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あわわわ、と彼は憔悴しまくった

 大家が玄関を開けた瞬間、シンヤとエリと3103号と405号が、大家を巻き込みながら団子状になって部屋になだれ込んできた。

「大家さーん‼」

 エリが口火を切るが、大家は実に落ち着いていた。

「あらまあエリちゃん。おかえりなさい」

「あのう、おにーちゃんが行方不明なんですけど、大家さん何か知りませんか」

 アパートの前で意識が飛んだとシンヤが言うから、しょっちゅう掃除しに外に出ている大家なら何か知っているのではないかということになったのだった。

 だが大家がその質問に答えるより早く、3103号と405号が、ここにいるはずのない人物の姿を見つけた。

「ゼロさまっ⁉」

「あれえ」

 シンヤは自分がどうしたらいいのかわからず――たぶん大家には自分が見えていないと思ったのだろうが――部屋の中をうろうろしていた。しかし、続きの間に寝ている自分の身体を発見すると、一気に所在どころか落ち着きをなくした。

「俺がいる――――‼」

「えっ⁉」

「えっ⁉」

「ほんとだあ」

 エリも、3103号も、405号もそれぞれ驚きながら、彼の眠る布団に近づく。

 シンヤは自分の身体をさわさわさわさわなでながら、憔悴しきっていた。

 それでも大家とゼロは冷静に落ち着いたままで、茶をすすっていた。

「ほら中身がいた」

「……いますねえ」

 そうしてゼロは、この異常な事態のおおまかなところを察した。

「あわわわわ、俺だよコレ、俺だよコレ。コレだよ俺ええええ‼」

「え、ゼロさまはなんでここにいらっしゃるんですか」

「え、大家さん、なんで俺がここで死んでるんですか」

「え、ゼロさまはなんでこの世界でお茶が飲めるんですか」

「え、大家さん、なんでおにーちゃんが見えてるんですか」

 四人は四人ともそれぞれ大家とゼロの周りをうろちょろうろちょろしながら、関係ありそうな質問と関係のなさそうな質問を繰り返す。

 しまいにはエリにぶんぶんと身体を振られて、大家は貧血寸前にまでなった。

「……えーと、」

 ふわふわくらくらとなりながら言葉を出そうとする大家を横目に、ゼロがぴしゃりと言った。

「とにかく落ち着いて座りなさい」

 まず405号が「はーい」と素直に手を上げて座った。

 ようやくふわふわくらくらから落ち着いた大家が、エリにも声をかける。

「エリちゃん、あなたもね」

 エリも「はーい」と素直に従った。それから、

「……おにーちゃんは?」

 と言ってみたが、未だにあわあわあわあわと憔悴の止まらない彼に落ち着けと言っても無理がある。大家は「少し放っておきなさい」と言っておいた。

 あとは3103号だった。ゼロは彼女の気持ちが痛いくらいわかっていたが、それを知らない彼女はバツが悪そうにもじもじと遠くに立っていた。

「3103号」

「…………」

「勝手に下に落っこちて、挙句人間に接触したことは咎めません。そういうめぐりあわせというものは、あるものですからね」

「え…………」

「ただし接触した人間を幽体離脱させた件についてはペナルティものですね」

「じゃ、わたしがぶつかったのは……」

 3103号の脳裏に、今朝の風景がようやくよみがえる。

 ぶつかった相手はほかならぬシンヤであったのだ。そうだ、なんで自分は彼にぶつかったのか――3103号はやっと思い出した。

「え、俺、幽体離脱状態なの。コレ生きてるの」

「あ、ホントだ、おにーちゃん息してる」

「コレ戻れる? 戻れなかったら俺やっぱり死ぬ?」

 ゼロは考えながら言葉をつむぐ。

「……死神が殺しちゃったようなものですからね……死んでませんけどね」

「その気になれば戻れると思うよー」

 405号が元気に言うが、もうシンヤには何を言われてもごちゃごちゃになるばかりだった。

「その気ってどの気だよ!」

 ゼロは探るような眼をした。

「生きたい、と願うこと。おかしいですね、さっきの面接会場のように、あなたほど生きることに執着があるなら、すぐに戻ると思いましたけれどね」

 シンヤは押し黙った。執着……あったのか? そもそも?

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