7.
昼食を食べ、満足したセレーナは食後のお茶を飲みながら今後の事を考える。
マリーには申し訳無かったけれど席を外してもらった。一人で考えたかったのだ。
あれが予知夢だと仮定するとして、自分は何をしなければいけないのか。
セレーナは一度寝室に戻ると、ベッドの横にあるサイドテーブルの引き出しから紙とペンを取り出して、また主室に備え付けられているソファに腰掛ける。
そして、気になったことややるべきことなどを書き留めていく。
(まず、お兄様との関係をかいぜんしなくちゃ。ゆめの中のわたしは何て言ってたかしら……)
まだ覚えている内にと、出来事を空いているスペースに走り書きしていく。
『・うらまれていた。
・だれかがじきこうていにふさわしいと言っていた。→おそらくけんりょくあらそい。
・何もしていなかった。
・小さいころはやさしかった。
・かれだけは』
そこまで書いた所で、ペンが止まる。
(かれ……ってだれだっけ……?)
一生懸命思い出そうとするけれど、どうしても顔がぼやけていて思い出せない。暫く必死に考えてみたけれど思い出せなかった。
(仕方ない、先にほかの事を思いだそう)
諦めて他のことを思い出す。
『・周りはみんなてきだった。
・ころされた。』
一連の流れをざっと書いたセレーナは、改めてゆっくりと見返す。
「んー……」
再び夢の中で助けてくれようとした彼を思い出そうと、唸って考えてみるも思い出せる訳も無くただ時間が過ぎていくだけだった。
(かれの事を思い出せないといけない気がするのに……)
結局、どれだけ粘ってみても思い出す事は無かった。
セレーナは肩を落として嘆息した。
「なんで思い出せないんだろう……」
彼の事を思い出せないのは残念だけれど、少しやる事が見えてきた。それに、どこかで出会えたら思い出すかもしれないしと、セレーナはポジティブに考えることにした。誰も居ない部屋で、一人うんうん、そうだと頷く。放棄ともいうのだが、セレーナは気付いていない。
気を取り直したセレーナは計画を確認する。
まず人見知りを直す。そして兄スフィーダと良好な関係を築く事と併せて、父に長生きしてもらう。
それから……彼を探す事。
恐らくどれも長期的な計画だ。人見知りをすぐに直すのも父や兄と良好な関係を築くのも時間がかかるだろう。なによりも心配なのは、彼がどこの誰で、いつ出会えるのかという事だ。
そもそも出会えるのかもわからない。何故なら、顔すら覚えていないからである。
声も今ならなんとかわかりそうな気もするが、日が経ってしまえばそれも曖昧になるだろう。
それに、夢の中の自分は十六歳だったはずだ。そして彼は十六歳のセレーナよりも年上に感じた。という事は、もし存在しているのならば十歳前後だろう。しかも男性だ。
そうなると声変わりだってまだしていない可能性が高いし、顔つきだって変わってくる。
これでは、もうほぼ別人を探すことに等しいのではないだろうか。探し出すことは不可能に近いのでは無いだろうかと思い項垂れる。
会えないかもしれない事実にセレーナは青ざめる。
そこではたと、名前も知らない夢の中の側近を心の拠り所にしていたのだと気付き苦笑した。
(どこのだれかもわからない上に、そもそもそんざいするのかもわからないのに……。へんな話ね)
たとえ出会えなかったとしても、折れる訳にはいかないのだ。
あの悪夢を回避しなければ。一人だったとしてもやらなければ。
きっとあれは未来の出来事だ。根拠は無いけれど、漠然とそんな気がする。
それに、今のセレーナにはマリーが居てくれる。既に自分は一人では無い。
そう考えると背筋が伸びた。
「マリーのためにも、がんばるって決めたんだから……」
弱気になりそうな自分を叱咤して気合いを入れ直したセレーナは、目を瞑り体いっぱいに空気を吸い込んでから静かにゆっくり息を吐き切ると、マリーを呼んだ。