自分の武器で自爆するなんて
「プルライダーを倒すのが俺達の最優先事項だ。となるとやるべき事は……何だ?」
ひとまずカレクトル達の追跡から逃れることに成功したビリーが呟いた。
奴はこの建物そのものであり、物理攻撃は通用しない。
下手に動き回ればカレクトル達がそこら中から襲いかかり、じっとしていてもいずれ発見される。
ビリーがぶつくさと考えている間、隣で歩くアリスはずっと天井を眺めていた。
それに気付いたビリーが上を見るが、何の変哲もない天井があるだけである。
「なあ、何を見てんだ?」
ビリーの質問に、アリスは上を見たまま答えた。
「この建物の構造を見てるの。何かヒントが無いかなって」
アリスはそう答えた後、ビリーに一つ質問を投げかける。
「……ねえ。この施設の動力源は、何だと思う?」
アリスが見ていたのは天井に取り付けられてある電灯だった。
白い床や壁に反射してよく光るそれは、多少の形は違えど元の世界にあった蛍光灯によく似ている。
何かを生み出すには、何かを消費しなければならない。
電灯が光を放つには、動力源が必要だろうと考えたのである。
アリスの質問を聞いたビリーが、少し考えてから答えた。
「そりゃあ、電池か何かがあるんじゃねえの? カレクトル達は外でも活動してる。持ち運べる電源があるんだろうよ」
「使い切りの電池にしても充電式にしても、供給場所が必要なはず。でなければ、こんな建物必要ないもの」
「『その供給場所を機能停止に追い込めば、流石に動揺するだろう』と、言いたいわけか」
ビリーの言葉に、アリスが頷く。
それに、こんな電灯一つに電池や充電式バッテリーを用いているとは思えない。
この建物とプルライダーとが一体化しているのであれば、そこを叩けば何かが変わるのではないか。
アリスはそう考えた。
「あ」
少し考えた後、ビリーは何か思い出したように顔を上げる。
「そういやさっき、変な場所を見た気がするな」
一方、屋外のチミーはプルライダーを相手に苦戦を強いられていた。
何度破壊しても再生する体に、圧倒的な質量による攻撃。
こんなの、誰だって苦戦する。
プルライダーの肩部分が開き、数メートルもの長さをしたミサイルが大量に出現した。
空を飛行するチミーに狙いを付けると、一斉に発射される。
「ちっ!」
チミーは舌打ちをしながら飛行速度を上げ、ミサイルから距離を離す。
だが幾つも放たれたミサイルはあらゆる角度からチミーを狙っており、逃げ続けるのは厳しいだろう。
「だったら!」
急旋回し、チミーはこちらに向かってくるミサイルへ向かって突撃した。
ぶつかる直前で軌道を僅かに逸らし、紙一重で回避する。
その際、右手をミサイルの側面に触れた。
チミーに激突しなかったミサイルは再度目標を追うべく反転する。
ぐるりと半回転したその動きを、チミーは狙っていた。
「おらあッ!!」
触れていた右手に力を込め、反転したミサイルの勢いを増長させる。
槍投げの要領で、チミーはミサイルをぶん投げた。
投げた先は当然、プルライダーの体。
「はっ」
投げられたミサイルを軽く笑い飛ばしたプルライダーは、片手を前に出してミサイルを受け止める。
爆散したミサイルは、プルライダーに傷1つ付けることができなかった。
「自分の舌を噛んで傷めてしまう人間がいるらしいが……俺は違う。自分の武器で自爆するなんて、そんなバカな話があってたまるか」
そう言いながら、続けて投げられた他のミサイルも軽々と受け止める。
カウンターとして、チミーに拳を振りかぶった。
「!」
危険を察知したチミーは即座に高度を落とし、襲い来るプルライダーの拳を回避する。
避けることに成功したチミーだったが、直後。
凄まじい爆発と衝撃に襲われ、彼女の体が大きく吹き飛んだ。
プルライダーの放った最後のミサイルに、気付いていなかったのである。
「くそっ……エネルギーを感じ取れないのは、本当に不便ね」
即座に立ち上がったチミーは頬にできた擦り傷を撫でると、目の前に聳えるプルライダーを睨んだ。
細い廊下に、金属のかち合う音が響いている。
ギルバートとチーフカレクトル809とが、激しい剣戟を繰り広げていた。
809の横薙ぎを弾き返し、ギルバートが返しの袈裟斬りを放つ。
横に逸れて回避した809が、鋭い突きを放った。
「うおッ!?」
上半身を反らせながら何とか太刀で受け流す。
だがそこで発生した隙を狙い、809の前蹴りが炸裂した。
「があッ……!」
腹部に蹴りが直撃したギルバートは、その勢いで地面を転がっていく。
無機質な歩みで距離を詰めた809の追撃が、彼を襲った。
「畜生!」
ギルバートは反撃としてハイキックを放つ。
屈んで避けた809の顔面を狙い、追撃の肘打ちを喰らわせた。
固い金属の音が鳴り、809は横方向へよろめきを見せる。
「おらッ!」
よろめいた隙を狙って太刀を放つも、809の振り上げた剣に受け止められてしまった。
が、それはギルバートの想定内である。
外側から巻き込むように809の腕へ蹴りを放ち、崩れかけていた姿勢を大きく崩した。
起き上がろうと持ち上げられた809の頭が、ノイズと共に吹き飛ばされる。
ギルバートの太刀が首元を切断し、809の頭部を弾き飛ばしたのだ。
「バッテリー6%減、左腕に軽度の接続不良、か……かなり優秀なカレクトルだったな」
ギルバートは自身の状態を確認しつつ、倒れた809の体を調べ始める。
そこで彼の腰に装着されていた、あるものに気が付いた。
「なんだ、こりゃあ……?」
何かの道具だろうか。809の腰から外したそれは、薄く四角い端末のようなもの。
色は灰色で、薄く光を放っている。だが、触っても何も反応しない。
ギルバートは不振に思いながらも、それを自身の腰に装着した。




