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『壊撃』のワーク・ショップ

 急に現れたかと思えば、たった1つの攻撃だけで手札を使い切ったと言うワーク・ショップ。

 そんな彼の態度に、チミー達は大いに困惑していた。


「じゃあ、通っていい?」

「いや、そいつはできねぇ」


 一応尋ねてみるも、ワーク・ショップは頑として道を譲る気はない。

 胡坐をかいて道を塞ぎ続けるワーク・ショップに対し、チミーは歩みを寄せながら口を開く。


「だったら、アンタをぶっ飛ばすしかないわね」

「頑丈さが自慢なんだ。ちょっとやそっとじゃ動かねえよ」

「言ったわね?」

 

 ワーク・ショップの威勢の良い売り葉に、チミーは拳を握りしめた。

 相変わらず座り込んで動かないワーク・ショップの前に立つと、腰をひねって大きく腕を振りかぶる。

 ワーク・ショップは相変わらず動かない。


「おらァッ!!!」

 

 ひねった腰を戻す動作と連動して、振りかぶった拳を前に突き出した。

 『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』によって運動エネルギーを増幅させた一撃が、ワーク・ショップに襲い掛かる。


 拳がワーク・ショップの丸いボディに触れると、神社の鐘の如き和音が夜の街に響いた。

 特急列車のような衝撃派が大気を走り、地面が小刻みに揺れているかのように錯覚してしまう。


「……っ!」


 ただ、チミーの表情は固まっていた。

 拳は間違いなくクリーンヒットした。発生した衝撃波の規模からも、チミーの拳は決して弱かったわけでない事が分かる。


 しかし。チミーの拳が直撃したはずのワーク・ショップの装甲には……傷1つ付いていなかったのである。


「『貰った』ぜ、その『力』……!」

 

 座った状態のワーク・ショップが顔を持ち上げてチミーの顔を見ると、その無機質な顔がどこか笑ったような気がした。


 次の瞬間。

 稲妻のように鋭い衝撃波が走り、凄まじい速度でチミーが吹き飛んだ。

 アリス達の横を通り過ぎ、めり込むほどの勢いで壁にぶつかってしまう。


「がっ……!?」


 チミーは一瞬の間で起こった出来事に、混乱と痛みで頭の中がごちゃごちゃになっていた。

 割れた建材の凸凹(でこぼこ)が背中に食い込み、嫌な痛みが背中全体に走る。

 ワーク・ショップから反撃を食らった場所である腹部も、内臓の潰れるような気持ち悪さが支配していた。


 瓦礫にまみれながら地面に降り、チミーは手をついて呼吸を整える。

 何をされたの、一体……!?

 

 動揺するチミーに対して、ワーク・ショップは上機嫌を示していた。

 いつの間にか胡坐の姿勢から立ち上がり、中腰の姿勢で膝に片手を当ててチミーを指さしている。


「手札が無かったのは事実だ。そう、アンタが俺をぶん殴るまではな!」


 そう言って金属の膝を曲げると、ワーク・ショップは空中に向かって大きく跳躍した。

 空中で拳を構えると、真下に立っているアリスに向かって全力で振りかぶる。


「ッ!!」


 アリスは咄嗟に銃を構えてトリガーを引いた。

 放たれた白い魔弾……『障壁弾』がアリスの真上に展開され、落下してきたワーク・ショップが放つ青い拳を受け止める。

 白い火花が散り、衝撃がアリスのポニーテールを揺らした。


 即座に片手でもう一丁の銃を抜いたアリスは、ワーク・ショップに向かってその銃口を向ける。

 発砲と共に空薬莢が弾け、放たれた()の魔弾が2発、ワーク・ショップへと突っ込んだ。


 

