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04話 【スパイギルド】 リリア・ミストの心中



※※※【side: リリア・ミスト】



「少し時間を下さい。しっかりと自分なりに精査し、必ず『最適解』を見つけますので……」



 ギルド長は私の表情を探るように見据えるが、私の表情はピクリとも動かない。ギルド長は、「まとまったら教えろ!」とサムとの会話に戻った。



 私は2人の会話を聞きながら、ただ黙って無表情を貫いた。


――どれだけ、信じられない状況に直面しても、狼狽えるような仕草を一つも出しちゃダメだ。心の中でいくら動揺していても、それを表に出す事は許されないんだ。わかったな? リリア。


 

 私は『先生』の教えを体現している。目の前で繰り広げられている会話に、激しく憤慨しながらも、懸命にそれを表に出さないように努めている。


「リリア。お前もわかってるな? 必ず『魔力ゼロの無能』を私の前に連れて来い!!」


 ギルド長の言葉に軽く頷きながらも、心の中は穏やかではない。


(どれだけバカなんだ、このクソども……。先生が『無能』のはずがないッ!! 私の目の前で『師』を愚弄するなんて……)


 今すぐにでもギフトを使用し、暴れ出してしまいたいが、そうもいかない。


 ギルド長を屠るには《雷神化》する前に仕留めなきゃいけないし、サムを屠るのは、おそらく今の私では難しい。


 サムは、【分裂】を繰り返す事で無数に分裂体を生み出し、膨大な魔力を武器に複数の属性魔法を展開する戦闘スタイルだ。


 私1人で挑むのは自殺と同じだ。



――常に冷静に判断するんだ。大丈夫。リリアは才能あるよ?


 先生の言葉と非の打ち所のない穏やかな笑みを思い出し、懸命に憤怒を押し込める。


 2人にバレないようにゆっくりと息を吐き出し、先生を屠るために、情報共有をしている2人の会話に聞き耳を立てる。


「コレが【腐食】の顔だ。革命軍幹部、『マイル・ザブルグ』。この顔か、カインの顔のどちらかで、行動している可能性が高いだろう……」


 サムは魔道具で撮ったと思われる、手のひらサイズの『写し絵』を机に投げる。


「……なるほど。だが、私達に追われている事は、あのクズも理解しているだろう。あまり顔にはこだわらない方が良い」


「じゃあ、どうするんだよ?!」


「ふんっ。少しは冷静になれ……。冷静さを欠くと、ろくな事にならんぞ、サム」


 ジャングはサムに声を投げると、2人して気味の悪い笑みを浮かべた。


「『焼印』か……」


 サムは「クククッ」と笑いながら言葉にする。


 私は無表情を装いながらも、


(そんな簡単な事に今気づいたのか!? このクズめ!! どちらが『無能』だ!! この、『力』だけの欠陥諜報員クソカススパイが!!)


 と心の中でサムに悪態を吐く。


 先生の手の甲には『焼印』が押されている。もし万が一、先生がギルドから逃げた時のための保険として、ギルド長が押した物だと聞いている。


 特殊な加工を施してある『焼印』は先生が【百面相】を使用していても消える事はなく、それを頼りに探すのが1番の近道である事は間違いない。


 そんな簡単な事もわからないサムに心から軽蔑しながらも、先生が捕まる事はあり得ない事を確信する。


(先生ならすでに何かしらの対策を行なっているはず……)


 そもそも、『諜報員スパイ』に目印になるような焼印を入れるバカ共に、先生が捕まるはずがない。


――拷問に耐える訓練の一環だったんだろうけど、バカみたいだよな?


