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獣の暗躍

 チミーは上段の蹴りを放ってガルダパンクにガードをさせた後、素早く足を引いて大腿部に前蹴りを放つ。

 大腿部にかかった圧力によってバランスを崩したガルダパンクの側頭部に、チミーの左フックが襲いかかった。


 ガルダパンクは右腕を立ててフックを受け流した後、チミーの顔面を狙って手を伸ばす。

 チミーは目の前まで迫ってきていたその手首を掴んだが、突き刺すような前蹴りを食らって後方へ吹き飛んでしまった。


 吹き飛んでいる最中に『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動し、チミーは自身の体が飛んでいる方向を反転させる。

 吹き飛ばされた速度と同じ速さでガルダパンクに突っ込み、その顔面に拳を叩きこんだ。


 甲高い金属の音。

 腕でガードすることに成功したガルダパンクだったが、チミーの圧倒的なパワーに上半身が揺らいでしまう。

 空中で翻り、続けて放たれた蹴りによって横方向へ軽く吹き飛んでしまった。

 吹き飛ばされたガルダパンクは2、3度地面を転がった後、流れるような動作で立ち上がる。


 両者再び睨み合う状態となったが、チミーは明らかに消耗していた。


「はぁ、はぁ……」


 姿勢が少し低くなり、息を切って汗をかいている。

 対するガルダパンクは所々にへこみや傷が見られるものの、劇的な消耗をしているようには感じられなかった。


「そろそろ、限界か」

「限界が来る前に……アンタを廃材にすればいいだけよ……!」


 啖呵を切ったものの、体力が限界に近しいのは事実だった。

 ガルダパンクが他のカレクトルと桁違いの戦闘力を保有している事に加えて、消耗が予想以上に速く感じる。


 恐らくだが、拘束された際に首へ突き立てられた針のようなものが何かの作用を起こしているようだ。

 首筋の部分が僅かな熱を持ち、全身の力を少しずつ吸い上げているような感覚に苛まれる。

 

 今のチミーでは、ガルダパンクを倒せるかどうかは五分といったところだろう。

 落ち着いて息を整えようと、深呼吸を始めたその時だった。


「クソッ!放せコラ!!」


 チミーの耳に、聞き覚えのある男の怒り声が届く。

 見ると奥の道から、カレクトルに腕を拘束され連行された状態のビリーがこちらに向かって歩いていた。

 計8体のカレクトル兵を撃破したものの、最後の2体には敵わなかったのである。


 「ビリー!」


 彼の姿を見て、チミーは思わずその名を叫んだ。

 だがそこで見せた大きな隙を、ガルダパンクは見逃さない。

 

 一瞬で距離を詰め、ガルダパンクは開いた手を振り上げる。

 顔面に向かって放たれた鋼鉄の手のひらに、意識をビリーへ向けていたチミーは大きく反応が遅れてしまった。

 

 避けられない。

 直感でそう判断したチミーの体は、訪れる衝撃に備えて体を強張らせた。

 だが訪れるはずだった衝撃は、彼女の目の前でピタリと停止する。


 「……?」


 ガルダパンクの手は、体は。チミーに襲い掛かる姿勢を取った状態のまま、時が止まったように停止していた。

 しかし僅かな駆動音は聞こえ、装甲の節々に見え隠れする隙間からは黄色の光が漏れ出ているまま。

 稼働を停止した、という状態ではないみたいだ。


 チミーが一歩後ずさりをした瞬間、ガルダパンクが再び動き始める。

 咄嗟に身構えるチミーだったが、ガルダパンクからは完全に戦意が失われていた。

 振り上げた手を静かに下ろし、直立の状態に戻ってチミーを真っ直ぐに見る。


「貴女を捕らえるのは今度にしよう。急用が入ったものでな、これにて失礼する」

 

 ガルダパンクは一方的にそう告げると、チミーに背を向けて歩き始めた。

 ビリーを捕らえていた2体のカレクトル兵もそれに追随し、ビリーを放り出してガルダパンクについていく。


「いってて……」

「ビリー!」


 痛みを追い出すように手を払っているビリーへ、チミーが駆け寄った。

 いつの間にかガルダパンク達の姿も町からなくなっており、ひとまず脅威は去ったと見ても良いのだろうか。

 遠巻きに始終を見ていた人々も、ぞろぞろと2人の元へ集まってくる。

 

