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48.

「んぅ……?」


 朝目が覚めると左半身と手に温かさを感じて、違和感を覚える。

 瞼越しに感じる眩しさ的に、朝六時くらいだろうか。

 温かさにプラスして、手が温かい何かに包まれているような……。

 不思議に思い、しょぼしょぼする目をゆっくりと開けると金の髪が視界に映る。

 一瞬驚いたセレーナであったが、その次にとてもあどけない可愛らしい寝顔が視界に入りそこで昨夜は兄と寝たことを思い出した。

 手に感じた違和感は兄がセレーナの手を包み込むようにして寝ていたからだったようだ。

 すやすやと眠っている兄を起こさないようにゆっくりと手を引き抜こうとしたのだけれど、起こしてしまったらしい。


「セレーナ……?」


 一応目を覚ましたらしいが、まだ目は開かないようでセレーナの手を握ったままぼーっとしている。

 今まで一人で寝たことしかなかったセレーナは、兄が朝が弱いことを初めて知った。

 いつもしっかりした兄しか見たことの無かったセレーナにはとても新鮮で、とても可愛らしく見えて思わず笑ってしまう。


「ふふっ」

「……どうしたの?」


 まだ眠そうな声で尋ねる兄のその声にさえも子どもらしさを感じて、くすくすと笑った。

 状況が理解出来ていない兄が眠い目を擦りながら起き上がって首を傾げる。

 そして、漸く開いた目でセレーナをじっと見つめると優しく笑った。


「大分元気になったみたいだね」

「……はい。ありがとうございます、お兄様」

「ううん。僕が勝手に心配していただけだから。もしまた眠れない夜があったらいつでも呼んでいいからね」

「でも、お父様が昨日だけだって……」

「大丈夫大丈夫。次もまた『今日だけだぞ』って言ってくれるよ」


 悪戯っぽい笑顔を浮かべる兄に可笑しくなってセレーナもくすくすと笑う。

 その笑顔につられるように兄と二人で朝から笑い合った。


「目も覚めたし、そろそろ支度しようか」

「はい」


 丁度その時、ノックの音と共にマリーがセレーナを起こしにやって来た。

 片手に兄の着替えを抱えて。

 入室するともう既に起きていた二人に礼儀正しく挨拶をする。


「おはようございます、スフィーダ様、セレーナ様」

「おはよう、マリー」

「おはよう。着替えを持って来てくれたんだね。ありがとう」


 マリーにお礼を言って着替えを受け取るとそのまま奥のドレスや靴を仕舞っているドレッシングルームへと向かう。

 寝室を出る直前、足を止めるとくるりと振り返ってセレーナに話し掛ける。


「あ、そうだ。着替えたら一緒に朝食食べに行こうね」

「わかりました」


 セレーナの返事を聞くと、満足そうににっこりと笑ってドレッシングルームへと消えていった。

 そこではたと、兄がドレッシングルームへと行ってしまったなら自分の着替えはどうしようかと思ったところで察したらしいマリーがタイミング良く声を掛ける。


「姫様のお召し物はこちらにご用意しておりますよ」

「え、いつの間に……」


 相変わらず仕事が早い。

 マリーが部屋に入って来た時には兄の服しか持っていなかった気がする。

 ということは、その前に一度この部屋に来ていたということだろうか。

 一体何時から働いているのだろう。きちんと休めているのだろうか。

 心配になってしまうセレーナであった。


「本日は一日ゆっくりお休みになられてください」

「え、でも……」

「今日は一日フリーにしておりますので、姫様の好きなようにお過ごし頂ければと思います。陛下にも許可を頂いております」

「……ありがとう、マリー」


 きっと昨日落ち込んでいたし、沢山泣いていたから気を遣ってくれたんだろう。

 しかし、兄が側に居てくれたおかげで思っていたよりも随分元気になったのだけれど。

 とはいえ、折角一日お休みにしてくれたのだ。

 これはマリーの優しさなのだから、有り難く受け取っておこうとセレーナは思った。

 元々そんな忙しいことは無く、レオの制服が出来上がるまでの一週間、ほぼほぼ部屋に引き籠もって勉強とお喋りをするくらいだったのだから。

 着替えを手伝ってもらい、髪を梳かしてもらいながらどうしようかと考える。

 この部屋に居るとなると昨日までと変わらないし、なによりずっとレオと居るのはまだ耐えられそうに無い。

 考えている内に身支度が済んでしまった。

