あーらら、と彼は全員から責められた
「……おにーちゃん……? なんで何も言わないの?」
「楽になろうと思いましたか。もしかして」
それを聞いて言葉を発したのは、3103号だった。
「――――まさかあ」
その場にいた全員の目が、3103号を見た。3103号自身も、思わず言ってしまったと口をつぐんだが、出た言葉はひっこめようがない。
405号は3103号の服をくいくい引っ張った。
「なんで3103号がまさかって言うの?」
大家は405号ににっこりと笑いかける。
「その子が彼を知ってるからよ、お嬢ちゃん。そんなこと思うはずないって、知ってるからよ」
「えっ……」
「えっ⁉」
「おや」
「どうして?」
大家以外の全員が、シンヤと3103号をかわるがわる見つめた。
3103号は動揺して「なんでそんなことがわかるんですか⁉」と聞いたが、大家は落ち着きはらってたった一言、
「大家はなんでも知っている」
と胸を張るばかりだった。
405号は無邪気に「すごいすごい」と拍手する。
「いや、俺、死神に知り合い家族親戚友達はいないよ!」
シンヤが否定すると、3103号は「えっ……」と戸惑った。
大家は含んだような笑みを見せる。
「ほんとにそうかしらねえ」
「だってこんな子俺知らないもん!」
知らない、その言葉が余程ショックだったのか、3103号は無言で部屋を飛び出した。
「あっ、3103号!」
「あ……」
「あーらら。おにーちゃん、いじめたー」
「え、いじめたって、」
「あーらら」
「あーらら」
「あーらら」
全員から「あーらら」の大合唱を受け、シンヤはさすがに良心の呵責を感じた。
「さっ……探してくるっ」
部屋を飛び出したシンヤのあとを、
「わたしも行く!」
「わたしもー」
エリと405号が追った。
大家は相変わらずのんびりと、「気をつけてねえ」とだけ言って、座り続けていた。
ゼロは目の前の仏飯に手を伸ばしながら、部屋の隅の気配に声をかけた。
「…………いるのでしょう?」
言われて、隠れっぱなしのわけにはいかないと思ったらしい。3103号がそっと出てきた。出て行ったように見えて、こっそり、戻ってきていたのだった。
「――どうしてですか?」
3103号は大家に聞く。
「なにが?」
「どうして、わたしが、彼のことを知ってるって」
「なんとなく、そうじゃないかと思ったの。……この子と、一緒だもの」
この子、と言いながら、大家はゼロを指した。
ゼロは照れているのか怒りたいのかよくわからない複雑な表情になっていた。