輪切りにしたアンタで今頃バーベキューをやっていたぜ
しわ1つない真っ白なテーブルクロスに、優しくティーカップが添えられる。
「ありがとう……ご、ざいます」
淹れたての温かさをカップ越しに感じながら、チミーは紅茶を淹れてくれたギルバートへぎこちなく礼を述べた。
「大丈夫よ。ギルはカレクトルじゃないから」
チミーと向かい合う形で座っていた女性、アリスはそう言って優しく微笑む。
確かにギルバートは人型のロボットではあるが、明らかにカレクトルと異なる形状をしていた。
赤い単眼を2つの長方形で上下から挟み、さらに左右を装甲で覆った頭部。
身体もカレクトル達のような重装甲の形ではなく、例えるなら『装甲を纏った人間』くらいの外装だ。
静かな駆動音を漏らしながら、カップを置いたギルバートはアリスの言葉に追従する。
「俺はアリスの『お手伝いロボット』として存在している。あんな奴らと一緒にしないでくれ」
「こんな状況の中だから、色々と大変だったのよ。カレクトルと疑われちゃって」
不機嫌そうなギルバートとは異なり、アリスはふふと笑いながらそう語った。
綺麗に整えられた金髪のポニーテールも相まって、どこか上品な雰囲気を漂わせている。
「カレクトルについて、何か知っているんですか?」
2人の話し方から、カレクトルという単語に対する慣れを感じたチミーは尋ねてみた。
「少しだけね」と答えたアリスと連動するように、ギルバートが奥の部屋から何かを持ってくる。
重い音を立てて机に置かれたのは、カレクトルの頭部だった。
「うわ、これ……あつっ」
飲もうとした紅茶が思いのほか熱く、一旦机に置き直す。
チミーが倒したカレクトル達は原型を留めぬほど破壊してしまったので、こうも綺麗に残っているものは初めてだ。
「外を調べていた時に襲われてな。そこで倒して、持ち帰ってきた」
頭部をひっくり返し、中身を見る。
その内部は、見たこともないような形をしていた。
機械に詳しくないチミーでも、その構造が尋常ではないのが伺える。
「なんか見たことない形ですね」
「そうなんだよ。こんなもの、見たことがねえ」
相槌を打ったつもりだったのだが、どうやら本当に見たことのない代物のようだ。
ギルバートは基盤と呼んでよいのかすら分からないカレクトルの内部構造を指さして、解説を始める。
「一切が謎なんだ。解析しようにも、どこに接続すりゃあ良いかも分かんねえ。ケーブルすら見当たらねえし、何が何だか」
呆れたようにそう言った彼の言葉を聞きながら、チミーはカレクトル達と対峙した時の事を思い出していた。
『あらゆるエネルギーを操る』能力である『永遠なる供給源』でも操ることができないどころか、彼らからは全くエネルギーが感じ取れなかった。
チミーはこれに対し『超能力そのものの干渉を遮断する素材で作られている』と仮説を立てていたが、それに加えて何一つとして従来の構造に当てはまっていないカレクトルの内部を見ると、その仮説は更に深まっていく。
「明らかに、人間が作ったものじゃないのよね……」
呟くようなアリスの一言が、チミーの考えていた事と同じだった。
だがこの星に、人間を越える科学力を持つ者は存在しない。
となると、奴らを作った者の正体は……
ぴん、ぽーん。
その時、部屋の中にインターホンの音が響いた。
ギルバートはカレクトルの頭部から手を離し、扉の方へと足を進める。
チミーとアリスも紅茶を飲み進めながら、来訪者は誰なのかと扉に目を向けた。
開かれた扉の外に映った、2つの影を見たチミーが口を開く。
「あ」
向こうもチミーの姿に気付いたようで、片手を上げほっとした声で呟いた。
「お! ここにいたか」
現れたのはビリーとマキシマム。この街まで追いついた彼らは人々から話を聞き、チミーの居場所をようやく特定したのである。
「知り合い?」
「一緒にここまで来た人で……」
「そうなのね~」
チミーの説明に納得したアリスがビリーへ視線を戻すと、2人の視線がちょうどかち合った。
「!!!!!!」
その時、ビリーの全身に電流が走る。
一応捕捉はしておくが、あくまで比喩として。
ビリーはギルバートを押しのけてチミー達の机へ駆け寄ると、片膝をついてアリスの顔を見た。
「初めましてお嬢さん、俺の名はビリー・クック。いやあ、こんな美人さんが住んでいるとは! この世界も、まだまだ捨てたもんじゃねえな。おかしなことを言うようだが……俺は今、運命というものを実感した気がする。それを確かめてえ。ご一緒に、お話させていただいても?」
「あはは……私はアリス・クランベルツ。よろしく」
「アリスか、良い名前だ。んじゃ、失礼するぜ」
探していたチミーの事などすっかり忘れ、アリスにまくし立てるような口説き文句を放ち始める。
苦笑いで流したアリスの隣へイスを引き、ビリーは深く腰掛けた。
そんな彼の肩に、ひやりとした感触が添えられる。
訝しげな表情で振り返ったビリーの背後には、彼の肩に手を置いているギルバートの姿があった。
「話をするのは良いが、あまりアリスを困らせんじゃねえぞ」
「わーってらぁ。余計なお世話だ」
すっかりアリスに夢中だったビリーは、ギルバートの水を差すような忠告に少し機嫌を悪くする。
乗せられていた手を払った彼へ、ギルバートが続けて言葉を発した。
「先に言っておくが、アリスはアンタみたいな変な奴に靡くような子じゃないぞ」
「あん? 何だぁお前?」
彼の言葉にビリーが眉を吊り上げ立ち上がる。
ギルバートの無機質な単眼を睨みつけ、額をこすり付ける勢いで近付いた。
「お前はアリスちゃんの何なんだ? 彼女の気持ちが分かるとでも?」
「ああ分かるぜ。少なくとも、アンタの何百倍はな。俺はアリスのために造られた、生まれた時から一緒に居るお手伝いロボットだ」
「んなっ……」
ギルバートから圧倒的な年数の差を見せつけられ、ビリーが若干たじろぎを見せる。
1つ咳払いをした後、明るい調子で捨て台詞を放った。
「そうか、アリスちゃんのお手伝いロボットだったか! そりゃあ悪い。だったら、穏便に行くとしよう。それを知らなかったら今頃、俺のパワーでお前を空き缶みてーにペシャンコにしてたかもしれねえな!」
「その時は、輪切りにしたアンタで今頃バーベキューをやっていたぜ」
「まあまあ、ギルも落ち着いて?」
和やかに仲裁したアリスの言葉には、流石のギルバートも譲歩せざるを得ない。
お互いはいがみ合いながらも、身を引くことにした。
ビリーは不機嫌な鼻息を吐いて椅子に座り直し、ギルバートは飲み物を作りに台所へ向かう。
そうしてひと段落終えたかと思った、その時である。
ぴんぽーん。
また、インターホンの音が鳴った。




