「それにしてもさっきのギルガンといい、ここまで来るのにちょっと危険じゃない?よく見つけたわね。」

「ちょいと、探しているものがあってな。」


瓦礫に腰掛けつつ言った意味ありげな言葉にチミーが首を傾げると、ビリーは聞いてもいないのに語りはじめた。





俺には、飼っている馬がいる。

名前はマキシマム。綺麗な栗毛に凛々しくも愛嬌のある瞳を持った、何とも可愛らしい馬だ。


この世界がこんな風になり、周りからは何もかもが失われていた中、マキシマムだけは生き残って俺に寄り添ってくれていた。


なんで馬を飼ってんだ、カウボーイみたいな格好をしてるし、牧場でもやってたのか?って思っただろ?

残念、ハズレだ。


マキシマムは、今は亡きばあちゃんがくれた形見なんだよ。

このカウボーイみたいな格好は、ただの趣味だ。いいだろ?


俺が一人立ちし始めた頃、心配しくれたばあちゃんが譲ってくれたんだ。


「こいつを売って、生活の足しにしな。」


馬ってのは高価な生き物、それもマキシマムくらい立派な馬を売れば、しばらくの生活には困らない程の大金が手に入るだろう。


実際、俺は金遣いが荒くてね。ばあちゃんの心配どおり金が無かったから、この贈り物はありがたかった。


だが、俺がマキシマムを売る事は無かった。

ばあちゃんは、マキシマムを相当に可愛がっていた事を知っていたからな。

にも関わらず、孫のためを思ってマキシマムを手放した。それが容易な気持ちでやったことでは無いことは、誰だって分かるだろ。


ばあちゃんは売っていいと言ってくれたが、俺にはコイツを売る事はできねぇ。

たとえばあちゃんが馬と孫とを天秤にかけて俺を選んでくれたとはいえ、売れば絶対に後悔と罪悪感に苛まれる。


そう思った俺は、マキシマムを売らなくて済むほどの金が稼げるよう必死で働いた。


同時に乗馬の練習も行って、ばあちゃんに少しでも喜んでもらおうと必死で動いていた。

俺もマキシマムも、元気にやってるぜ。ってな。


「ばあちゃんがいなくなった今でも、マキシマムは俺の大切な家族であり、相棒だ。」


ビリーはそう締めくくり、語りを終えた。


「探してる、ってのはその馬のこと?」

「おぉ、察しがいいな。」

「そりゃあ、そこまで言われるとね......」


チミーの突っ込みに軽く笑うビリー。

しかしその後、一つ間をおいて表情は一変。彼は少しだけ寂しさを帯びた、険しい顔となった。

瓦礫に背を預けて腕を組み、チミーは続きを聞く姿勢に入る。


「ギルガンに襲われて、はぐれちまってな.....。無茶して色々と探し回っているうちに、ここを見つけたんだ。動物の溜まり場になってるなら、マキシマムもここに来てねぇかなと思って毎日来てるが、生きてるかどうかも......」


悔しげに下唇を噛み、震える声を抑えるビリー。

家族を失ったかもしれないと思った時の気持ちは、チミーもよく分かる。


一つ呼吸を置いて、チミーは彼に言った。


「私も一緒に探すよ。そんな話を聞かされて、放っておくわけにもいかないでしょ?」

「......悪いな、ありがとう」


軽く笑って感謝を述べたビリー。

チミーの顔を見るべく、彼が顔を上げたその時だった。


「......!」


視線がチミーに到達するより前。ビリーが視線を正面に向けた時、『それ』が視界に映った。

ビリーの様子に違和感を覚えたチミーも視線を上げると、その姿に気付く。


「へ!?」


しかし、『それ』は一つだけではなかった。

自分たちの周囲を、取り囲む形で迫っている。

二足歩行の、腕が二本。だが『それ』は人でも、ギルガンでも、野生動物でもなかった。


「警告。此方は境界線付近。速やかに退避を勧告します。」


金属の擦れ合う音に、抑揚のない合成音声による警告。


「ろ......!?」


チミー達を取り囲んだのは、人の形をしたロボットの集団だった。

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