 ワーク・ショップの青い装甲へ着弾し、チミーが殴った時のような和音を響かせる。

 着弾した弾丸は散るわけでもなく、突き破ることもなく、ワーク・ショップの装甲で停止していた。


 「『貰う』ぜその『力』……って何ぃ!?」


 意気揚々ともう片方の拳を構えたワーク・ショップは、自身の体に起きている異変に気が付いた。

 着弾した弾丸が破裂し、そこから溢れるように湧き出た氷がワーク・ショップの腕を包み始めたのである。

 氷は関節部分を押さえつけ、腕の稼働を許さない。


「青の魔弾 『凍結弾』よ!」


 続々と腕が氷に包まれていくワーク・ショップへ、アリスが強気の笑みを見せて言い放った。

 着弾した場所を凍らせるだけの、単純ながら強力な魔弾。いくらワーク・ショップでも、関節を凍らされてしまえばうごけなくなるだろう。

 ……と、アリスは考えていたが。


 軋むような音が氷の表面を這い、それに薄いヒビが追従している。

 その嫌な音を聞いたギルバートは、アリスに向かって即座に走り出した。


「アリス!!」


 叫んだ途端に覆っていた氷が砕け、ワーク・ショップが再び動き始める。

 そのままアリスに向かって放たれた拳を、駆け付けてきたギルバートが庇う形で受け止めた。


「がぁっ……!」


 ギルバートは痛みを感じぬ機械の体とはいえ、流石に頭が歪むほどの一撃を受けたとなると声が出てしまう。

 しかし足を踏ん張ってその一撃に耐えたギルバートは、ワーク・ショップの腕を両手で掴んだ。


「なんでカレクトルが、『超能力』を持ってやがる……!」

「『超能力』は正解だが、残念。俺はカレクトルではないんだな!」

 

 ギルバートの言葉に笑って返したワーク・ショップは背後を振り向くと、掴まれた腕をギルバートごと持ち上げる。

 ひねった腰に力を入れ、野球ボールを投げるかのようにギルバートを腕でぶん投げた。

 投げられたギルバートの体は、反対側に立っていたビルのエントランス部分に突っ込んでガラスを破壊する。


 ガラスにまみれたギルバートを指さし、得意げにワーク・ショップが叫んだ。


「確かにこの外装はカレクトルの連中から貰った金属を加工したものだ……だが! この中身は……」

「『人間』。なんでしょ?」


 ワーク・ショップの言葉に重ねる形で、チミーが言葉を挟んだ。

 振り返ろうとしたワーク・ショップの体内に、強烈な痛みが駆け抜ける。


「いてててててててっっっ!?」


 締め付けられるような気持ちの悪い痛みが、ワーク。ショップを容赦なく突いた。

 頭部を押さえ、ワーク・ショップは痛みを振り払うべく体をよじらせる。

 

改造人間(サイボーグ)とかそんな部類? 外装は機械だけど、脳みそだけは残っているみたいね」


 そんなワーク・ショップへ手のひらを向けた状態で、チミーが笑みを浮かべていた。

 彼女は『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を使って、ワーク・ショップの体内に埋め込まれた『脳』に宿るエネルギーを掴んだのである。

 

 彼女はワーク・ショップを見た時、中心にだけエネルギー反応があることに気が付いたのだ。

 その大きさと形からして、それが彼の脳だということにも。


 ワーク・ショップは頭部を抑えてもがき苦しみ、逃れられない頭痛を振り払うべく虚空を殴っている。


「脳みそだけは人間のものを持っているから能力が使えるのね。これでアンタは下手に動くと、脳みそが潰れて死ぬようになったわよ!」

 

 とはいえ、ワーク・ショップは機械の体ではあるものの脳は人間のものだ。

 下手に傷付けて脳を破損してしまえば、人間を殺害したと同義だろう。

 チミーに人殺しをできる胆力は無い。脳を掴んでいるとは言っても、その強気な態度の裏で極限まで緊張している。


 そんな彼女の緊張を撃ち破ったのは、アリスの放った弾丸だった。

 火を吹く銃口からはじき出された黒い弾丸は、もがくワーク・ショップの背中に激突する。

 触れた面から和音が響き、声高に空気を震わせた。

 

 「へへっ、だからそういうのは効かねえんだって……っておわぁっ!?」


 振り返ったワーク・ショップは、自身の視点が徐々に高くなっていることに気付き、その理由を知って叫んだ。

 下を向いた彼の視界には、だんだんと遠ざかっていく煉瓦(レンガ)の地面が見えている。


 そう。ワーク・ショップの体が、宙に浮き始めたのだ。

 まるで凧揚(たこあ)げの(たこ)、子供が紐を手放した風船のように。


 「『重力弾』。着弾した場所に重力を付与したり、逆に奪うこともできる魔弾よ。」


 銃を構えた状態のまま、アリスが笑った。


「この魔弾であなたの『重力』を奪った。今のあなたは、ヘリウムよりも軽いわ!」

「くそっ……! 何とかしねえと!」

「無駄よ」


 何とか地上に戻るべく体を動かすワーク・ショップだが、体は無慈悲に上昇していく。

 地上から十数メートル。地上から離れ、徐々にその姿が小さく見えていった。

 アリスは2丁の拳銃を腰のホルダーに片付けると、豆粒のように小さくなったワーク・ショップを見上げて言い放つ。

 

「Bon vol! (フライトを楽しんで!) 」


 夜の街に、静寂が戻った。

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