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01話 嵌められた諜報員は選択を迫られる。



「カイン・アベル。私に殺されるか、自決するか、どちらか選べ」


 王家直属の『諜報スパイギルド』のギルド長『ジャング・ローリエル』は豪華な椅子に座ったまま、小さく呟いた。


 俺は、王都に無数に存在している諜報スパイギルドの『隠れ家』に招集を受け、すぐさま駆けつけると開口一番に、こう告げられたのだ。


「ギ、ギルド長……?」


「二度言わせるな。どちらがいい?」


 ジャングの赤黒い瞳は闇に包まれており、俺はその怒気が本物である事を理解するが、正直、何を言われているのかは、全く理解ができない。


「……なぜですか?」


「任務をしくじったのだから、当たり前だろう?」


「……そ、そんなはずは……! 私はちゃんと任務を完遂したはずですが」


「『革命軍』は壊滅していないようだが……?」


「……? ……『調略で良い』と聞いたので、上手く王国の戦力に繋げたのですが、反乱でもあったのでしょうか?」


「ふざけるなッ!! 『壊滅』が『王命』だ!! 誰がそのような見苦しい言い訳を信じるか!! ふざけるのも大概にしろッ!!」


 

ガンッ!!!!



 ジャングは声を荒げると同時に、大きな拳で自分の机を破壊した。俺は粉々になった机とジャングの血走った瞳を見ながら、即座に自分が嵌められた事を理解した。


「……サムはどこです? 私はサムから『調略で良い』と書状を受け取ったのです。サムをこの場に呼んで下さい」


 この件の裏には確実に『サム・ホリエル』が絡んでいる。ホリエル伯爵家の次男であり、俺と同様、幼い頃から諜報員スパイとしての生き方を叩き込まれた男だ。


 サムは、俺が貧困街出身である事や、魔力が無いことをいつも嘲笑い、いつも偏見の目を向けてくる。嫌われている自覚はあったが、まさか国王陛下からの王命である任務で、このような事をするとは思っていなかった。


(念のため、国王への根回しは済んでいるし、ギルドへの責任を問われる事もないけど……、もし、ジャングが『変更』を知らずにいるのだとしたら、俺はこの場で殺される……)


 考察に入る俺など気にする事もなく、ジャングはギリッと歯軋りをすると口を開いた。



「サムは私と他国へと視察に出ていたのだ!! 貴様がサムに会うことなど、あるはずがないだろうッ!?」


「……ギルド長。お言葉ですが、サムの『ギフト』は【分裂】だったかと……」


「何を世迷言よまいごとを……!! 仮にそうだったとしても、見極められなかったお前の責任だ!! 何千、何万と言って来ただろう? 『全てを疑え』!! 『真実を見極めろ』!! カイン……、お前は『魔力ゼロの無能』であることを自覚しろッ!!」


「……」


 俺はジャングの怒り狂った顔にゴクリと息を飲み、深く息を吐き出す。


(……俺は『無能』なんかじゃない)


 ギルドのため、王国のため、……ギルド長であるジャングのために、身を粉にして任務に取り組んで来た。


 危険な「死地」にばかり派遣され、必要とあらば相手の命を奪う事すらあった。非人道的な生き方を強制され、ただの操り人形のように任務を遂行してきたのだ。


 それなのに、あらぬ疑いをかけられ、選択を迫られ、『魔力ゼロの無能』だと罵られている。


(……なんでこんな事に……)


 ジャングはゆっくりと立ち上がると、俺に歩み寄り、至近距離で睨みつけてくる。


「わかってるな? この諜報スパイギルドの存在を知っているお前を、生かしておくわけにはいかない……」


「……『失敗は万死に値する』」


「そうだ。早く選べッ!! 自分で死ぬか、私に殺されるか!! どっちにするんだッ!!」


「サムを呼んで下さい……。それができないのなら、国王陛下に確認してみて下さいッ! そうすれば、」


「いい加減にしろッ!!!! サムは私とずっと一緒に居たんだ!! それに、『陛下に確認しろ』だと……? 王命を果たせていないのに、陛下に合わせる顔があるはずがないだろうがッ!!」


 ジャングは怒号と同時に拳を振り上げ、なんの躊躇もなく俺の顔面へと振り抜いた。


ガッッ!!!! ドンッ……


 殴り飛ばされ、壁に打ち付けられる。口内には血が広がり、背中には鈍い痛みが襲ってくる。


(……俺は教え通りに、全て確認した上で、判断した!! 俺に依頼変更を伝えに来たのは、絶対に『オリジナル』だ。国王の耳にも入るように根回しも済ませた。それに……、ギルドの認印も本物だった!! これは『失敗』なんかじゃない!!)


