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55.

全く更新出来ず、大変長らくお待たせしてしまい申し訳御座いませんでした……!

この日、セレーナは朝早くに目が覚めた。

ベッドの直ぐ側にある窓から顔を覗かせると、まだ陽も出始めたばかりで、遠くの空が少し明るく見えるくらいで辺りは薄闇に包まれている。

しかし、その薄闇の中でもセレーナの目はばっちりとレオを捉えた。

セレーナが居る窓のすぐ下の辺りで素振りをしているようだった。

邪魔をしていはいけないと声を掛けることはせず、ただ窓から静かにその姿を眺めるだけ。

眺めるといっても、見えるのは頭のてっぺんと振り上げた時に見える腕くらいのものなのだが。


(後ろ姿じゃなくて、顔が見たいなぁ……)


セレーナはレオの瞳が好きだ。

髪の間から見える黒と赤の瞳。

左右で違うのは不吉だと言われているし、彼の瞳の色もまた不気味だと言われているけれど。

黒といっても、よく見ると闇のような真っ黒ではなく、人が寝静まった深い時間の夜のようなダークブルーだったり、陽の光の下で見るとネイビーブルーのようだったり。

見る角度によって少し違う色を見せる彼の黒い瞳は見ていて飽きることが無い。

赤い瞳も血のような赤い瞳と言われているようだけれど、セレーナからするとあまり表には出ないけれど意志の強いまっすぐな彼にぴったりの瞳だと思う。

例え全世界の人間が彼の瞳を忌み嫌おうとも、セレーナは綺麗だと思う。これから先も。

そこでふと思い出す。


(あの夢の人……あの人も左右で瞳の色が違ったな。だけど、レオ様とは色が違った気が……)


セレーナが予知夢だと思っているあの悪夢は、頻繁に見ることは無くなったが今でも時々夢に見ることがある。

兄スフィーダに殺される夢はあの日以降見ておらず、夢の中のレオと呼ばれていた彼との静かだけれど穏やかな日常の夢がほとんどだった。

夢の中のあの人は、金の瞳と青い綺麗な瞳だったのではなかったか。

瞳の色が違うからか、夢の彼との年齢差故か今自分の側にいるレオとは見た目の印象が違うような気がする。

けれど、髪の色も彼の纏う雰囲気もここにいるレオととても似ている……と思う。

ぼーっとしている間に空が徐々に明るくなってきていた。

街並みの更にその向こうから太陽が顔を出し始めている。

それが合図なのか、中庭の一角で模造刀を上から下に振り降ろしていたレオはそれを一度右手で払うように振ってから近くのベンチに立てかけた。

そして、模造刀の替わりにベンチの上に置いてあったタオルで汗を拭っている。

それだけの仕草なのに、凄く洗練された動きのようでセレーナは目が離せない。

タオルから顔を上げたレオはそのままセレーナのいる窓を見上げて僅かに目を見開いた。

まさかこんな朝早くにセレーナがそこにいると思っていなかったのだろう。

僅かに驚いた表情を見せたのも一瞬、レオは礼儀正しく腰を折って一礼した。

カチャリと窓を開けて顔を出すと朝のひんやりとした空気が頬に触れる。


(まだ冷えるのに……)


大人顔負けの実力を持つ彼なのに、それでも早朝の自主練習もかかさないなんて、なんて真面目な人なんだろうとセレーナはにっこりと微笑んだ心の内で思う。


「おはようございます、レオ様」

「おはようございます。セレーナ様」

「寒くはないですか?」

「体を動かしていると熱くなりますので大丈夫です」


静寂に包まれた空気の中に自分とレオ二人だけの声が静かに響く。

心地の良い雰囲気に心が安らぐのを感じる。


「……あの」

「はい?」


おずおずとレオはまるで言いにくいことを話すように口を開いた。


「いつからそちらにいらっしゃったのでしょうか。お恥ずかしながら気がつかず……」

「ええと、いつからだったかしら……?」


こてんとセレーナは首を傾げて考える。

いつからと聞かれても時間を気にしていなかったので何と答えれば良いのか迷ってしまう。


「太陽が昇り始めるより前……かしら」

「そんなに早く……!?」

「何だか早くに目が覚めてしまって。何気なく窓の外を見てみたらレオ様がいらしたのでつい眺めてしまっていました。ご不快に感じましたら申し訳なく思います」

「いえ、セレーナ様のされることに不快を感じることはありませんので本当にお気になさらないでください。そうではなく……」


もごもごと歯切れ悪く言葉を切ったレオにまたもセレーナはきょとんと首を傾げる。


「ここで自主練習をしていれば、セレーナ様のお側にいられるような気がして……。毎朝この場所でこうして模造刀を振っているのですが、まさか顔を上げた先にセレーナ様がいらっしゃって、まさかこんな朝早くからお会いできるとは思ってもいなかったものですから……その…………嬉しかったのです……」


肌寒い空気のせいか照れのせいかはわからないが、レオの頬に赤みが差している。

不器用ながらも行動や言葉で伝えてくれるその姿に、彼の優しくてまっすぐな人柄が伝わってくるようでとても好ましいと思う。


「ふふ、私も。朝からレオ様に会えて嬉しいです」

「っ!……そ、それでは、後程お迎えにあがらせて頂きます」

「はい。待っていますね」


花がほころぶように微笑んだセレーナに、今度こそ顔を真っ赤にしたレオが一礼すると脱兎の如くその場を去って行った。

その後ろ姿を見つめながらセレーナはくすくすと一人笑ったのだった。


(きっと今日は良い一日になるわ)


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