カレクトルと戦った経験は?
廊下の角から、ビリーとアリスが顔を覗かせる。
2人の視線の先には、廊下で屯しているカレクトル達の姿があった。
その数は、多いなんてものじゃない。
「ほら、あそこだけカレクトル共が固まってるのは怪しいだろ?」
声を潜め、ビリーがカレクトル達へ指をさしながら言う。
先程ビリーが追われていた時に、この場所を発見したのだ。
目一杯に詰め込まれたカレクトル達は、戦闘中にも関わらず動く気配が無い。
まるで何かを、守っているようにも見える。
そんな彼らの姿を見たアリスは眉間にしわを寄せ、静かに呟いた。
「確かに怪しいわね……けど、この先に電源の供給場所があるとは限らないじゃない」
「う……まあそうだがよ、何かあるのは確実だろ? 俺らにできそうなことは、片っ端から手を尽くさねえと」
外ではチミーがプルライダーを相手にしている。
そんな大役を背負わせているチミーの負担を、少しでも減らさなければ。
「分かったわ」
ビリーの言葉にため息を交じえながらも納得したアリスは、再度顔を出してカレクトル達を睨む。
角へ頭を引っ込めた後、一つビリーへ尋ねた。
「ねえ。カレクトルと戦った経験は?」
アリスからの質問に、ビリーは胸を張って快く答える。
「ああ、あるぜ? 一度に8体倒したこともある!」
チミーと共に『エリア3』のマスター・カレクトルであるガルダパンクと戦った時の事を思い出しながら、ビリーは自慢げにそう語った。
それを聞いたアリスは軽く息を吐き、一言だけ述べる。
「じゃ、大丈夫そうね」
「何が?」
聞き返すと同時に、ビリーの背中へ大きな衝撃が加わった。
アリスに背中を蹴られたことによって体が大きく前進し、ビリーは角から廊下へ飛び出してしまう。
思い切り飛び出したビリーの姿に、廊下の先で立っていたカレクトル達が一斉に視線を向けた。
「あ~……ハロー?」
「伏せて!」
カレクトル達に手を振って挨拶をしようとしたビリーは、アリスの叫び声に体を跳ね上げさせる。
慌てて頭を伏せたビリーの隣……廊下の角から、アリスの拳銃が現れていた。
カレクトル達に向けられた銃口が発光すると、響き渡る破裂音と共に一発の銃弾が放たれる。
弾丸の色は黒。
カレクトル達は現れたビリーの姿に気を取られ、対処が一瞬だけ遅れてしまった。
手に持っている銃を弾丸に向けようとするが、もう手遅れである。
次の瞬間。弾丸がカレクトルの装甲へ触れたと同時に、そこを中心として黒い渦が周囲を包み込んだ。
黒の魔弾『重力弾』。魔弾の力によって急激な重力を発生させ、超質重力圏を作り出したのである。
超質重力圏は凄まじい勢いで周囲を飲み込み、カレクトル達は無慈悲に吸い潰されていった。
魔弾の効力が切れて超質重力圏が閉じた頃には、カレクトルの数は半分にまで減っている。
臨戦態勢を取り始めたカレクトル達に対して、廊下から飛び出したアリスがニヤリと笑った。
「さあ、やるわよ!」
そう言って放った2発目の弾丸は、白色の銃弾。
発射されると同時に、弾丸は白く大きな板へと変形する。
展開された板はカレクトル達の銃弾を受け止め、甲高い音を鳴らせながら弾き飛ばした。
白の魔弾……『障壁弾』。
放たれた途端に展開される白い板は、強化ガラスを遥かに上回る強度で使用者を守る。
アリスは障壁弾で身を守りながら、白い板を押すように前進を始めた。
カレクトル達が放つ弾丸はアリスには命中せず、ただ距離だけが縮まっていく。
「危ねえっ!」
その時、ビリーが上を向いて叫んだ。
カレクトル達の一部が、背中に装着されてあるジェットを使用して障壁弾を飛び越えてきたのである。
ビリーはすぐさま腰から拳銃を抜き取ると、上を通過したカレクトルの頭に向かって発砲した。
近い距離で放たれた9ミリメートル弾はカレクトルの硬い装甲に突き刺さり、その機能を停止させる。
飛行中に機能を停止されたカレクトルは空中で制御を失い、慣性に従ってビリー達の反対側へ落下した。
「へえ、やるじゃない」
機能停止したカレクトルの残骸を見たアリスが口の端を持ち上げてそう呟くと、ビリーは得意げな笑みを見せつける。
「言ったろ? 俺は優秀なんだ。肝心な時にどこかへ消えちまうあのポンコツロボットよりもな」
「じゃ、他のもお願いするわね」
「え?」
アリスの言葉を聞き返すと同時に、先程とは比べ物にならない音量の爆発音が真上へ迫った。
前方を見ると、計4体のカレクトル達が飛んできている。
「おいおい!?」
慌てたビリーは拳銃を構え、2発の発砲を行った。
一発は命中し、撃破。
しかしもう一発は脚の装甲をかすめただけで、機能停止には至らない。
3体のカレクトルが通っていくことを許してしまい、3体は背後へ着地した。
「くそっ……」
銃をこちらへ向けながら、カレクトル達はじりじりと迫ってくる。
再び発砲しようと銃口を向けたビリーだったが、それよりも先に発砲音が鳴った。
ビリーの頬をすり抜けて通っていった弾丸は、カレクトルの一体に着弾する。
途端に、その一体が激しい痙攣を起こして倒れた。
障壁弾を構えていたアリスが、もう片方の手に握る拳銃で魔弾を放ったのである。
倒れたカレクトルによって行動を阻害された残る2体を、ビリーが素早く仕留めた。
ビリーはアリスの方を振り返り、礼を述べる。
「あ、ありがとよ。次は上手くやってみせる」
「いいのよ。おかげで、近付くことができた……!」
そうこうしているうちに、障壁弾を押しながら前進していたアリス達はカレクトル達の元へ辿り着くことができたのだ。




