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2.

 シャッというカーテンを開ける音が聞こえた数秒後、小さな白い塊がもぞもぞと動いた。


「姫様、おはようございます」

「……おはよう」


 セレーナ付きの侍女が挨拶をしながらカーテンを纏めて窓の端に留める。

 あの後、亀が甲羅の中に身を隠すように布団に包まってぎゅっと目を瞑っていたらいつの間にか少し眠ってしまったようだ。

 セレーナは丸まった布団の中から顔を少しだけ出して小声で挨拶を返してから起き上がる。

 寝方が良くなかったのか、あまりにも髪がぼさぼさになっていた為、先にライラック色の髪を梳かしてもらってから、着替えるのを手伝ってもらう。

 流石は侍女と言うべきか。さっきまでぼさぼさだった髪もさらさら艶々の綺麗になって肩の辺りに流されている。


(いつもの朝の光景だ)


 そんな何気ない日常にほっと安堵した。

 まだ昨夜見た悪夢を引き摺っているのだなと、軽く首を振って頭から追い出そうとする。

 Aラインのワンピースに袖を通し、首の後ろのボタンを留めてもらった所で、おずおずと声をかけた。


「あの……」

「はい?」

「あとは自分でやるわ……。それより、温かいこうちゃがのみたいのだけど……」

「かしこまりました。直ぐにご用意致しますね」


 緊張しいの人見知り故、侍女にも遠慮がちに声をかけるセレーナに、侍女はいつもの事と特に気にする事なくにこやかに一礼をして退室した。

 侍女が退室するのを見送ってからその場でくるりと一周し、身なりを確認してからセレーナも寝室を出る。

 寝室からの続き間である主室を通り、そのままバルコニーへと繋がる外開き戸を開けると、バルコニーに設置してある錫で出来た繊細な薔薇の細工がされた白のラウンドテーブルとセットの椅子に腰掛ける。

 朝のまだ少し肌寒い空気を感じながらゆっくりと深呼吸すると、先程よりも幾分か気持ちが落ち着いた。

 そうして何度か朝の新鮮な空気を取り込んでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 紅茶を持って侍女が戻ってきたのだろう。


「……はい」


 すぅっと息を吸い込み、扉の外にまで聞こえるようにいつもより大きな声を出す。

 人付き合いが苦手なセレーナは、普段から小さな声で話す事が殆どだ。

 その為、今のような少し大きな声を出さなければいけない場面が苦手だった。

 それでも昨夜見た悪夢が予知夢だったのだとしたら、これも直した方がいいだろうとセレーナは思う。


「失礼します。紅茶と朝食をお持ちしました」

「……ちょうしょく?」

「はい、お顔の色がよろしくありませんでしたので、本日はお部屋でお休みになられた方が良いかと判断致しました。昨夜の誕生パーティーで疲れが出たのかもしれません。勝手な事をして申し訳ありません」

「いいのよ。……ありがとう」


 そういえば、昨日は7歳の誕生日パーティーだったか。

 とても長い夢を見ていた気がして、誕生日パーティーが随分昔の事のように感じる。

 一度16歳までの人生を歩んだ感覚が抜けておらず、言われるまで7歳だった事すらも忘れていた。

 悪夢に気を取られて気にも留めていなかったけれど、いつもはドレスに着替えるはずなのに今日はワンピースだったのはそういう理由があったのかと納得した。

 申し訳なさそうに頭を下げた侍女だったが、セレーナの言葉に弾かれたように顔を上げる。

 何か変な事を言っただろうかと考えていると、侍女は一度寝室まで戻り、ストールを片手に戻って来ると、それをセレーナの肩にふわりと掛けた。


「……ありがとう」

「ふふっ、今日は沢山お話してくださるのですね」


 ストールをきゅっと握ると、セレーナはぽつりと呟くようにお礼を口にする。

 すると次女は、今日は沢山お話してくださるのですね。そう言って侍女は破顔した。

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