この施設の全てが、俺なんだよ
いきなり殴りかかられたものの、プルライダーは至って冷静だった。
まるでチミーが殴りかかってくる事を、予知していたかのように。
チミーの拳を受けた状態のまま、プルライダーは言葉を放つ。
「おいおい落ち着けって。俺は別に...」
そう声を発したプルライダーの肩が、僅かに揺らいで甲高い金属音を発した。
顔を向けると、肩にうねるような電流が巻き付いている。
再び前を向いた彼の視界には、こちらに銃を向けるアリスの姿があった。
「黄色の魔弾......『電撃弾』よ!」
その横に立っていたギルバートも、ビリーも。
プルライダーを睨み、戦闘態勢を取っていた。
「全員、そのつもりってか。仕方ねぇな」
感心するような、呆れたような声色を発したプルライダーは、続けて放たれたチミーの拳を再び受け止める。
一瞬で生成された巨大な盾は、紙くずのようにへこんでいた。
「人間の事は嫌いじゃないが......俺も一応、マスター・カレクトルなんでな」
盾ごとチミーを弾き飛ばしたプルライダーは、後ろへ後ずさりながら両腕を広げる。
壁に背を付けたその時。
彼の体が、壁にめり込んだ。
「なにッ……!?」
壁に埋まっていく形で部屋を出ようとするプルライダーへ、ビリーが弾丸を放つ。
だがしかし、周囲の壁が意思を持っているかのように流動し、プルライダーを守る形で弾丸を弾いた。
ビリーの攻撃は通らず、プルライダーの体は完全に壁へ埋まってしまう。
と同時に、部屋の隅にあった扉が消えた。
出口が無くなり、チミー達は部屋に閉じ込められた形となってしまう。
「らァッ!!」
チミーは大きく振りかぶって壁を殴り、壁の1つを粉々に吹き飛ばした。
急いで部屋から廊下へ脱出した4人に、どこからともなくプルライダーの声が響く。
「染口チミー、強烈なパワーだな。ガルダパンクとやり合えるほどの実力といい、君は一番警戒しておいた方が良さそうだ。俺が相手しよう」
そう言った途端、建物が大きく傾いた。
廊下が縦になり、チミー達は床から振り落とされてしまう。
「ッ!」
チミーは落ちていくアリス達に向かって手を向け、能力を発動して彼女達のエネルギーを操ろうとする。
しかし、プルライダーはそれを許さなかった。
突如床が拳の如く飛び出して、横からチミーを殴り付けたのである。
チミーは能力の影響によって一般人よりも遥かに頑丈とはいえ、不意打ちの一撃は痛いものだ。
「なァッ!?」
空中で1回転し、落ちていくアリス達を見失ってしまう。
慌てて追おうと真下に飛行したものの、チミーと皆の間に突然現れた壁に阻まれてしまった。
「この……!」
壁を壊すべく拳を振り上げ、叩き付ける。
建物を揺らすほどの鋼の音が響くが、壁は僅かにへこんだだけだった。
「はっはっは、無駄無駄」
プルライダーの声が聞こえる。
次の瞬間、チミーの体は横方向に働く物凄い力に引っ張られた。
そして、それに連動する形で床が開き、チミーは野外へと放り出されてしまう。
顔を上げたチミーが見たのは、側方から迫り来る建物だった。
「なにッ!?」
『永遠なる供給源』を発動して防御姿勢を取ったものの、その巨大な質量が上回る。
防御越しにチミーを殴り付け、チミーを吹き飛ばした。
チミーは空中で姿勢を取り戻し、前方を睨む。
「これは!?」
「戦術戎物・『錬俱磁俱』」
夜空にプルライダーの声が大きく響き渡る。
建物全体が持ち上がり、2本の脚で自立する。
建造物の組み合わさった腕を広げ、高らかに笑った。
「そうさ! この施設の全てが、俺なんだよ! 言っただろ? 君の相手はこの俺だと!!」
エリア4のマスター・カレクトルことプルライダー。
彼の戦術戎物は物質を組み替える『錬俱磁俱』。
この施設全体を組み替え、彼は施設と一体化したのである。
施設内にてアリス、ギルバート、そしてビリーの3人は傾いた床に振り落とされて落下していた。
アリスは空中で銃のマガジンを切り替え、真下に向かって放つ。
弾丸が落下先……床と化した壁に着弾すると、薄い灰色の衝撃波を撒き散らした。
衝撃波が空中の3人を包み込むと、落下速度が急激に落ち、軽く持ち上げられる感覚に見舞われる。
「『重力弾』を使って、落下を相殺したのよ」
アリスが解説を入れながら、金髪のポニーテールをなびかせ緩やかに着地した。
続けてギルバートとビリーが着地すると、館内でプルライダーの独り言が響く。
「アリス・クランベルツ……魔弾使いか。カレクトルを何体か倒した経験があるみたいだな? 要注意だ」
そう言った後、プルライダーはギルバートの分析に入った。
「ギルバート……アリス・クランベルツの従者役をしているロボットか。コイツもカレクトルを何体か倒した経験がある……要注意だな」
途端に床から壁が生成され、3人を分断する形でせり上がった。
再び床が傾き、3人はそれぞれ別方向へ突き落とされてしまう。
「ビリー・クック……趣味でカウボーイの格好をしているが、ホントのカウボーイではないのか」
プルライダーはビリーの情報をそれしか言わなかった。
「俺は警戒されてねぇみたいだな! 逃げやすくて助かるぜ……!」
斜めの床に滑り落とされながら、ビリーはホッとしたように口の端を持ち上げる。
だがしかし、そんな彼の安心は一瞬で叩き壊された。
「コイツはチーフ・カレクトルが撃破された記録がある! カレクトルを同時に複数体相手した記録も!? 最大警戒でかかれ!」
「その話、まだやるのかよ!?」
着地した先には、プルライダーの指示通り最大警戒体制を取るカレクトル達。その数は計り知れない。
「勘弁してくれよおい……」
ビリーはテンガロンハットを被り直し、一筋の冷や汗を流した。