 そう言って、笑った先生の笑顔は、もちろん作り物だった。辛いはずなのに、いつも笑顔を絶やさず私にいろんな事を教えてくれた。


 2年間、諜報員スパイのイロハを教えて頂いた。優しくも厳しく、過酷な任務にも眉一つすら動かさず、完璧に立ち回る、優秀な『師』。


 金色の髪に紺碧の瞳。全てが計算され尽くされた完璧な立居振る舞い。貧困街出身とは聞いていたが、確かな気品が先生にはある。


――よくやったよ。リリア。


 そう言って頭に手を置いてくれるのが私にとって、何よりも幸福な事だった。兄のようでもあり、幼馴染のようでもあったが、やっぱり、『師』という言葉が1番しっくりくる。



 【悪魔卿】の『恩恵ギフト』の私を、ただの1人の『人間』として扱ってくれたのは、亡き母と先生だけだった。


 先生の存在のおかげで、私はまた生きていたいと考えられるようになった。先生の背中は何よりも頼もしく、何よりもいろんな事を教えてくれた。


 その場の機転と発想、人ならざる洞察力と人心掌握術。外に出るときには、常に他者の顔で歩き、危機管理の高さには感服するしかできない。【百面相】のギフトは先生のためにある。


 2年間もの間、何千、何万と【百面相】について考察していたが、おそらく2、3人ほどは『契約者』をストックできるのでは? と感じただけで、『契約内容』すら理解する事はできなかった。


 魔力が無い事など、取るに足らない小事。


(先生がこのギルドを支えていたんだ。もうこのギルドは終わりだ……)


 私は先生のためなら、今すぐにでも死ねる。


 でも、ここで死ぬわけにはいかない。この場の状況を精査し、先生に伝える。


 『諜報スパイギルドを諜報スパイする』


 きっとこれが私の役目だ。冷静に物事を判断し決断する。少しでも先生のために情報を引き出し、誰よりも先に先生を見つけ出す。


 決意を固めると私は口を開いた。


「可能性が高いのはどの辺りでしょう……?」


 唐突に口を開いた私に、ギルド長は微かに微笑みながら私の問いかけに答える。


「……そうだな。流石に王都にいるとは考えられない。居るとしたら辺境都市。それも土地勘のある、かつて潜入した4都市のどこかだろう……」


「ふんっ! あの無能が、正面から俺たちを相手にできるはずがねぇだろ! 他国に逃げてる可能性が高い!」


 ギルド長の言葉にサムも同調する。


 先生の事だ。このバカ共の思考を読めないはずがない。おそらく王都に居るのは間違いない。そもそも、先生はコイツらから逃げようなんて考えてない。


 見つかったらその場で対処すればいいくらいに思っているはずだが、私も2人の意見に同意するフリをする。


「そうですね。それが1番可能性が高いでしょう。ギルド長とサムさんの『力』は絶大なもの。他国へと逃亡している可能性が1番高いでしょう……」


「リリア!! よくわかってるじゃねぇか!」


「ふむ……。2年間共に過ごしたお前が言うなら、その可能性が高いか……?」


 サムのバカさ加減には吐き気がするが、ギルド長は私の真意を伺うようにジッと見定めている。


 私はギルド長の瞳を真っ直ぐに見つめ返しながら、少し首を傾げ、サムのようなバカを演じる。ここで先生を否定するような言葉は逆効果だ。


 下手に口を開いて、情報を与えてやる必要はない。ギルド長は疑り深い。きっとこの場に私を呼んだのも、私が反旗を翻す可能性を探るためだろう。


「……まぁ、いい。サム。リリア。カインの顔を知っているのはお前達だけだ。必ず、私の前にカインを連れて来いッ!!」


 ギルド長は私から視線を外しているようで外していない。瞳はこちらを見ていないが、探られているのはわかる。ここでボロを出すわけにはいかない。


「俺に任せろ!! あの『ゴミ』に、無能である事を認めさせてやるから、安心しろ!!」


 サムがバカみたいに血走った瞳で答えると、ギルド長はやっと私から視線を切った。


 私はバレないように口からゆっくりと息を吐き出し、


「わかりました。必ず見つけ出し、任務を遂行します」


 と無表情で呟いた。


 私は嘘は言っていない。


 必ず『私自身』が課した任務を遂行する。



(待ってて下さい! 先生!!)


 私なんかに見つけられるはずがないのかもしれないが、必ず見つけ出す。かなり可能性は薄いが、もし見つける事が出来たなら、


「よく見つけたな、リリア」


 と微笑みながら、優しく頭に手を置いて下さるはずだ。私はそれだけを求めて『隠れ家』を後にした。



 



次話「元諜報員は、情報収集に取り掛かる。」です。


 ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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