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19.

 その姿を認めたマリーは、はあと溜め息を吐くと苦言を呈す。


「アックス卿、部屋に入る時はいつもノックをして、返事が返ってきてからにしてくださいとお話しているでしょう」

「わりーわりー。面白そうな話が聞こえて来たんで、ついな」

「そういう問題ではありません」


 目の前で繰り広げられているやり取りに、カースは勿論だがセレーナもぽかんとしていた。

 ブラウンの少しウェーブがかかった短髪に、ブラウンの瞳。そして、少し無精髭が生えている。

 髭のせいか少し老けて見えるけれど、年齢は三十代前後だろうか。

 二人の視線に気付いた男性騎士がセレーナの前に片膝を立てて跪くと、腰に下げていた剣を鞘ごと外して差し出し、騎士の礼を取る。


「お初にお目にかかります。アックス・アドラシオンと申します。気軽にアックスとお呼びください。普段は皇女殿下がお休みの間中、お部屋の前で護衛をさせていただいております」

「そうだったのですね。いつもありがとうございます」

「有り難きお言葉」


 だからマリーは知っていたんだと納得した。

 初めて騎士の礼をされたセレーナは緊張した面持ちで剣を受け取った後、公式の場でもないから楽にしてほしいと伝え、剣を返した。

 突然のことに混乱しているのを必死に隠そうとしているセレーナに相好を崩すと、剣を床に置いた後、恭しく手を取り軽く口づける。

 本来ならば剣を受け取った後刀身にキスをするのだが、気持ちを汲んでくれたのだろう。

 軽い雰囲気になったセレーナはほっとした。

 カースもいつの間にかポーカーフェイスに戻っている。

 緊張が解け先程の和やかな空気に戻ったところで口を開く。


「あれ? でも前に早起きしてお兄様とお散歩した時、見かけませんでしたよ?」

「怖がらせてしまうかもと思い、見つからないように見守っておりました」

「そうだったんですね」

「どうぞ、敬語はなしでお話ください」

「わかり……った」


 セレーナとアックスの話が一段落ついたところで、マリーはアックスに尋ねる。


「それで、何をしにいらっしゃったんですか?」


 すると先程の真面目で誠実そうな口調から一転、軽い口調に変わった。


「冷たいな~マリーちゃんは。おじさん傷ついちゃう」

「姫様、騙されないでくださいね! この人は普段こんな感じですからねっ」

「あはは、仲良しさんなんだね」


 セレーナはもう順応したようで楽しそうに笑っているが、カースはポーカーフェイスのまま何を考えているのかわからないけれど、恐らく警戒しているのだろう。

 その表情を見たアックスは、ニッと口の端を上げるとカースに話しかける。


「いや~、少年! 皇女様の護衛騎士になったんだって?」

「え、いや……」

「そうなんです! いつからにしますか? 明日!? 明日がいいですか!? なんなら今からでもいいですよっ!」


 否定しようとしたところに、セレーナが答えるとそのままの勢いでいつから働くかと詰め寄った。

 詰め寄られている本人がたじたじになっているのを見かねたアックスが助け船を出す。


「でもいいんですか? この少年、まだ入団試験も出来ない年齢でしょう」

「だけど、例外はあるのですよね?」

「確かに『入団資格である十六歳に満たない場合でも、実力又は功績が認められた場合は入団を許可する』ってのはありますけど……」

「彼のすごさは私が知っています! それに、騎士になるのが夢なんですよ! 早く騎士になりたいのならこんなにいい手はないじゃないですかっ」


 興奮気味に語るセレーナに、カースもマリーも苦笑いだ。

 アックスはカースの方に向き直ると、問いかける


「少年はどうなんだ? 騎士になりたいのなら断る理由もないと思うんだがなぁ」

「正式な入団試験も受けていないのに、こんな形で騎士になっていいのかと……」

「なんというか、真面目だねぇ。それくらいの年頃だとラッキーくらいに取りそうなもんだが」


 何気なく聞いているようだが、品定めされているような視線を感じて居心地の悪さを感じる。


「きちんとした実力を認められていない自分が皇女様の護衛になって、万が一にでも皇女様を危険に晒すわけにはいきませんから」

「なるほどな…………気に入った」


 ニッと笑うとアックスは、少年の頭をくしゃくしゃと撫でた後、セレーナに向かって言った。


「彼の言い分も確かです。はっきりとした実力が認められていない者を皇女殿下の護衛騎士にするのは危険です。それに、騎士でもない少年が突然殿下の護衛騎士になったら周りからの反発も起こるでしょう」

「だけど……!」

「なので、騎士団長に話しをして試験をしてもらおうと思います。その試験に合格すれば、団長から陛下にお話して頂けるよう頼んでみます」

「ほんとうですか!?」

「はい。男に二言はありません」


 アックスの提案に、セレーナはぐりんっと勢いよく振り向くと目をキラキラと輝かせて見つめる。


「これだったら引き受けてくれますかっ!?」

「……はい。よろしくお願いします」


 今にもぴょんぴょんと飛び跳ねそうなくらい喜んでいるセレーナに、カースも微笑んだ。

 そして、アックスに向き直ると礼儀正しく腰を折って礼をする。

 そんな彼に、頑張れよ少年と頭を優しくぽんぽんと叩いた。

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