 書状だって、しっかりと《鑑定》したのだから間違いない。読み終えると証拠を残さないために、すぐに燃やしたので、これらを証明する事はできないが、絶対に本物だった。


「あ、あのサムはオリジナルでした。それに、ギルドの認印も本物で、」


「ふざけるなっ!!!!」



ガッ! ガッ!!



 ジャングは声を荒げると同時に俺を踏みつける。


「くっ……」


「カイン……。……じゃあ何か? 私がサムの分裂体に気づかず、ギルド長の判まで奪われるような醜態を晒したとでも言いたいのか?」


 ジャングは俺にグンッと歩み寄り、未だうずくまっている俺に足を置き、見下ろしてくる。


 幼い頃から振るわれてきた虐待の数々が脳裏を掠め、咄嗟に距離をとると、ジャングは「フンッ」と鼻で笑い口を開いた。


「……カイン。国王からの王命に背いてしまったんだ。お前のせいでギルドの信用や地位が揺らいだんだ。この損失は計り知れない。国王陛下は、我々を信用して、『革命軍の殲滅』の依頼を出したんだ」


「……国王陛下にはちゃんと伝わって、」


「まだ言うかッ!! どうせ、しくじると思っていたよ!! 念のため、『ロウ』も準備させておいて正解だったなッ!! この『ゴミ』がッ!!」


 ジャングは急加速して俺の胸ぐらを乱暴に捻りあげた。


「お前みたいな『ゴミ』。見ているだけで吐き気がする。陛下からの進言でお前を拾ったが、あの『掃き溜め』の匂いが染み付いていて、気持ち悪くて仕方がない!! カイン……コレが最後の慈悲だ。自分で死ぬのか、私に殺されるのか? さぁ、選べ……」


 ジャングは俺とサムの親代わりと言ってもいい。


 でも、ジャングは俺の『ギフト』が諜報員スパイに適している物だったから拾っただけだ。


 いつも可愛がられているサムとは違い、ジャングから我が子のように可愛がられた記憶など皆無だ。


 どれだけ任務をこなしてもサムのようには評価されない。どれだけ任務をこなしても、ギルド内での立場は改善しない。


(……落ち着け。『冷静な状況判断』を……)


 心の中で自分に声をかけるが、とてもじゃないが落ち着ける状況ではない。震える指先は、死に対する恐怖なのか、全てが無駄だった絶望か……。


 その判断すら今の俺には出来なかった。





 この世界では、生まれながらに神から『恩恵ギフト』と呼ばれる力を授かる。


 その有用性は様々で、生活に特化した物から戦闘に特化したものまで、その個人によって『力』の在り方は千差万別だ。


 もちろん、戦闘に特化した物の方が望ましいが、望んだからと言って手に入る物でもない。遺伝による物が大きいとされているが、孤児である俺には実感できるたぐいの話ではない。


 ボロボロの貧困街で、泥水を啜りながら懸命に「生」にしがみついている時に、ジャングは現れた。



ーーーお前は『諜報員スパイ』になるために生まれたんだ。それ以外は考える必要などない。お前がその【百面相】を使いこなしたその時には、私の右腕として、ずっとそばに置いてやる……。



 ジャングの言葉は幼い俺にとっての全てだった。


 孤児だった俺にとって、ジャングの言葉は自分の生き残るための道標みちしるべだったのだ。


 俺は自分に道を示してくれたジャングに応えるために頑張ってきた。耐えてきた。尽くしてきた。


 膨大な魔力を持ち、メキメキと『力』をつけるサムを尻目に、俺は俺に出来る事を懸命に取り組んできた。



 俺は褒めて欲しかった。あの貧困街から救い出してくれたジャングに認めて欲しかった。「よくやった」と頭を撫でて欲しかった。



 ただ、それだけだった。

 本当はそれだけで良かったんだ。





(『陛下からの進言』……? 俺は今までなんのために……。クソッ。本当にバカみたいだ……)


 グッと目頭が熱くなる。


 ジャングに使い捨ての『駒』として利用され続けられていた事には気づいていた。わかっていたのに、頑なに認める事をせず、見て見ぬフリを続けていたのだ。


(……『ジャング』)


 まるでゴミを見るようなジャングの瞳に、もう見て見ぬフリは限界だと悟る。


 もう疲れてしまった。

 全てが面倒になってしまった。


 どれだけ、頑張ったところで、『父親』には絶対に認められない現実が目の前にある。


(……もう、いい……。もう本当にどうでもいい……)


 俺は力なく笑い、視線を伏せた。


 もう、自分が生きていく理由が見出せない。

 もう、俺には何も出来ない。



「……わかりました。ギルド長、私は自害しま……」



 そう言いかけた時、俺の頭の中に、『1人の男』の言葉が蘇った。




 


次話「諜報員は華麗に逃げ出す。」です。


 ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「陛下からの進言」という言葉がありますが、「進言」は身分の低い者が目上に対して何かを申し述べることを指します。凄く違和感があります。
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