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夜に外へ出てはいけない理由

 街を脱出し、深夜の道路をミニバンが駆ける。

 ぼんやりとしたライトで崩壊した道を照らしながら、ハンドルを握るビリーが口を開いた。


「さっき、待ってる間に色んな人と話をしてたんだ」


 チミー達がアナグマ商会とやり取りをしている間に、ビリーは街の人々から話を聞いていたのである。


「帰る時、街の人がほとんどいなくなっていたのは何故か知ってるか?」

 

 アナグマ商会の本部から出て街のメインストリートへ出た時、人の姿はほとんどなかった。

 入る前は夕方でも人でごった返していたにも関わらず、短い時間でそう綺麗にいなくなるものなのだろうか。

 言われてみれば、確かにそうだった。

 ビリーは前方を眺めながら、その理由を語る。


「お前らが地下に行って少し経った後、街全体に鐘の音が鳴ったんだ。聞いてみると『帰宅の合図』なんだとよ」

「『帰宅の合図』……?」


 カレクトルがアナグマ商会を介して人類を支配しようと考えているのは、会長ザブリエルから聞いた。

 その活動の一つなのだろうかとも思ったが、どうやらそれだけが理由ではない様子。


「『夜に外を出歩くと、ギルガンに襲われて死ぬ』って噂があるんだとよ。夜に外へ出た奴が口を揃えて言っているらしい」

「ギルガン、ねぇ……」


 ビリーの説明を聞いた後部座席のアリスが、その単語を復唱する。


「外へ出たらギルガンに襲われるのは、昼間でも一緒じゃないの?」

「夜行性ってわけでもないからな。何か別の理由があるんだろ」


 アリスの隣で腕を組むギルバートが、落ち着いた合成音声で同調した。

 ギルガンは昼も夜も関係なく人を襲う。

 活動の制限を夜に限定しているのは、一体何故なのだろうか。


「ま、そこらへんはわかんなかったな。カレクトルとも繋がってるって言葉が本当なら、アイツらが夜に何かしてんだろ」


 そう話しながらゆっくりとハンドルを動かすビリーの隣で、チミーはぼんやりと窓の外を眺めていた。


 月明かりに照らされる、崩れた建物群。

 電気が完全に遮断されているため、普段見ている夜景とは全く雰囲気が異なっており、一種の不気味ささえ感じられる。

 近代の建物が織りなす渓谷を通っているにも関わらず、田舎道を走っているかのような静けさ。


 もはや別世界に変わってしまった景色を見ていると、その中に一つの『違和感』を発見した。

 

「!」


 建物に隠れた景色の、その先。

 いや……()()()だった。

 

 地面の下に見える、凄まじい大きさのエネルギー。

 大きいなんてものじゃない。なぜ、直前まで気付かなかったのだろう。


 頬杖を離したチミーの表情は、ゴーグルを付けていても分かるほど焦りに満ちていた。


「何か……来る!!」


 チミーが言葉を口にした、その瞬間。


 突如その真上に位置する地面が丘のように盛り上がり、高層ビルを倒し崩しながら噴き上げた。

 地面の下から現れた物体は、ビルの大きさの比ではない。


「なんだ……ありゃあ……?」


 ビリーは車のブレーキをかけると、崩れていく地面を纏いながら現れる物体に目を凝らす。

 数十メートルにも及ぶ、見上げるような高さ。

 その両側には大樹の如き()が付いており、4本の指には巨大な爪が生えていた。


 『それ』は()を振り上げると、アスファルトの地面にヒビを入れながら歩き始める。


 そう。『それ』は見上げるほどの巨躯を持つ、怪獣の如き生物であった。


「アアアアアアオオオオッッッ!!!」


 『それ』はワニのような(あぎと)を振り上げると、空気を揺さぶる雄叫びを天に向かって放つ。

 あれこそが『夜に外へ出てはいけない理由』なのだということを、その場にいる全員が確信した。


「逃げるぞ」


 あんな大きな生物がいる中でボーッとしていれば、危険な目に遭ってしまう。

 巨大生物が地響きを起こす中、そう危険を感じ取ったビリーがシフトレバーを操作してアクセルを踏む。

 