「気にすんな、大した怪我はしちゃいねぇ。……ってか俺、8体のカレクトルを倒したんだぜぇ!?最高記録だ!奴らを倒すの自体が初めてなんだがな!」


 辛気臭い表情から一転、上機嫌に周囲の人へ成果を語り始めたビリーを見て、チミーは呆れながらもホッとしたような表情を見せた。


 とはいえ脅威が去ったのは一時的であり、ガルダパンクはまた2人を捕らえるべくこの町を訪れるだろう。

 奴は『エリア3のマスター・カレクトル』を名乗っていた。

 その役職がどのくらいのものなのかは分からないが、カレクトル兵やチーフ・カレクトルとは桁違いの戦闘力を見るに、相当な地位の存在である事は間違いない。


 ビリーを追跡してすぐにこの町へ現れた事もあり、『エリア3』と呼ばれているこの辺一帯を全て把握していてもおかしくないだろう。


 となると、取るべき行動は1つ。

 チミーはそれをビリーに伝えるべく、彼の肩を叩いた。

 振り返ったビリーが彼女に気付くと、口の端を持ち上げてニッと笑みを見せる。


「お疲れさん。俺のこと、もしかして心配してた?実はあいつらに捕まったのも作戦の1つで……」

「分かったわよ。それより、アンタに言いたいことがある」


 見え見えの冗談を軽くあしらったチミーがそう伝えると、ビリーは一瞬目を丸くした後、再び笑みを作った。


「奇遇だな。俺も言いてえことがあるんだ」


 そしてつい偶然に、2人は同じタイミングで『言いたいこと』を口にする。


「私、『エリア4』へ行く」

「『エリア4』へ旅立とうと思ってな」


 お互いの声が被り、そしてその内容まで被ってしまった。

 つい驚いてしまった両者が上半身を軽く仰け反らせると、ビリーがフッと小さく笑う。


「やっぱ考えることは一緒、か」


 カレクトル達は自身に課せられたルールに則って行動をする、律儀な性格を持った機械だ。

 マスターカレクトルであるガルダパンクも多少の融通を利かせられるとはいえ、その根底には同様の性質を持っているものだと推測できる。


 であれば、『エリア3』の管理を担っているガルダパンクは、自身の管轄外である『エリア4』まで追ってくることはない。

 2人はそう考えたのだ。

 









 荒野を全速力で疾走し、高層の建物が立ち並ぶ区画へ突入した影が一つ。

 風のような速さで街を突っ切っていくのは、黒と黄色の装甲に身を包んだカレクトル……ガルダパンクだった。


 ここは『エリア3』のとある一角。

 彼が『報告』を受け、チミーとビリーの拿捕を捨ててまでここに急行したことには、大きなワケがある。

 

「ヴヴヴヴヴ……ッッ!!!」

 

 彼の前方に、道を遮る形でギルガンの群れが現れた。

 ガルダパンクは駆けていた足を止め、されども勢いを殺すことはなく、ギルガンの群れ達と正面衝突する。


 上体を反らせて放たれた突きを回避した後、その顔面に掌底を放つ。

 同時に片足を引いて半回転し、反対側に立っていたもう一体のギルガンへ裏拳をお見舞いした。


戦術戎物パニッシュマーシャル・『破曇巍々(ベル・ニケイ)』」


 両側に拳を放った状態のまま、ガルダパンクの腕が可変し始める。

 前腕部の装甲が開き、細長い砲身が姿を現した。

 現れた砲身は真っ直ぐに、殴った両側のギルガンを向いている。

 

 次の瞬間、激しい発光の連打が巻き起こった。

 砲身から連射された光弾はギルガンの肉体をいとも容易く破壊し、歪な風穴を生成していく。

 連射を続けたまま180度回転し、ガルダパンクは周囲に群がっていたギルガン達をハチの巣にした。


 原型を留めぬ肉塊と化すほどの銃撃によって、ものの数秒でギルガン達は全滅してしまう。

 腕を下ろして素早く砲身を片付けたガルダパンクは、再び道を疾走し始めた。




 とある建物の周囲に、ギルガン達が群がっている。

 そんな中に、ひときわ巨大なギルガンの姿があった。


 手を伸ばせば小学校の屋上まで届くほどの巨体は、鏡餅のような分厚い脂肪で包まれている。

 鶴のように長いくちばしには鋭い牙が何百本も整列しており、大木のような尻尾は一振りでカレクトル兵を容易く吹き飛ばしていた。


 巨大なギルガンは目の前の建物を一心不乱に破壊しようとしており、その建物の影から顔を覗かせているカレクトル達が抵抗を行っている、という構図である。


「!」


 カレクトル達との攻防で優勢の状況に持ち込めていたギルガン達が、突如その進軍をやめて背後を振り返った。

 同じく攻撃の手を止めて振り返った巨大ギルガンの元へ、何かが彗星の如く突き刺さる。


 巨大ギルガンを中心に衝撃波が走り、建屋を吹き飛ばすような爆音が響いた。


 構えた腕に突き刺さったのは、駆け付けたガルダパンクの蹴りであった。

 凄まじい助走を付けて放たれた蹴りは巨大ギルガンを少しだけ後方に押し込むも、致命的なダメージには至っていないように見える。


「ギルガン風情が……舐めるなよ」


 ガルダパンクから、チミーと会話をしていた時とはまるで別人のような口調が飛び出した。

 苛立ちを募らせたような感情的なその台詞に、易々と先制攻撃を受け止めた巨大ギルガンがニヤリと笑う。


「思ったより来るのが早かったな。マスター・カレクトル」


 巨大ギルガンは歪みの強い声で、そう()()()()()()

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