 今日は、パステルグリーンのふわっとしたプリンセスドレスで、チュールが全体的に使われており普段のセレーナよりふわふわした印象を与えるとても愛らしい装いだ。

 白のサテンリボンをカチューシャのように頭の上から巻くと、リボンの両端を左側に流した三つ編みに編み込む。


「どうしたの?」


 いつもは髪を梳かすだけなのにと疑問に思うセレーナに、気分転換も大事ですよと優しく微笑みながら答えるマリー。

 いつもしない髪型に、いつもよりも可愛らしい服装に落ち着かないセレーナがそわそわしていると着替えが終わった兄がコンコンとドレッシングルームと寝室を繋ぐ壁をノックしてから戻って来た。

 そして、セレーナの準備が終わったのを確認すると、セレーナをエスコートして部屋を出る。

 部屋を出ると既にレオが扉の前で待機していた。

 普通に出来ると思っていたセレーナであったが、不意打ちだったこともあり僅かに動揺してしまう。


「おはよう、レオ卿」

「おはようございます。スフィーダ殿下」

「っ、おはようございます、レオ卿」

「……おはようございます。セレーナ殿下」


 けれど、兄が挨拶しているのに続いたので、上手く誤魔化せただろうか。

 レオも何か言いたそうではあったが、皇子と皇女が話しているところに口を挟めるはずもなく、挨拶だけを返したようだった。

 その時ふと、先程今日一日をどう過ごすか考えていた答えを見つけた。


「あの、お兄様」

「ん?」

「お兄様今日のご予定は……?」

「今日は、夕方までバイオリンのレッスンだよ」

「あの……っ、私も見学させてはいただけないでしょうかっ?」


 兄の邪魔はしたくなかったけれど、今は自室にいるのも居たたまれなかった。

 それに、兄の授業風景が見てみたかったというのもある。

 普段の兄をセレーナは知らない。

 穏やかな日が多く、つい忘れてしまいそうになるがセレーナには予知夢を回避するという最大の目標がある。

 これから未来のいつかの日に兄とは疎遠になるのだ。

 そして、兄はセレーナの敵となっている。

 今目の前にいる兄はこんなにも優しいというのに。

 きっと何か原因があったはず。

 それが何かは分からないけれど、今セレーナは兄が好きで、兄もセレーナのことが好きなはずだ。

 ならば、この兄との絆を大切にしていきたいと思う。

 だから、兄のことをもっと知りたいと思う。


「いいけど……、面白くないよ?」

「いいんです。今日はお兄様と一緒に過ごしたいです」


 気遣うように声をかけた兄であったが、セレーナの返答にふるふると震えたかと思うと勢い良く抱きついてきた。


「ねえっ、マリー! 聞いた!?」

「はい」

「僕の妹が今日もとても可愛いんだけどっ」

「それは素晴らしいことですね」

「だよねっ!? セレーナは今日、僕の部屋で過ごすからよろしくね!」

「かしこまりました」


 あっさりと許可が下りたので、今日は一日兄の授業見学だ。

 今朝は普通に接することが出来そうだと思ったのに、レオを前にすると結局動揺してしまって上手く出来ない。

 彼には申し訳無いけれど、まだ気まずさが抜けていないので少しほっとしてしまう。


「そういうわけで、今日はお兄様の授業見学をしますのでレオ卿はお休みで。こちらに来てからあまり休まれていませんでしたでしょう。今日はゆっくり休んでください。あ、なんなら制服が出来るまでお休みでも大丈夫ですよ。あまり部屋から出られないのでお仕事もありませんし、ね?」


 お休みが良ければマリーに言付けておいてくださいと早口で言い切ると、足早に食堂へと向かい、室内に入ると兄のエスコートを受けて自分の席へと座る。

 レオはもう客ではなく臣下となったので、セレーナの食事中は後ろで控えているしかない。

 食事も、ここではなくメイド達使用人専用の食堂での食事となっている。

 食事も同じ席に着くことが出来ず、気まずさから言葉を交わすことも顔を見ることさえ出来ない。

 そうなると、自業自得とはいえ、どんどん彼との間に距離が出来ていくようでセレーナの心にはずんと寂しさと悲しい気持ちが積もっていった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

更新が遅くなって申し訳ありません。

お盆休み中に二回くらい更新出来れば良いなぁと考えております。

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