マクドナルドで魔法少女物を語る残念な王子とギャル
「アタシはさぁ、ブリリアントパープルが26話の時にブリリアントシルバーにビンタしたのはあり得ないと思ったし」
「……27話だな」
「こまかくない? どっちでもいいじゃん……んで、その後にビンタした癖に、逆切れしてんだから、マジあり得ないし」
桜宮はそう言いながら、ポテトをマックシェイクストロベリーにつけて食べた。
『この食べ方は美味いし』と聞かされても見た目が嫌だな、やはり。
「まーた、その顔? 瀬下は勉強もスポーツも出来んのに柔軟性無いよね。マックの新作出てもいっつもフィレオフィッシュだし」
「定番が良いんだよ、定番が。桜宮みたいに新キャラ出てくると直ぐに目移りするのとは違う」
「はぁ? アンタみたいに、金髪前髪パッツンキャラばっかにアゲアゲになるよりマシなんですけどぉ?」
「ブリ金は今までの魔法少女シリーズのゴールドとは違う!!」
あまりの暴言にいきりたった。
「……わーったわーった、取り敢えず座ってよ。瀬下マジでキモいから……学校の奴らがブリ金の事になるとテンション鬼高くなる瀬下のこと見たらドン引きしまくりだろうね」
「桜宮には言われたくないが。読者モデルか何かは知らんが、ファンミーティングで明らかに浮いていたぞ。そんなにお洒落してどういうつもりだ?」
「……あー、そういえば、ワルダージェントル役の中の人にLINE交換しないかって言われたわ。あの中の人、キャラのまんまでいけ好かない」
金色の長い髪を指でクルクルさせながら、不満そうな顔をしている。
初めて見たときは、前々作の魔法少女ラブリーペリーのラブリーエンシェントが二次元から飛び出してきたのかと驚いたが中身はただの不良ギャルだった。
のわりに、本当はただの魔法少女シリーズマニアだから校内に、心を開ける友人も無く、俺が仕方なくこうしてファンミーティングやイベントに付き合ってやっているのだ。
「瀬下は王子さまとか言われているけど、中身はただの金髪キャラオタじゃ、そりゃ友達も出来ないし、アタシくらいしか相手してくんないんだから、感謝してよね」
「桜宮があと7年若ければな」
「……キモ過ぎ」
桜宮は外見だけは魔法少女キャラとも言えるが、残念ながら17歳は魔法少女界ではおばさんだ。
「あ、あのすいません、瀬下士郎さんですよね」
ボブカットの女子高生がいつの間にか脇に立っていた。
今期のブリ金の友達の友達キャラと同じ髪型をしている。モブに多い髪型だな。
「ああ、そうだが」
モブ女子高生の顔がぱーっと明るくなり、後ろにいるモブのモブ友達女子高生がキャッキャと騒ぐ。
「あ、あのー、わたし、バスケの県大会で助けてもらった田中真由美です。瀬下くんの試合での超スゴイ活躍を見たあとに不良に絡まれて助けてもらった真由美です」
んー、先月の大会か。
助っ人で呼ばれて行ったがバスケはあまり得意では無いが、身長で助けられたな。
その後、確かに、不良から女子高生を助けた記憶がある。
魔法少女好きとしては当然の嗜みゆえな。
「すいませーん、終わったなら、あっち行ってもらえますぅ?」
桜宮が頬づを突きながら不機嫌そうにモブ高生に向かって言った。
なんなのコイツ―、とモブ友が応じる。
「……まだ、終わっていません。あなたが瀬下くんとどういう関係か知りませんが、私は……瀬下くんの事がす」
「あー、ごめん、ごめん、アタシ、士郎のセフレなのぉ。もしかしてアンタも一緒に混ざりたい感じ? おっけー、おっけー、この後ラブホ行くから、一緒しよ?」
キモ過ぎる桜宮の発言にモブ達は慄いたのか涙目を浮かべながら去って行った。
「感謝してよね、このまま告られたらアンタ、また『7年前に来て欲しかった』とか言い出して世間にアンタの本性がバレてたんだから」
「それは無い。魔法少女好き同盟は俺と桜宮の秘密だ。そう、魔法少女が秘密の変身をしているようにな」
「……一喜一憂するのが疲れるんですけど」
少し頬を赤らめてむすっとする桜宮が何を考えているか分からないが、魔法少女好き同盟として守ってくれたのは感謝しよう。
「そういえば、瀬下はマクドナルドの言い方って、マック派? マクド派?」
「マックだな、マクドって言いにくいだろ」
「えー、マジ? アタシはマクド派だな。マックドナルドじゃないし」
「しかし、公式ではビッグマックであるし、マックシェイクでもある。マクドシェイクではないぞ」
「屁理屈すげー、友達いないでしょ?」
「オマエモナー」
イラッとした顔で桜宮はポテトにマックシェイクをつけてパクパク食べる。
「前から思っていたが、その食べ方は中々不味そうだ」
「いやいや、食べたらハマるって言ってるし。ほら、あーん」
ポテトに薄ピンク色のドロドロした物をつけてコチラに向けてくる。
ニヤニヤとした顔が罰ゲームを仕掛けるようでノーセンキューだ。
「いらん」
「はぁ、瀬下はホントに頭カチカチだね……そうだ、マックって英語だと何て言うか知ってる?」
「あ、マックって言ったぞ。マクド派なのに」
「う、うるさいなぁ、どっちでも良いのよ。ねぇ、それより英語で」
「何て言うんだ」
えへん、と擬音を言葉に発しドヤ顔する。ウザい。
「ザ・ゴールデン・アーチズよ」
「全然、略称ではないのだが。むしろ、マクドナルドより長くなっているぞ」
「知らないわよ、そんなの。アタシ、アメリカ人じゃないし」
ぷーっとむくれた顔でポテトシェイクをパクつく。
レジ近くのマクドナルドのロゴを見る。
あのMというロゴをまじまじ見たことはないが、確かに金色のアーチと言えばそうかもしれない。
形から見れば金髪前髪パッツンとも言えなくもない。
ふと、気づき、桜宮を見る。
「ふっふふ、桜宮、俺も気づいたことがあるぞ。今日の桜宮の髪型もザ・ゴールデン・アーチズみたいだな」
「はぁ? ……折角のデートにオシャレしてきた女子に言う事じゃないし! サイテー! バカ!!」
顔を真っ赤にしながら桜宮はポテトを投げつけてくる。
食べ物を粗末にしてはいかんので、ポテトをキャッチ。
少し涙目の桜宮を見て、若干デリカシーに欠けた発言をしたかと、反省。
キャッチしたポテトを見つめて、ため息をつく。
「あ、アタシのシェイク」
シェイクにつけてみる。甘い香り。
これがホントに食べ物といえるのか?
ええい、南無三!
「……お! 結構、美味いかも」
「でしょ!? 結構、イケるでしょ?」
泣いたカラスがもう笑ったかのような満面の笑み。
どことなくブリ金が笑ったときのように見えなくなくなくなくなくもない。
「そ、その髪型、ブリ金みたいで……悪くないぞ」
「アハ、なにそのホメ方、キモい……けど、許してあげる」
小生意気な笑顔がシャクに触る。
マクドナルドでの二人の時間が少し気に入っている事を桜宮には絶対に言うものか。