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民家爆破作戦

 『過剰損耗(オーバーヒート)』。

 超能力者の持つ性質で、超能力を長時間使用してしまうと体力を激しく消耗してしまうというものだ。

 その消費量は能力によって異なるが、影響が大きいものほど消耗しやすいという大雑把な法則に従っている。


 そしてチミーの『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』による体力消費量は、他の能力の比ではない。

 絶大な力には、大きな枷が付随するのだ。


 チミーはギルガンとの戦闘、チーフ・カレクトルとの戦闘、そしてマキシマムの捜索と、再び起こったギルガンの戦闘を経て、時間を待たずにガルダパンクとの戦闘が始まり消耗続きである。

 ある程度鍛えているとはいえ、チミーにもそろそろ限界が見え始めていた。


 だがチミーはそんなことを気にする様子はなく、再び空気砲を撃つべく上半身を捻る。


 その瞬間、ガルダパンクが動いた。

 地を強く踏んで駆け出し、一直線にチミーへ突進する。


 チミーが腕を振り切って放つ空気砲を、ガルダパンクが両手でガードした。

 その衝撃に少し押し戻されながら、ガルダパンクはクロスしていた腕をチミーに向ける。


戦術戎物パニッシュマーシャル・『犠握丸グラヴニラ』」


 構えたガルダパンクの両手首が開き、指1〜2本分の小さな砲塔が姿を表す。

 サプレッサー銃より小さな音を立て、計2発の弾丸が放たれた。


 2発の弾丸は、それぞれチミーの胸部と膝部分をめがけて飛んでいく。


 チミーは音エネルギーに反応し、2発の弾丸の軌道を見切って紙一重で回避した。

 だがこの弾丸には、1つの仕掛けが存在する。


「へっ!?」


 真横を通り過ぎたその瞬間、弾丸が真っ二つに割れた。

 割れた内部から黒い糸のようなものが射出され、チミーの胸部と膝部分とを囲うように一周する。

 弾丸はダミーで、この拘束機能が本命だったのだ。


「くっ!」


 真上に跳躍し、チミーは締まる2本の糸から逃れる事に成功する。

 しかし飛んだ先の空中、跳躍したチミーの背後に位置する場所でガルダパンクが待っていた。

 それに反応するよりも早く、チミーは首元を腕で拘束されてしまう。


 「いっ……!?」


 一息もつかぬうちに、首筋に針の刺さるような痛覚が響いた。

 痛みはすぐに引いたものの、首筋に異物を入れられた気持ちの悪い感覚がそのまま続いている。


 「このっ……!!」


 チミーの首は、背後に立っているガルダパンクの腕で固定された状態だ。

 先程の痛みが何によるものだったのかは分からないが、危険な状態なのは間違いない。

 『過剰損耗(オーバーヒート)』によるタイムリミットも刻一刻と近付いている。

 早めに決着を付けなければ、チミーはどんどん不利になっていくだろう。





 

 場所は変わり、町外れの道路で。

 狭い細道から民家の立ち並ぶ大通りへ姿を現したカレクトル兵の側頭部に、硬く細い筒が突き付けられた。

 筒が火を噴き、大きく歪んだカレクトル兵の頭部が自身の身体を引っ張って横方向に吹き飛んでいく。


 カレクトル兵を吹き飛ばした筒の正体は、死角で待ち構えていたビリーのリボルバー拳銃だった。

 ビリーは細道から顔を出し、後続のカレクトル兵が追ってきていることを確認すると急いでその場から退避する。

 この時点でビリーは、3体のカレクトル兵を撃破していた。


 「案外やるじゃねえか、俺」


 欠けた歩道を走りながら薄く笑みを作るビリーの前に、また別のカレクトル兵が現れる。

 背後からも迫られ挟み撃ちの状況となったが、ビリーはこうなることを読めていた。

 真横に立っていた民家の窓を突き破り、屋内に転がり込む。


 ビリーを追って窮屈そうに窓から侵入を試みるカレクトル兵を狙い、2度の発砲音を鳴らす。

 顔面に2つの弾痕が刻まれたカレクトル兵は機能を停止し、家の内側へ重く滑り込んだ。

 ビリーは滑り込んできたカレクトル兵の残骸の首根っこを掴んで引き寄せ、盾のように構える。

 外のカレクトル兵が窓から放った弾丸をそれで受け止めた後、掴んでいるカレクトル兵の肩の上から拳銃を向けた。


 ビリーは咄嗟にここへ飛び込んだわけではない。カレクトル達から上手く逃れながら、奴らを一網打尽にする策を用意していたのだ。

 向けていた銃口を、窓から僅かに逸らす。

 逸らした先……窓の下の部分には、人の頭より少し大きい程度の麻袋が寄りかかっていた。


 引き金を引き、ハンマーが響く。

 放たれた弾丸は部屋を舞う埃を掻き分けて、麻袋の方へ一直線に走った。


 さて、ここで問題だ。

 放った弾丸は一発。その一発で迫り来るカレクトル達を一網打尽にすることができる、人の頭より少し大きいくらいの麻袋に入るもの。なーんだ?


