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51.

「つまり、セレーナ殿下はその護衛騎士であるレオ卿の前だとつい感情のままに行動してしまう……ということでよろしいでしょうか?」

「はい……」


 グレイ先生の確認する声に、先程話しながらまた涙したセレーナに彼が貸してくれたハンカチを握りしめながらこくこくと頷く。


「私……レオ様がご自分を卑下されると怒ってしまったり、他のご令嬢に優しく笑いかけていると苦しくて悲しくて、酷い態度を取ってしまうのです……もう愛想を尽かされていたらどうしましょう……うぅっ」


 グレイ先生は沈痛な面持ちで優しく背を擦ってくれる。

 兄は静かに何かを考えていたようだが、顔を上げると疑問を口にした。


「他のご令嬢にってどういうこと? レオ卿はこっちに来てからは僕や騎士団員達以外には会ってないんじゃ無いかな……? 日中は基本的にセレーナと一緒だし」

「さっき、そこの庭園で白い帽子を被られたご令嬢と笑い合っていました……っ、もう、嫌われ……っ」

「待って待って、泣かないでー。大丈夫だよー」


 兄が優しくあやすようにセレーナに声を掛けて頭を撫でる。

 セレーナをあやしつつ、彼女が指さした先の庭園に目を向ける。

 そこにはもうレオの姿は無かった。

 けれど、兄は何かに気付いたようでセレーナに優しく声を掛ける。


「今日、レオ卿はお休みなんだっけ」

「はい……マリーからそう聞いています」

「じゃあ、レオ卿が帰って来たら直接聞いてみるといいよ」

「けど……そんなプライベートに立ち入ったこと……。これ以上嫌われてしまうのは嫌です……」


 もう嫌われている前提なんだね……と兄が苦笑している。

 セレーナにとってみれば、それは仕方の無いことなのだ。

 怒ったり泣いたりして頻繁に彼を困らせている。

 情緒不安定で扱いにくい主だと思われていることだろう。

 こんな自分ではダメだと解っているのに、レオの前では上手く出来ない。

 だけど、上手く出来ないから仕方が無い。このままで良いなんて思っている訳ではない。

 彼がセレーナを支えてくれるように、セレーナもレオを支えられるようになりたいのだ。

 もう呆れられているかもしれない、こんな人だったのかと失望させてしまったかもしれない……それでも。

 彼がセレーナの側に留まっていてくれる限りは、努力することを諦めてはいけない。

 まずは、今日の授業見学が終わったら一番にレオに会いに行って昨日今日のことを謝ろう。

 そうと決まれば泣いている訳にはいかない。

 セレーナはぐいっと袖で涙を拭うと両手で頬をぱちぱちと叩いた。

 その様子を見ていた二人はぎょっとして慌ててセレーナの両手を掴む。

 グレイ先生は左手を、兄のスフィーダは右手を。


「袖で擦られたので目元が赤くなってしまいましたね……」

「突然ほっぺを叩き始めてどうしたの?」

「す、すみません……」


 グレイ先生がそっとセレーナの目元を触ると、ピリッとした痛みが走る。

 僅かに顔を歪めると、室内で控えて居たはずのマリーがさっと濡れたタオルを差し出した。

 それをグレイ先生が受け取るとセレーナの目元にそっとあてがう。

 濡れタオルが当たった瞬間、また少し痛みが走ってぴくりと反応したことに気付いたグレイ先生は、あわあわとしながらも少し我慢してくださいねと優しく声を掛けてくれた。

 結局、残りの休憩時間はセレーナの介抱で終わってしまった。

 介抱と言っても、ドレスの袖で目元を擦ってしまったが故の本当に小さな擦り傷と、気合い入れの為に軽く頬を叩いただけのものだったのだが。

 たったそれだけのことなのに、二人は熱心に世話を焼いてくれたのだった。

 マリーも濡れタオルを渡してくる始末で、随分大袈裟なことになってしまったようだ。

 グレイ先生は、ああ、こんなに赤くなってしまって……お可哀想にとまるで大怪我でもしたかのような言葉と表情で、兄は、あんなに頬を叩くから赤くなってるじゃないか。そんなに自分を責めなくて良いんだよと気合い入れの為に軽く叩いただけの頬をまるで力の限り思い切り叩いたかのような言葉をかける。

 頬が赤いのだって少し血の巡りが良くなっただけの話だろう。

 マリーも、もっとご自分のお体のことを大切にしてください……と泣きそうな声で言われたセレーナは申し訳なさと共に居たたまれなかった。

 今後はもう少し気をつけようと思ったセレーナであった。

 それにしても……。


「優しいお兄様が二人になったみたいです」


 そう言ってくすくすと笑うセレーナを見て、兄もグレイ先生もマリーも嬉しそうに笑った。

 グレイ先生だけは、そんな恐れ多い……と恐縮もしていたけれど。


「私、授業見学が終わったらレオ様に会いに行ってきます」

「そう」


 先程とは違うしっかりした瞳をして告げるセレーナに兄は目を細めて短く答える。


「頑張ってくださいね。私で良ければいつでもお話くらいなら聞きますから」

「私はいつだって姫様のお側に居りますからねっ」

「ありがとうございます、グレイ先生。マリーも」


 グレイ先生もマリーも力強く励ましてくれる。

 優しい人達に囲まれて、セレーナは改めてしっかりした立派な人間になりたいと思いを強くした。

いつもお読みいただきありがとうございます。

いい加減レオくん出したい……ぐぬぬ。笑

次回、出る……かなぁ?

出て欲しいなぁ……。

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