「待って待って待って!」


 今まさに発車しようとしていたビリーへ、チミーが声を掛けて止めさせた。

 何事かと訝しげな顔を向けたビリーだったが、耳に僅かな音が聞こえてくることに気が付く。


 それはまるで飛行機のエンジン音のような轟音を響かせながら近付き、車体を揺らしながら真上を通り過ぎていった。

 

「今度は何なんだよ!?」


 張り裂けそうなほどの轟音で耳を傷めながら、ビリーはガラスに張り付いて通り過ぎた轟音の正体を追う。

 その先に黒い夜空へ煙を吐きながら、巨大生物に向かう十数の飛行物体が見えた。


 それは細長い三角形の形をしていて、まるで……


「戦闘機?」


 そう。アリスが言った通り、飛来してきた物体は戦闘機のような形をしていたのである。

 その白い装甲の一部が外れ、中からミサイルのようなものが巨大生物に向かって発射された。


 灰色の外皮に着弾し、巨大生物の体のあちこちが爆発する。

 体を揺らして叫ぶ巨大生物に、飛行物体たちは容赦なく爆撃を継続した。

 次々と行われる爆撃が、巨大生物を爆炎と煙で覆い尽くす。


「グオオオォォ……ッッ!!!」


 爆撃を払いのけるように雄叫びを上げると、巨大生物は長い顎を大きく開いた。

 その口先が淡い紅色の光を帯び始め、輝きが徐々に増していく。


 夜空の闇を押し退けるほどの輝きに到達した、その瞬間。

 

 ――――――――――ッ!!!


 巨大生物が前方を向き、開いた口から光線が放たれた。


 顔面の倍くらいの大きさをした光線は、飛行物体たちを飲み込んで空間を焼く。

 闇夜を裂くほどの眩い閃光は、見ていたチミー達が思わず目を伏せてしまうほどだった。


 光線が消滅し、夜空が再び暗さを取り戻す。

 

 光線に飲まれた飛行物体たちは、黒い灰となって静かに散っていた。

 それを確認した巨大生物は満足気な様子を見せた後、長い尻尾を翻して屈み込む。


 爆撃で傷付いた体を丸め、地響きと共に地面へ潜り込んだ。

 建物を潰して穿った大穴にその巨体を押し込むと、再び静寂が戻る。


「何だったんだ、一体……」


 ギルバートが一言呟いたその時、また轟音が皆の鼓膜を激しく揺らして走り去っていった。

 窓を覗くと、巨大生物に消されたはずの飛行物体が一機だけ飛んでいく姿が見える。

 巨大生物の光線が、仕留め損なったのだろう。


「なあ、ついて行った方がいいと思うか?」


 ぼんやりと去っていく機体を眺めながら、ビリーが呟いた。

 あの残った一機は、来た場所へと撤退するのだろう。

 それについて行けば、何か分かるはずだと。

 彼はそう思ったのだ。


「追った方が、何か情報が得られるとは思うけど……」

「あの速さを追いかけられるなんて、できないしなぁ」


 後部座席に座っていた、アリスとビリーがそう呟く。

 向こうは高速で空を飛ぶ飛行物体で、こちらはせいぜい数十キロメートルの速さを出すことしかできない自動車。追いつけるはずがない。

 それを聞いたビリーはエンジンをかけ直しながら、隣に座っているチミーに聞いた。


「だとよ。お前は、ついて行こうと思うか?」


 ビリーが向けた視線の先。

 腕を組んで座席に寄りかかっていたチミーは、不敵な笑みを見せてその質問に答えた。


「……当然!」

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