 弾丸が麻袋に突き刺さると、刺さった部分を中心として麻袋があかく光る。


「吹っ飛べ!」

 

 次の瞬間、麻袋が部屋を丸ごと吹き飛ばす程の大爆発を引き起こした。

 爆風は窓どころか煉瓦レンガ製の壁を突き抜け、外のカレクトル兵達を吹き飛ばす。


 正解は、麻袋いっぱいに詰まった黒色火薬だ。


「うおおおおぉぉぉっ……!!」


 先ほど倒したカレクトル兵を盾にして、ビリーは必死で爆風から逃れる。

 それにしても凄まじい熱量だ。カレクトルが至近距離で爆発を食らっても、まだ原型を保てるほどには頑丈で助かった。

 直接の爆風は受けていないにも関わらず、左右を突き抜けていく熱風で腕が軽く火傷しそうになる。


 爆風が収まり、燃えるものすら破壊された家には僅かな炎しか残っていなかった。

 外を覗くと、正面に大きな穴の空いたカレクトル達が転がっている。そこに、動く気配はなかった。


「……へへっ、予想通り。大成功だ!」


 部屋1つを爆破した衝撃に顔を引きつらせながら、ビリーは作戦の成功を喜ぶ。

 

 だがそんな彼の真後ろに、金属が床を踏む音が響いた。

 その音に強烈な悪寒を感じたビリーが、ゆっくりと背後を振り返る。


 見ると、今爆破した奴らと別で行動していたらしい2体のカレクトル兵が自分を見下ろしていた。


 あぁ~………こいつはちょっと、予想してなかったな。


 ビリーの引きつった笑顔に、一筋の汗が伝った。






 


 ガルダパンクは拘束していたチミーごと体を横に向け、半ば後ろを向いた状態に姿勢を変える。

 空いていた左拳を背後へ向けると、前腕部分から拳大の砲台が現れ、爆音と共に火を吹いた。


 撃ち抜かれた廃バスが空中で爆散し、残骸が力無く落下していく。


「同じ手は二度も受けない。先程学習したのでな」

「ちっ……!!」


 下に転がっていた廃バスを操ってガルダパンクの背後を攻撃しようと試みたのだが、失敗に終わってしまった。

 だがガルダパンクの意識が一瞬背後に向いたことで、完璧だった首元の拘束に僅かな隙間が生まれていた。


「らあッ……!!!」


 自身の首を捕らえているガルダパンクの腕を両手で掴み、全力を込めて前に引っ張る。


「!」

 

 ガルダパンクの拘束は完璧としか言いようのないものだったが、チミーの持つパワーは常人のそれではない。

 チミーの首元は指を滑り込ませられるほどの隙間が開き、やがて手が通るほどの隙間にまで開いた。


 空いた首元を動かし、少しだけ勢いを付けてガルダパンクに後頭部で頭突きを放つ。

 運動エネルギーの増幅された一撃を受け、ガルダパンクが僅かによろめいた。

 同時に、チミーの首を覆っていた腕の拘束に大きな隙間が生じる。


「おぉ、りゃあぁ!!」


 脚を真上まで振り上げて勢いを付けたチミーは、背負い投げの形でガルダパンクを投げ飛ばした。

 飛ばされた先の空中で停止したガルダパンクに、チミーの追撃が襲う。


 鈍い金属音が響いた。

 チミーが放った上段の蹴りを、ガルダパンクは左腕で受け止める。

 半回転して同じ場所へ、チミーは続けて回し蹴りを放った。


 空気を削るかのような勢いのそれを屈んで回避したガルダパンクは、上半身を前へ潜らせてチミーの顔面に手を伸ばす。

 掴もうとしたガルダパンクの手を左腕ではじき流した後、その顔面に掌底を叩きこんだ。

 上半身が僅かに揺らいだガルダパンクの肩を即座に掴み、叩きつけるように地面へぶん投げる。


 投げ飛ばされたガルダパンクが家屋に激突し、激しい埃と爆音が走った。

 瓦礫をまき散らしながら立ち上がるガルダパンクに、彗星の如き速度でチミーが突っ込む。

 地面が豆腐のように砕けていく中、チミーとガルダパンクは徒手の手合いを再開した。

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